第92話:自分でも分からない
「あそこまで私達のことを褒めておいてそのまま何もせずに仕事に戻ろうとするなんて…あれは嘘だったんじゃないかって少し心配になっちゃうわ」
「俺の右腕に乗っかってるお姫様が何も言わないってことは嘘じゃないってことだろうから安心していいんじゃないですかね」
いくら本心とはいえあんなことを言うつもりは一切なかったし、何より恥ずかしいのでこれ以上この話をしたくない。
「確かに私には嘘を見抜く能力がありますし、何より人を見る目に関してはかなりの自信があります。ですがソウジ様はそれらを簡単に無効化出来てしまいますから……」
「なに悲しそうな顔しながら言ってんだ、絶対ワザとだろ。付き合いが短いといえそれくらい分かるぞ」
「その逆で…私達も先ほどご主人様が仰ってくださったお言葉が本心であることは分かっていますし、女性を褒めるのが苦手だということも理解しているつもり…で・す・が、やはり自分が好きな男性には出来るだけ多く褒めらて頂きたいですし、その為なら努力を惜しまないのが女性という生き物なんですよ」
そういえば普段は化粧なんてしない(する必要がない)くせにマリノ王国に行った時は二人とも薄くだけど化粧をしていたような……。いや待て、よくよく考えれば他にもリアが言う努力とやらに心当たりがあるぞ。
例えばミナだったらお嬢様っぽい私服を着ている日もあれば日本の女子が普段着ているような服を着ている日があったり、リアやセリアはメイド服を着ている日の方が多いせいか休みの日は毎回違う私服を着ていた気がする。だって俺なんて毎日同じ格好をしてるのにお前ら一体何着服を持ってるんだよとか思った記憶があるもん。
それだけじゃないぞ。さっきセリアも言ってたが寝る時の格好に関してもパジャマの日もあればネグリジェの日があるし、それだって結構デザインがバラバラで統一性がない。
ちなみにネグリジェの場合はワンピースタイプよりもショーパンの方が、パジャマに関しては上下ともにモフモフ素材で出来ているやつが好きである。
「まあソウジ様の場合は中々口に出して感想を言ってくださらない代わりに結構顔や態度に出してくれるので分かりやすくはありますが、やはり私達も貴方の為だけに頑張っているのですから…直接言ってほしくもありますね。例えばパジャマの件ですとか」
「ご主人様はネグリジェよりも…モコモコのパジャマを着た時の方が抱きしめてくださると言いますか、可愛がってくれる率は格段に上がりますね。その逆で前者の場合は普段と違って大人な接し方をしてくださいますし、それぞれに違った魅力を感じてくださっているのは分かりますが…一言だけでもいいので感想が欲しいのが本音です」
「………ネグリジェの時は育った環境のせいかそれを着ている本人の雰囲気と合わさって日中とはまた違ったというか、普通の女の子では出せない可愛さがあるし、パジャマの方はそれぞれが自分に似合うものを選んでるお陰で別ベクトルの可愛さがあっていい…と、思い…ます」
最初は三人の為にも恥ずかしいのを我慢していたのだが、やっぱり無理だった。あと可愛いしか言ってないし。
などと考えているうちに自分が真上を向いているせいでセリアと目が合っていることに気付き、恥ずかしさに追い打ちをかけられ咄嗟に右を向いたら今度はミナと目が合ってしまい、ならば逆をということで左を向くと…当たり前だがリアと目が合った。
「ソウジが照れるなんて珍しい…というか、初めて私をギュ~してくれた時以来じゃないかしら。貴方ってそういうことに関しては中々表情に出してくれないから少し嬉しいわね」
「ちょっ、それってどうやったんですか⁉ ズルいです、早く教えてください!」
『私もまだ一回しか成功したことがないから条件が確立されているわけではないけれど……』などと不穏なことを言いながらセリアは自然な流れで前に倒れこんできて
「こんな風に自分の胸を押し付けたら照れて…るわね、今回も。やっぱり胸かしら? でも裸の時に同じことをしても照れてくれないし……」
近い近い、顔が近い‼ そのせいでセリアの良い匂いが鮮明に感じられたり、顔の熱が伝わってくるから早く離れろ! 実はお前分かっててやってるんじゃないだろうな?
「もしかしたら、ご主人様はご自分が主導権を握っておられる時のみ恥ずかしがらずにいられるのではないでしょうか。少なくとも私の時は絶対にご主人様がリードしてくださるというか、こちらがそれをして差し上げようとしても上手くかわされてしまいますし」
「私の時も気付いたら何時もソウジ様にペースを握られているどころか、今日こそは私がと考えていても何時の間にかリードされていますし」
リアは兎も角ミナは御しやすいからな、この三人の中では二番目に楽だし。んで一番御しやすいセリアちゃんはというと……どうやら自分にも心当たりがあることに気付いたらしく若干顔を赤くしていたので軽く苛めてやろうかと思ったら、セリアは自分の手で俺の頬を軽く撫でながら
「あれは貴方の性格もあるのだと思うけどそういう理由があったとはねぇ。言ってなかったけれど実は私、意地悪する方も好きなのよ。ソウジ程じゃないけれど」
たまに人を揶揄ったり、今のセリアの表情を見るに…これはマジだな。
「あの~、知っての通り僕はMじゃないので…そういったプレイはあんまり好みではないと言いますか、取り敢えず離れてほしいんですけど」
「折角貴方が恥ずかしがっている顔を見れているというのに、私が離れると思う? んっ…ちゅ♡」
――――――ッ‼
「あのソウジ様を更に照れさせるなんて凄いですね。ちょっと後で私にもやり方を教えてください」
「う~ん、ミナはちょっと素直すぎるというか…良い意味でお嬢様過ぎて難しいんじゃないかしら。逆に普段のリアーヌだけを見て判断をするのなら結構向いてそうだけど」
「………リアはガードが堅いだけでそれさえ崩せば甘えん―――んぅっ⁉」
さっきも言った通り俺はMではない為このままやられっぱなしというのは納得いかず、取り敢えずリアから落として反撃を図ろうとしたのだが、それを先読みしたかのようにセリアが起き上がったと同時に今度はリアが俺の口を自分の口で塞ぐという予想外の行動に出てきた。
「っ、んふ……♡ 私にだって知られたくないことの一つや二つあるのですから、そんな簡単にお口を開いてはいけませんよご主人様」
………薄々感じてはいたけど、この子素の状態だとSっぽさがあるぞ。三人中二人もとか冗談だろ? そのうち、たまにはそういうのもアリかもとか思いそうで怖いんだけど。
「そもそもソウジは私達にリードされるのが嫌なのかしら? 私達としては何時も貴方にばかり任せているのではなく、その逆もしてあげたいって思っているのだけれど」
「別にそういわけではないんだけど、なんつうか甘え方が分からないっていうか…自分が何かしてあげてないと落ち着かないんだよ」
「えっ? ですが私やリアーヌには普通に甘えてくださるじゃないですか。それに夜一緒に寝る時だけの時なんかも抱き着いてきたり、頭を撫でてあげると嬉しそうにしてくれますし……。普通にそんな感じで私達に身を任せてくださればいいような気がするのですが」
確かに言いたいことは分かるし、まだ体を重ねた回数が少ないとはいえ何回かミナが言うようなことをやろうとしたことはあるのだが…どうしても駄目だった。それなのに何故か夜一緒に寝るだけの時はなんの問題もないどころか、逆に落ち着くまであるのでも~うよく分からん。
「その顔は…自分でも原因が分からないって感じかしら?」
…………。
「返事がないということは当たりみたいね。となるとやっぱりこれはマイカ案件かしら」
「悔しいですがこの件に関して私達は何かソウジ様の心に問題がありそうだということしか分かりませんからね。マイカさんは既に気付いているようですけど」
この三人が俺のことについてある程度情報を共有してるのは分かるけど、なんで婚約者でもなければ彼女でもないマイカとも繋がってるわけ? 何か俺が知らないところでちゃくちゃくと物事が進んでいる気がしてならないんだが。……別に俺にとって不利益になるようなことではないんだろうけど。
「結局なにがしたかったのか知らないけどそろそろどいてくんね」
「私達にこんな素敵なヘアゴムをプレゼントされておきながら、それはちょっと冷たいんじゃないですかご主人様」
「なに、髪の毛を結んでやればいいのか? だったら尚更どけよ」
そう言うと何故かリアは自分のエプロン紐を肩から下し始め、更にはワザと胸元が見えるように何個か服のボタンまで外したかと思えばそのまま前かがみになり
「夜ご飯までまだ時間がありますよ、ご主人様♡」
………そういうことかよ。
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