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~7-4~
「…話を切り出しておいて何なんだが、彼は良いのかな?」
老紳士の視線は私の膝の上に向いている。当然の疑問だ、今までは可能な限り仕事の話からは遠ざけて生活させてきていたのだから。
「其方が差し支えないようであれば」
恐らく今回に限っては一緒に聞いてもらった方が何かと都合が良いだろう。話の展開次第では彼も無関係では済まない予感がしていた私は決定権を先方に委ねた。
「どの道今後の行動も交えて私から話をする事になると思っています」
何より今膝から下してしまうと後のご機嫌取りは更に難度が上がる事も経験から予想できた。
「二度手間になってしまうと言う事か、それなら同席して貰う事としよう」
納得し頷く老紳士に軽く頭を下げ謝意を伝える。とは言え、事の経緯を知らない彼が今から交わされる会話の半分でも理解できるかは私にも分からなかったが。
「先ず結論から伝えさせて貰うと、今後君たちの身辺には常時監視と護衛がつく事になる」
テーブルに肘をつき掌を組んだ老紳士の言葉は大方私の予想の範疇だった。しかし表現に多少の疑問が残る。
「“今後”、と仰いましたね」
手持無沙汰な私は手慰みに彼の前髪を弄びながら問いかける。見知らぬ来客の数に体を強張らせていた彼は擽ったそうな素振りで私の胸元に顔を埋めた。
「あぁ、確かに君の言う通り今までも秘かに監視はつけていたのだがね、今後はあからさまに身辺を警護させる予定だ」
やはりか、と心中で呟いた。事の経緯を鑑みるに造反者が何らかの形で接触を図る可能性が高い新顔の主任会計士に組合が耳目を向けない理由は無い。だからこそ昨夜は酒場から早々に帰宅しこうして老紳士の来訪を待っていたのだから。
「警護を強化する意図は何です?私が事態の概要を掴んだ事だけが理由ではないのでしょう?」
情報共有だけが目的で有れば普段の個人的な来訪を装えば良いだけの話で、其れを行わないからには何某かの理由が有っての事なのだろう。逆に言えば一人で尋ねてくるだろうと踏んでいたからこその今朝の慌てよう、とも言えるのだが。
「君を主任に据えて2ヶ月、周辺に配置した監視からは注視すべき情報が全く上がって来ない」
口元に湛えられた豊満な髭を撫ぜながら老紳士は軽く溜息を吐く。
「尤も前任の件からも未だ日が浅い、相手も警戒し鳴りを潜めているのだろう」
表情には若干忌々しげな様子も見られた。
「よって今日からは敢えて監視がついている事を敵に“見せる”」
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