第九章

第94話:建国宣言前日の朝 (上)

三月六日、建国宣言の前日であろうがぶっちゃけそんなことどうでもいいと思っている俺はいつも通り六時十分過ぎに欠伸をしながら居間へと向かうと


「おはようございますソウジ様。こちらが今日の分の新聞になります。最低限読んでおいた方がいい部分に印を付けておきましたので、もしお時間がないようでしたらそちらだけお読みください」


「……ありがとう」


「いえ、別にお礼を言われるほどのことではありませんので。ところでお飲み物は何に致しましょうか?」


飲み物…飲み物ね~。別にコーヒが嫌いなわけではないけど朝一では飲みたくないし


「じゃあ温かい紅茶で」


「茶葉はどう致します?」


……今までは家にあった紅茶を適当に飲んでただけだし、最近はリアにそこらへんを任せてるから茶葉の種類なんて知らねえよ。一応味の違い位は分かるけど。


「ん~、おまかせで」


「畏まりました。それでは少々お待ちください」


あー、新聞って無駄にデカいから読みにくいんだよな。こっちの世界もスマホとかで読めるようにしてくれねえかな。


などと文句を言いつつも、一応国王(仮)という立場である以上新聞くらい読んでおかなければいけないのでソファーに座り


え~と、『ついに明日ソウジ・シラサキ様が建国宣言‼』……いつの間にそんなお知らせをしたんだ? この前外出した時はみんな知ってる感じでもなかったし、となると俺が帰ってきた後か昨日になるんだが……、仕事が早いことで。


「………特に悪口が書いてあるわけでもなく、いたって普通の記事だな。って、この世界では王族が絶対的権力を持ってるんだから当たり前か。随分と都合のいいシステムですね」


「確かに王族の悪口なんかを書いたら処罰されてもおかしくありませんのでそんなことを書く人は滅多にいませんが、この記事に関しては全て本心だと思いますよ。……ソウジ様はまだ起きてからそんなに時間が経っていないようでしたので、リアーヌ先輩に聞いていつも朝に飲まれているというイングリッシュ・ブレックファスト・ティーにミルクを入れた物にしてみました」


朝はリアも忙しいから茶葉だけ貰って自分で紅茶を入れてたけど、いつもそんな意味分かんねえ名前の紅茶を飲んでたのか。初めて知ったわ。


「ありがとう」


「お礼も嬉しいのですが、私としては味のご感想をお聞きしたいな~と」


ああ、味ね。はいはい、今飲みますよ。


そう思いながら一口飲んだ瞬間、キッチンの方からリアが


「イリーナ、早く戻ってきなさい! というかご主人様は基本ご自分のことはご自分でやられるお方なんですから放っておいて大丈夫と朝言ったばかりでしょう!」


「なになに~、ソウちゃんを取られてヤキモチやいちゃったの?」


「違います! だいたい元はと言えばお母様達がこんな朝早くから来たから忙しいんじゃないですか! 一体何人分の朝ご飯が増えたと思っているんですか?」


ザッと見た感じ十一人分だな。これってうちの炊飯器だけで足りるのか?


「お~い、騎士団の寮で余分に炊かせておいたご飯を貰ってきたぞ。って、お前は早速坊主にちょっかい出してんのかよ」


どうやら足りなかったらしい。


「お兄ちゃん遅い。ソウジ様、こんな役立たずなんてクビにして私を雇ってくれません? 自分で言うのもなんですが騎士団の一族だけあって結構強いですよ」


「イリーナ‼」


「はーい! 今戻りますからそんなに怒らないで下さいよ、リアーヌ先輩」


メイドの割には騒がしい奴だと思ったら…アベルの妹かよ。


「言っておきますけどイリーナはまだまだメイドとして半人前ですのでご主人様が何と言おうと絶対に雇いませんからね!」


そんなリアの忠告に反応した母さんがまた揶揄い始めた。その為俺は二人の会話を無視して新聞の続きを読み進め……


いつもは自分で重要な記事だけを選んで読んでるけど、今日はイリーナが印を付けてくれたお陰で早く読み終わったな。まあこの後タブレットでネットニュースを見なきゃいけないんだけど。


ちなみに新聞は居間で読むようにしているがネットニュースはリビングにある自分の席で読むようにしている。理由としてはタブレットなら邪魔にならないし、何よりそれをチェックし終わる頃にはご飯の用意が出来ているので丁度いいのだ。


お前はちゃぶ台の前で新聞を広げてご飯の準備が整うのをただ待ってるだけの昭和の父親かって? そんなこと俺も分かってるし、申し訳ない気持ちで一杯だわ。でも手伝おうとすれば仕事が減るからと言われ、自分の部屋でそれらを済ませて七時ギリギリに来ようとすれば顔が見れないからと怒られるんだからしょうがないじゃん。


まあ確かにこの部屋のコンセプトがお互い一日最低一回は顔を合わせられるように、なのを考えれば俺が悪いような気もするけど。でもやっぱり落ち着かないんだよな~。


「初めてグリルという物を使ったので上手く焼けているかは分かりませんが、エメさんにはOKを貰えましたのでよろしければお召し上がりください」


とまあこんな感じで毎朝タブレットの画面なんて見てる奴の前にも優しくご飯を用意してくれる。


「いやグリルを使ったとはいえエメさんにOK貰えるってかなり凄いことなんだから、もっと自信を持っていいと思うぞ。それに盛り付けとかも綺麗で凄く美味しそうだし」


「あっ、ありがとうございます! ………やった~、私旦那様に褒められちゃった♪」


よく分からないが取り敢えず適当に褒めておいたところ逆にお礼を言われてしまっただけでなく、他のメイドの子達に自慢するように、そして何よりあの子自身が嬉しそうにしながら離れて行った。すると今度はうちの子供達が全員揃ってやってきたかと思えば


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! このきゅうりの和え物は私達が作ったんですよ!」


「最近やっとエメ先生に包丁を使うことが許されまして、今日はみんなで沢山のきゅうりを切りました」


「うちはね、袋にごま油とすりごまと鶏なんとかを入れた!」


「その後はみんなで袋の中に入れた材料を混ぜ混ぜしたです!」


鶏なんとかって言うのは多分鶏ガラスープのことだよな。というかそれしか俺は知らねえし。


……さて、この子達が何を求めているのか分かる。というか多分さっきのあれを聞いて対抗心を燃やしたんだろうけど、きゅうりの和え物を褒めるのは難しすぎるだろ。


「まさかとは思うけど他所のメイドの作った料理は褒めたくせに、私達が作った物には感想すらくれない…なんてことないわよね?」


「……料理に慣れてない人だときゅうりなんかは一口大の輪切りにするのが多いんだけど、今回は乱切りにしたみたいだな。これは誰かに教えてもらったのか?」


「流石は料理が出来るだけあって目の付けどころがいいわね。それは私達5人で意見を出し合って決めたのよ」


この子達にはスマホ類を持たせていないことを考えると日頃からエメさんとリアの野菜の切り方を観察してたってことか。しかもあの二人はプロのメイドなだけあってちゃんと料理によって切り方を変えてるからな。


ということで、そのことについて五人の頭を撫でながら褒めてやると満足してくれたらしくキャッキャッ言いながら台所へと戻って行った。


マジで料理に関しての知識があって良かった~。正直あれ以外に褒める点なんて一個も思い付かなかったからな。


などと安心していたのも束の間、今度はミナとリアがやってきて


「ソウジ様、このご飯は私がよそったんですよ!」


そう言いながら俺に向かって両手で何故かいつも使っている物より小さ目の茶碗を差し出してきたので取り敢えずお礼を言いながらそれを受け取り


「いや、なに『私も褒めてください!』みたいな顔してんだよ。ご飯をよそって褒められるのは小さい子供だけだろ」


「ガーン‼」


俺リアルで『ガーン‼』なんて言いながらショックを受ける人、初めて見たわ。


「まあお嬢様は今まで料理などしてこなかったどころか、食べ終わった食器をご自分で下げることもありませんでしたからね。こちらに来てからはご主人様の方針もあってご自分でやるようになりましたが」


「でもそれ以外はお姫様の割に結構自分のことは自分でやってたじゃん。流石に脱いだ服をリアに洗面所まで持って行かせてるところを見た時はそれくらい自分でやれよって思ったけどな。まあ立場が違うからしょうがないんだけど、少なくとも日本の庶民は三歳児でもやってるぞ」


「うぇ~ん、ソウジ様が虐めてきます!」


自分の過去の行動が三歳児以下だったと知ったのが余程ショックだったのか軽く泣き出してしまい、そのまま他のメイドの所へと走って行った。………まあワザとやったんだけど。

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