第108話:マイカだけが気付いていた宗司の苦しみ

それから俺は寝落ちとはいえ静かに寝ていたというのに、いきなり部屋の外が騒がしくなったせいか目を覚ましてしまい


「………うるさい」


「あ~、やっぱり起きちゃった。一応お婆ちゃんが何回か様子を見に来てくれて、そろそろ大丈夫だろうってことで点滴の針を抜いていったんだけど少しは楽になった?」


「多分明日には本調子に戻ってるだろうと思えるくらいには回復した。んで、この五月蠅いのはなんだ? あんまり続くようなら家に帰りたいんだが」


別に普段なら気になるほどのものではないのだが、今は体調が悪いせいで少しの物音でも気になる…というか頭に響くため若干クレームぽく言うと


「なんかお婆ちゃんによるとティアが精神的ダメージを受けすぎて駄目になった人をどんどんをこっちに送ってきてるって言ってたから多分騎士団のテスト関係じゃないかな」


「あいつ、どんなテストをやったらこんなに緊急患者が送られてくるんだよ。つか今のあいつなら回復魔法も使え…ても時間が掛かるのか」


ちなみに俺は魔法に関して完全に素人なので無理やり魔力を送り込みまくって回復魔法を使えば瞬時に治療することが出来るが、そんな馬鹿げたことを出来るのはお主くらいじゃと言われた。


などと少し前のことを思い出しているとこの部屋の扉が開き


「おっ、だいぶ顔色は良くなったようじゃが体調はどうじゃ?」


「点滴のお陰でかなり楽になったところに誰かが大騒音を送り込んできたせいで逆戻りになりそうだ。今すぐどうにかしろ」


「うむ、確かにちと五月蠅いのう。……ほれ、これでどうじゃ?」


静かになった…というよりも今度は逆に何も聞こえなくなったってことはティアが魔法でも使ったのか。


「それで、一体どんなテストをやったらこんなに病院送りの奴が出るんだよ」


「どこで情報を集めてきたのかは知らんが騎士団に対する待遇の良さに惹かれて応募してきた者が多くてのう。それに加えて仕事についてもちと舐めて考えておるようじゃったから暇な時間にお主の魔法を使って作っておいた、フルダイブ型のVRゲーム機を使ってお主と全く同じ二週間を体験させたら殆どが駄目になってしもうた」


「それって体験してる側はソウジ君と同じ行動をするようになってるの? それとも行動とかは全部自由な感じ?」


「本来の目的は実技試験じゃから勿論戦闘行為に関しては完全自由にしておいたが、出てくる盗賊や被害者等の行動、それに現場の状況は完全再現されておるだけではなくそれを対処しないと次には進めんようになっておるから逃げ出すこともできん。つまりあのゲームを終わらせるには頭がおかしくなり過ぎて気絶するか、全クリするかの二択だけじゃ。ちなみに時間に関しては特殊な結界の中でそれをやらせたからキッチリ二週間分やらせておいたぞ」


リタイア方法が用意されてないとか鬼かよこいつ。


「んで、合格者は何人だったんだ? どうせそれを使って人間性もテストしてたんだろ」


「応募者53人中合格者が5人、不合格者が43人という感じかの。残りの5人に関しては精神的もしくは技術的にまだままだじゃがこれからシッカリと鍛えれば中々の人材になりそうという者達じゃから、お主らが許すのであれば次の面接を受けさせてやるのもアリじゃな」


「おいおい、流石に不合格者が多すぎだろ。ちゃんとアベルと相談しながら決めたんだろうな?」


「さっきも言ったが待遇目当ての者が多くてのう。まあ今回落とした者の中には元冒険者なのか体がシッカリしておる者も何人かおったし、その者らに農作業をやってみないかと声を掛けるのも悪くないかもの。もちろん面接は受けてもらうが」


その元冒険者の中にはモンスターは殺せても人間を殺すには抵抗があるせいで今回不合格にされた人や昔は結構活躍していたのに歳のせいで体が追い付かなくなってきたっていう人もいるだろうし、それは普通にアリだな。となると


「まず、お前らが目を付けたっていう5人は合格にしてやれ。あと農作業云々の件に関しては農作業とプールの監視どちらかをやりたい奴がいれば面接に進めていいぞ」


「ふむ。ならば早速治療が済んだ者から順番に伝えていくとするかの」


そう言うとティアは組んでいた腕を解きながら後ろを向き、部屋を出て行った。そして何故かそれにマイカもついて行ったかと思えば扉の鍵を閉めた。


「おい、なんで鍵なんか閉めてんだよ。これから密室殺人でも始めるのか? ちなみに今の俺は半袖のTシャツ一枚しか着てないから心臓を狙えば一発で殺せるぞ。どうやって脱出するのかは知らねえけど」


「今のソウジ君なら魔法が使えなくても結構強いくせにどの口が言ってるんだか。あと別にそういう理由で鍵を閉めたんじゃないし」


密室殺人云々は冗談にせよ、鍵を閉めた理由が分からなかったので若干悩んでいると自然な流れでマイカが俺のいるベッドに座ってきたのでふざけて


「これってやっぱり殺される感じですか?」


「ねえ、私がソウジ君の体に触って熱さに驚いたとき『別にこれくら慣れてるし』って言ったよね。あれってどういう意味なのか教えてほしいんだけど、駄目かな?」


昨日俺が寝ている間にお母さんと何か喋っていたのに加え、所々聞こえた言葉から予測するに…少なくとも体調不良の件に関しては完全に怪しまれてるな。


チッ、これ系は一番気付かれそうなティアにすらバレてなかっ……いや違う! 孤児院で色んな問題を抱えた子供達を見て、世話をしてきたマイカだからバレたんだ。


「完全に詰みじゃねえか」


「そこまで分かったならこのまま素直に教えてくれると嬉しいんだけどな~」


……取り敢えず様子見として昨日思い出した体調不良時の朝の話でもするか。それだけで納得してくれるとは思わないけど。


ということで俺はその話をしてやったついでにいつの間にかそれが怖くて体調不良時のみとはいえ自分の言いたいことが上手く言えなくなったこと、昨日も同じような状況になってしまい内心すごく怖かった時に自分の母親とは真逆の反応をしてくれたお陰か気付いた時には泣いていたことを教えてやり


「これで満足したか?」


「その話だけで納得するのはティアまでで、ギリギリ二人のお母さんが納得するかどうかレベル。つまり私は全然納得していないので続きをどうぞ」


こりゃあ少なくともこの件に関しては全部話さないと駄目そうだな。


「……さっきの話にはもう一つおまけがあってな。そんな心理的状況下でも毎回なんとか学校を休みたいと伝えると必ずさっき教えてやったような嫌味を言われまくってたんだが、嫌みの他にもう一つだけ毎回言われる言葉があった。それがなにかというと『お願いだから取り敢えず学校に行ってよ。それでも駄目だったら迎えに行くから』だ」


「もしかしてその言葉ってさっきソウジ君が毎回言われてたっていう嫌味に繋がってたりするの?」


別に俺はあの人じゃないから本当のところはどうか知らないけど、まあほぼ当たりだろうということで一度だけ頷き


「だがそうは言われてもこっちは体調が悪いから学校を休みたいと言っているわけで、最初の方はそれを無視して休んでたんだが…それをする度に一階にあるリビングから母親が父親に八つ当たりしてる声が聞こえ始め最後は必ず喧嘩が始まる。そしてそれが原因でよく母親には『誰のせいでこんなことになってると思ってんの』とも言われ続け、いつしか無理して学校に行くようになったってわけ。まあ幸いなことにこっちの世界で仲良くしてもらってる人達は全員本当にいい人達だから自分の立場とか完全に無視して気軽に休んでたりし―――」


『てるんだけど』と言おうとしたのだが、それを言い終える前に何故かマイカが真正面から俺を抱きしめてきて


「本当は顔に出してないだけで心の中ではみんなになんて思われてるか怖くてしょうがないくせに、自分が休んだせいで誰かに迷惑が掛かることを極端に怖がって病み上がりなのにも関わらず朝早くからその分の仕事を何食わぬ顔でやってたりしてるくせによく言うよ。それに加えて私達の中で一番適当そうに見えて本当は人一倍責任感があって、自己犠牲を何とも思っていない行動ばっかり取っては毎回何ともなさそうな顔をして……。今日もそうやって一部の人達が責められないよう釘を刺すために体調不良の中ソウジ・ヴァイスシュタインを演じきった挙句最後には倒れたのにそれを私とティア以外には隠し通そうとしてるくせに」


「………………」


「ティアはソウジ君が自分を犠牲にしながら今まで頑張ってきていたことにこの間初めて気付いたみたいだけど、結局どうしてあげればいいか分からなのもあって今まで通りの方法で面倒を見ていくって言ってた。……でも私は違う。だから今度からは一人で抱え込まないで…どんな形でもいいから兎に角私に頼って、ね?」


マイカが俺を抱きしめているのに対してこっちはまだ何もしてないっていうのに随分と強気なことで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る