第54話:診断結果と義手

冒険者ギルドを出るとティアが


「次は病院じゃな」


「なんで病院に行くんだよ? お前の頭の検査か?」


「なわけなかろう。お主の耳の件じゃ」


あ~、なんか途中から耳が聞こえないのが当たり前になってたから気にならなくなってたわ。


「でもあれってなんで聞こえないんだろうな。まあ聞こえないおかげで良いこともあるんだけど」


「恐らくお主が言う良いことと関係しておるのじゃろ」


俺的には良いことなんだけど…果たしてこれが医者から見ても良いことなのか、悪いことなのか。


などと考えているうちに病院が見えてきた。


「病院はお主が勝手に改築したと聞いておったが…見た目は普通じゃな」


「城と騎士団の寮は兎も角、病院の見た目を現代日本風に変えるのはマズいだろ。違和感が凄いことになるぞ」


「ふむ。言われてみれば騎士団の為の敷地内に寮があるからよいものの、確かにあの建物は他の物と比べると違和感が凄いのう」


ちなみに寮はちょっと良い社宅をイメージして作ったので違和感はバリバリである。敷地外からは見えないから問題ないけど。


「でも中は全部最新なんだぞ。……ほら」


そんな会話をしながら病院の扉を開け、ティアに自慢してやろうとした瞬間


「やっと来た。診察してやるから早くこんさい」


「えっ? ちょっ、婆ちゃん⁉ いきなりどうしたんだよ?」


「どうしたもこうしたもあらん。すぐに診察じゃ診察」


そう言いながら婆ちゃんは俺の腕を引っ張って診察室へと連れて行かれ、ティアが自己紹介を終えた後


「それで、耳が聞こえなくなったのはいつ頃からだい?」


「気付いたのはティアと修行に出て初めて盗賊と戦った後だな」


「う~ん。その前の元国王様達を殺した時はどうだった?」


あの時は頭がグチャグチャでよく覚えてないんだよな。ただミナとリアが来た時には普通に耳が聞こえてたし……


「これは覚えておらんようじゃの……。まあわらわの予想では一回目の盗賊狩りの時からじゃと思うぞ」


「ん~。となるとやっぱり元国王様達という人を初めて殺したことによる精神的ショックが大き過ぎたせいで、二度目以降の対人戦からは脳が勝手に聴覚を遮断するようになったって感じか。にしてもよくソウちゃんの心が壊れなかったね。ティアちゃんがそこら辺もコントロールしているのは見ていて分かってたけどさ……」


「それはリアーヌのお陰じゃな。どうやらこやつに何かがあっても大丈夫なように持続系の鎮静魔法をかけておったようじゃ。まあそれでも継続期間は一週間。正直残りの一週間は賭けじゃったけどの」


なにそれ⁉ まったく知らなかったんだけど。……でもよくよく考えると人を殺しまくった割に落ち着いてたな。初戦が印象的過ぎるのと耳が聞こえないお陰かと思ってたが、あれはリアのお陰だったのか。


「そんなこと言いながらもちゃんと保険は掛けておいたんだろ?」


「当り前じゃ。もしもの時はわらわが何とかしておったわい」


「……それに加えてソウちゃんは疲れると熱が出やすい体質なのにそこら辺も上手くコントロールしていたようだし、その日の切り上げのタイミングやフォロー、ご飯のバランスも完璧。本当いいメイドさんを持ったもんだね」


なんかティアが凄い褒められてる。………ってちょっと待て‼


「なんで婆ちゃんが俺の体質のことを知ってるのさ?」


「そりゃー、私がこの国の王族貴族の担当医だからに決まってるだろう。ソウちゃんが熱で倒れた時のデータもこっちに送られてきてるよ」


「じゃあ次‼ なんで俺達の二週間を知ってるかのような会話を二人でしてた!」


「なんだ知らないのかい? 前の日のソウちゃんが盗賊と戦ってるところを一回分、その後の夜ご飯を食べてるところやティアちゃんと遊んでるところを毎日映像で流されてたんだよ」


そこから更に詳しく聞いてみると俺がいなくなった日にまず元国王共を殺しているところをフルで流し、修行に行ったこと、明日からはその様子を一部だが毎日国民に見せることをミナの口から発表したらしい。


では誰がそんなことに協力していたのかというと、まずティアがスマホでずっと俺の行動を撮影しそこから良さそうなのを選んで警備室に送る。そしてそれを警備室の連中が街中で流したと。


確かに俺がスマホと警備室で連絡を取り合えるようにしたり、撮影した動画を流せるようにしてはいたけどさあ……。君達使いこなしすぎじゃない?


「だから俺が戦ってる時にスマホを持ってたり、飯食ってる時にスマホ弄ったりしてたのか……。誰の作戦だ?」


「勿論わらわじゃ。どうせ修行に行くのならそれを国民に見せてやった方がお主への好感度が上がるかと思っての。どうせこれからこの国の王になろうとしておるのじゃから尚更よかろう?」


「それに加えてソウちゃんの普段の姿を見せたのも良かったみたいだね。……仕方ないと言うか、それが狙いで修業をしに行ったのだろうけど、どうしても日に日に盗賊に対してソウちゃんが冷たくなっていっていた。でも日常では今まで通りのソウちゃんが見られたことで、この子はただの殺人鬼じゃないんだなって思ったはずだよ」


確かにただただ人を殺しまくっている映像だけを見るより、日常風景も見ることで印象は大きく変わりそうだな。


「ちなみに俺が日本人だってことは?」


ギルドに行った時に冒険者の一人が『勇者を超えし異世界の王と闇天使』とか言ってて少し気になっていたのでそれについても聞いてみると


「それもミナちゃんが一緒に発表してたよ。確かソウちゃんは日本人だから人を殺すことはおろか、モンスターさえ殺すには覚悟が必要な人だとかなんとか……。多分力がありながら左腕を失った理由とこれからソウちゃんが成長していくところを意識して見てもらいたかったんじゃないかな」


「そこら辺はミナに全部任せておったが流石は王女じゃな。それで効果はどうじゃった?」


「はっきり言えば最初はソウちゃんに失望してる人も多かったよ。やっぱり異世界人っていうワードが強すぎたみたいだね」


まあこの世界の人からしたら異世界人=勇者だからな。それなのに同じ異世界人の俺があっさりと左腕を斬られた映像を見せられたら失望もしたくなるだろう。


「まあそれも最初だけだったけどね。本人的にはマイナスだろうけど…ソウちゃんに左腕がないこと、戦闘中は耳が聞こえないこと、生き物を殺すということに慣れていないこと、誰かを助けられずに苦しんだこと、逆に助けたのに罵倒されたり目の前で死なれたこと……。これが国民的にはかなりプラスになったみたいで、気付いたらソウちゃんのことを応援してる人や尊敬しだす人がどんどん増えていったよ」


俺的にはありがたいけど、人間って本当にちょろいなぁ。手のひらクルクルだぜ。


「話を戻すけど、結局俺の耳はどうなるんだ?」


「……はっきり言えば様子見しかないね。ただ耳が聞こえなくなったならまだ治せるかもしれないけれど、今回は脳が関係している。しかも理由が自己防衛となると一生治らない可能性もあるね」


「別に耳が聞こえんでもわらわは勿論ミナやリアーヌ、それにアベルクラスになればお主に合わせて動くことも出来る。それに最初は戦闘後から聞こえるようになるまで三十分程掛かっておったが、今は長くても十分程じゃし問題なかろう」


やっぱりそうなるのか……。四人には申し訳ないけどもしもの時は協力してもらおう。


「おっと、忘れるところだった。悪いんだけどソウちゃん、上だけでいいから脱いでくれるかい」


「なんで?」


「義手を付けるからだよ。ミナちゃんに頼まれて急いで武器屋の爺さんと作ったんだ」


武器屋に行ったことないから知らないけど、爺さんがやってんのか? まあ後で行くんだけど。






それから俺に義手を付けながらそれの説明をされたが結局理解できたのは、俺の左腕を元にして作ったから体のバランスとかは今まで通りに戻るということだけだった。


「付け心地はどうだい?」


「まだ左手が上手く使えないけどバランスはかなり良くなった」


「最近は慣れてきておったようじゃが、やはり歩きにくそうにしておったからのう。良かったではないか」


「……義手をジッと見てどうしたんだい? 何か気になることでもあるのかい?」


左腕が無いよりは良いのだが、義手ということもあって加工はされておらず素材のまま。ちなみに特殊な金属を使っているだか何だかで色は黒色である。まあ変に色とか付けられるよりは良いけど。


「左手の分だけでいいから手袋ない?」


「………見た目が気になるのかい?」


「別に俺は気にならないけど、他の人が全員気にならないわけじゃないだろ? だから……」


そう言うと婆ちゃんは一応用意していたらしい黒い手袋を渡してくれたのでそれを左手に着け、病院を後にした。


「お主、これからずっとその手袋を着けておるつもりかの?」


「まあ気に入ったのがあれば変えるけど、基本手袋はしてると思う。寝る時とかは外すけど」


別に体温があるわけでもないから夏でも暑くないし。


「それじゃあわらわがお主の手袋を作ってやるわい。何色が良いんじゃ?」


「作ってくれるのは良いけどオシャレなのを作ってくれよ。色は黒な」


「任せておけい。わらわは家事の他に裁縫も得意なんじゃぞ」


ティアはドヤ顔でそう言ってきたことにより少し気持ちが落ち気味だったにも関わらず、つい笑ってしまった。

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