第143話:全てはソウジ・ヴァイスシュタインの手のひらの上で

あれから正式にクロノチア吸収宣言をしたことにより、この騒ぎについては最初から知っていたものの手出しできなかったスロベリアの兵士が何人かこちらに向かって走ってきたかと思えば俺らの前でピシッと立ち止まり…先頭にいた男が如何にも仕事モードみたいな表情で


「お疲れ様ですソウジ陛下、ティア様!」


「私より皆さんの方がお忙しいでしょうに、態々ご苦労様です」


「うむ、ご苦労なのじゃ」


なんて少なくとも俺は心にもないことを社交辞令120%の返事を返した後、ポケットから出した懐中時計で時間を確認しながら


「貴方達がここに来てくださったということは完全にこの国の警備関係をお任せしてもいいということでしょうか?」


「はい。私達の今の仕事はこの国の巡回とこの場の引継ぎを行うことですので、この後何かご予定があるのでしたら遠慮なさらず向かわれて構いませんよ。もしあれでしたら後から報告書なりを書いてお渡しいたしますし」


………………。


「あはははは、じゃあ申し訳ないんですけどお言葉に甘えて私達はこれでお暇させていただきますが…相手が何もしてこない限りはそこら辺で疲れ切って倒れてる人達は勿論、この国の住民には誰一人として手を出してはいけませんよ」


『お兄さんとの約束だぞ』みたいなノリで優しく釘を刺すと、ここに集まってきた兵士達は誰一人として表情を変えることもなく引き続き先頭の男が


「私達の国を取り返してもらう条件の一つにそれも含まれていましたし、何よりソウジ様に逆らうような真似など恐ろしくて出来ませんよ」


「……一応自分の戦闘力を大勢に見せる時は決まって私の恐ろしさを知ってもらえるように振る舞っている部分もあったのですが、その言葉を聞けたということはちゃんと効果があったようですね。これなら皆さんに安心して任せられます」


そんな言葉に続けて適当に別れの挨拶をした後この場から家に転移したフリをして、自分達の魔力・気配そして姿を消した状態で実はすぐ近くに移動した瞬間……さっきまで俺と喋っていた男が部下らしき奴に向かって


「行ったか?」


「………はい、先程まで感じていた只ならぬオーラは勿論、魔力や気配なども一切感じられませんので言葉通りお帰りになられたのかと」


「フッ、普段から纏ってるオーラや戦闘力は想像を絶するレベルで人間離れしていても所詮は元一般人とそのメイドか。最後の詰めが甘すぎる」


「特にあのメイドなんて普通に横をすれ違っても分からないくらい何も感じませんでしたからね。絶対あれと昨日戦場で暴れまわってた人は別人ですよ」


俺のは意図的に独特のオーラを発しながら生活していたりするので別にいいのだが、うちのティアちゃんをそんなに褒めてくれるとは嬉しくなっちゃうじゃねえか。ええ?


「確かにその点も気になるが今はシナリオの最終確認だ。まず無謀な戦いを挑んだ挙句ソウジ様に情けを掛けられてしまった憎きこいつ等が復讐の為今度は我々を襲いだした。そこで私達は仕方なく応戦した結果、更に事態が悪化してしまい自分達の命を守るために已む無く殺害」


「それとこの話に現実味を帯びさせる為に何人かは重症で済ませておく…ってのも忘れないで下さいよ。本当は俺だってこいつ等を全員殺したくて仕方ないですけど、それをやると今度はこっちが殺されかねないんで」


「何がスロベリアを奪還してやる代わりにこの国の住民には一切手を出すなだ、ふざけやがって。こっちは何十人、何百人って仲間を殺されてるんだぞ。それなのにこれからはみんな仲良くしろなんて無理に決まってんだろ‼」


「大体うちの陛下も陛下だぜ。そんなアホらしい条件なんて飲まないでこっちも勇者召喚を使えばあの偽善国王に頼らなくとも勝てたかもしれないってのによう‼」


「そもそも前陛下の一人息子とはいえ12歳のガキが後を継ぐこと自体俺は反対だったんだ‼」


などと物騒な会話や上の者に対する不満が騎士団の連中の口から吐き出されていくにつれ、同時に自分達の身が危ないことを察し始めた敗北者共が何とか逃げようとしているのだが…あら不思議。上手く体が動かないじゃないですか。


(どうやらあの女が対象者の体力を地面から吸っておるようじゃのう。面白い魔法を使いおる)


そう言いながらティアが指さした女はこれでもかというほど憎しみが込められた目で地面にへたり込んでいる奴らを睨み付けていた。


(見た感じ他の奴らも程度は違えどかなりの憎しみが感じられるし、そういう連中が集まって勝手にここまできたってところか……)


フッ、海老で鯛が釣れた気分だぜ。


(お主が今からやろうとしておること自体は悪いことではないのじゃが、また顔が悪者のそれになっておる。そのうち本当に魔王と呼ばれるようになってしもうぞ)


(ある意味あの計画は世界征服みたいなもんなんだからその呼び名も間違ってはねえだろ。なんたってこっちの狙いに気付いていながらも各国のトップ層はそれに逆らうことが出来ないようなことを、そして多くの国民があれを受け入れれば受け入れるほどそれは着々と進んでいくという悪魔の計画みたいなことを現在進行形で進めているんだから)


(分かっておるとは思うがそれを今後もやっていくのならば必ずわらわ達以外の味方、つまりは色んな者との繋がりを素のソウジ・シラサキの状態で作り続けていくんじゃぞ。でないと本当にただの悪い魔王になってしもうからのう)


なんだよ悪い魔王って。この世界にはいい魔王でもいんのか?


なんてことを聞いて『おるぞ』とか返されても嫌なので一人心の中でそんなことを呟きながら目の前の様子を伺い続けていると…どうやらスロベリア側の口攻撃は終わりに近づいてきたのに合わせて今度は物理的攻撃に移ろうとし始めたので今日はティアがムラマサと銃を、そして俺は昨日使えなかった二本の剣を両手に持ったと同時に奴らの所まで一瞬で距離を詰めた。


そして認識阻害関係の魔法を全て解くのと一緒に騎士団の奴らだけに向けて気絶しないギリギリで調節した殺気を発しながら


「さっきから随分と楽しそうなことをしてるじゃねえか。ハンデにお前らから見たら雑魚のメイドちゃんを俺の仲間として参加させるからよう、ちょっとこの気に食わねえ奴をぶっ殺しちゃうぞゲームに混ぜてくれよ。ちなみに俺の気に食わねえ奴は約束を、特に国同士のそれを守れねえ屑野郎な」


「………それにしても、さっきまで馬鹿にしておった者達の力量を完全に見誤っただけでなく怖くて誰一人として真面に立っておれんとは情けないにも程があろうに。よくもまあこんな雑魚が騎士団なんて御大層な役職についておったもんじゃ」


そんな雑魚だからこそこんな頭の悪い行動に出たんでしょうけどね。


「――――――‼」


「ああ? どうした急に口をパクパクさせながら頭を上下に振り始めて。あんまりやり過ぎると死ぬ可能性があるから気を付けた方がいいぞ」


「「「「「――――――‼」」」」」


「あはははは、今度はみんなで無言ヘッドバンギングし始めるとか…ぷっはははは、止め…面白すぎ。あはははは………飽きたな。殺すか」


殺気を維持したままとはいえ実は本当にツボに嵌っていたりしたので結構ガチで笑っていたのだが、このまま続けていると授業に遅れてしまうのでワザと一瞬で無表情になりそう冷徹に言い、右手に持っている剣を動かそうとした瞬間


「ちょっと待って! い、いえ…お待ちくださいソウジ様‼」


そう大きな声で止めに掛かってきたのはさっきまで俺達のことを殺そうとしていたうちの一人の女だった。


「どうした? 別に俺はお前らを殺す気なんて一切ないどころか、今から助けてやろうとしてるところなんだから余計な茶々入れんなよ」


「先程あなたは『後者を取れば二度とお前らが戦争に関わらずに済むことは保証する』と仰いました。ですが今ここでその人達を殺してしまえばいつまた戦争が起きてもおかしくありませんよね? それでは話が全然変わってくるのではないでしょうか」


「まだ誰一人としてソウジの出した提案に同意しておらんのじゃから、万が一その前に戦争が起こったとしてもそれはお主らの自業自得じゃろうて。それとも何か、今からお主が同意でもするかの?」


コラコラ、素人にまで気絶一歩手前の殺気を向けるな。そんなんじゃ真面に喋ることすら出来な―――


「し………しま、す」


へー。

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