第6話 その場所2

 教頭との話を終え、沙絵が自分の席に着くと、待ってましたとばかり瞳を輝かせて、麻衣が身を乗り出すようにして声をかけてきた。


「なになになに?なんかあった?」


 沙絵の両隣も、麻衣の両隣も、もう帰ったのか席を外しているだけなのか、姿がなかった。


「前に杉田先生から盛り塩の話を聞きましたよね?」


「ああ、その話ね」


 そう言って、また麻衣は自分の身体を抱くように腕を抱え込むと、一つブルッと震えた。


「あれ、教務の桑田先生がやってくれてるって話だったじゃないですか。それで桑田先生がお休み中は、どうしてるのか気になって……」


「やだー、沙絵さんそんなこと気にしてたの?」


「いえ、たまたま盛り塩を見つけてしまったんです。それでその盛り塩が今日ちょっと崩れているのに気が付いてしまって」


「えっ!?崩れてたの?」


 そう言うと、麻衣はまた身体を抱くような仕草をした。


「麻衣さん、怖がりですね」


 そんな仕草をする麻衣が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれてしまい、教頭にも私がこんなふうにみえてたのかもしれないなと思うと、人のこと言えないなと思い可笑しくなった。


「それ、直してあるの?」


「いえ、なんだか私も触れるのがちょっと……」


「そうだよね、できれば触りたくないものだよね。それで教頭に頼んだってわけね」


「まあ、そういう感じです」


「ところでさ……その、盛り塩って、どこにあるの?」


「麻衣さん、知りたいですか?すごい怖がりなのに」


 沙絵がそう言うと、麻衣は腕を組んで少し考える仕草をしていたけれど、


「う~ん……怖いもの見たさっていうかさ」


「さっき教頭先生に言われたんですけど、知らないほうが気にならなくていいかもしれませんよ。それと、盛り塩の存在自体も、知らないほうがよかったみたいに言われましたから、この話は麻衣さんと杉田先生と私の3人以外の耳には絶対に入れないようにしましょう」


「うん、わかった。そういうことで、盛り塩はどこ?」


「あの、昇降口の子供たちの下駄箱の上にあるんです。2か所……」


「えっ?下駄箱?毎日見てると思うんだけど、気付かなかったわ。意識していないと、案外気づかないものなのね」


「職員トイレの盛り塩にはさすがに気づいてますよね?わりと目立つところにあるし……」


「えっ?職員のトイレにもあるの?あったっけ?」


 麻衣の驚いた眼が大きく見開き、なんだか漫画で見たことがあるようなシーンだななどと、つい可笑しくなった。


「ああ、でもちょうどドアを開けると見えない場所なので、気付かなかったのかもしれませんね」


「なんか嫌だな……聞かなきゃよかったかも。意識しちゃいそうだよ」


「ごめんなさい。つい調子に乗って……」


「ああ、ごめんごめん、私の方から聞いたんだから、気にしないで。けっこう身近にあったんだなって思ってちょっと驚いただけ。それに盛り塩って、お清めっていうか、縁起物っていうか、だから怖がるものではないんだよね。わかってはいるんだけど、ふわふわさんの話を聞いちゃったからさ」


「麻衣さん、トイレ行くときは御一緒しましょうね」


 柔らかく顔を歪めたそんな麻衣が何だか可愛らしくて、ついそんな口を利くと、


「えぇ?子供じゃないんだから」


 そう言った麻衣の顔は笑っていたけれど、泳いだ眼がYESと言っているように見えた。


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