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~1-3~


 「すまなかったね、早朝だというのに押し掛けて」

 来客である老紳士は申し訳なさそうな笑みを浮かべながら食堂の椅子に腰掛ける


 「構いませんよ、こちらこそ散らかっていて申し訳ありません」

 手土産にと渡された食材の山を保管庫に並べながら片足で散らばった唐黍菓子をキッチンの隅へと追いやる。同居人は着替えを取りに既に自室に戻ったようだ。屋敷の奥へ続く廊下から車椅子の駆動音が聞こえた。


 「目玉焼きはターンオーバー、ベーコンとマフィンはカリカリに焼いてバターを添える、でしたね」

 3人分の朝食の支度を整えながらカウンター越しに確認を取る。


 「相変わらず優秀なコックだね君は、光物よりフライパンを握る方が余程似合うじゃないか」

 皮肉とも自虐ともつかない言葉に苦笑いで返す。少なくとも引き金を引かざるを得ない仕事を回してくる当人が口にするには少々無遠慮な台詞だ。


 彼は町の組合が抱える手配師の一人であり時折私の元を訪れては仕事の仲介をしてくれている。尤も今ではご覧の様に朝食を共にする程度には親交を深めており、私にとっては数少ない友人の一人とも言える。自分は滅多に料理などしないにも関わらず早朝に朝市を見回っては衝動買いを繰り返す困った性癖の持ち主でもある。


 「今朝は南瓜の良いのが手に入ったんだ、店主はポタージュにすれば絶品だと謳っていたよ」

 満足げに頷きながら顎鬚を撫ぜる老紳士の前にプレースマットとシルバーを並べる。


 「今から準備すると少し時間がかかってしまいますが・・・」

 既に焼き上がりの近い諸々の料理に目を遣りながら遠回しに拒絶の意を示すと彼は大仰に手を振った。


 「いやいや、必要ないよ。私は南瓜が苦手でね」

 思わず食器を取り零しそうになる。衝動買いもここまで来ると購買依存症と言って良いのではないだろうか。



 出来上がった朝食を食卓に並べ終わる頃には着替え終わった同居人も定位置、即ち私の席の隣に移動して来ていた。老紳士の挨拶に不機嫌そうに返す所を見ると未だ先程の事を根に持っているらしい。後で埋め合わせをするのは私の役目となりそうだ。

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