第49話:傷だらけのソウジ (ミナ視点)

私達はソウジ様が血塗れだろうと気にせず抱き着くとそのことに気付いたらしく


「ミナと……後ろから抱きしめてるのはリアか?」


怯えていることがハッキリ分かる様な小さい声で喋り始めましたのを聞き、早速リアーヌは優しい声で


「まったく、なんでこんな無茶をなさったんですか」


「何も考えずに一人で来たら左腕斬られっちゃってさ……色々あってこうなったわ」


「色々って、ソウジ様……。私達はそこが一番知りたいのですが」


もしもの時は私達が手を汚すと伝えてあったし、何よりあんなに人を殺すのを怖がっていた方が何故こんなことをしたのか気になっていたためそう聞いてみました。


するとソウジ様は変わらず小さい声で、さっきまでのことを思い出しながらという感じで


「まず初めに元国王を殺したらそのことによるショックでゲロって……もうみんなを見捨てて日本に逃げるかとか、ミナ達に助けを求めるかとか、色々考えて出した答えが……国王になるどうこう関係なしに取り敢えず俺の家族を、好きな女の子達を守る為に邪魔者は全員殺す……だったわ」


「も~う。いつもは子供っぽかったり、甘えん坊だったりするのに…たまに凄くカッコよくなるのは何なんですか? そんなのズルいですよ……」


いつもならすぐに私達を頼ってくれるのに……。こういう時だけ一人で頑張ってカッコつけるなんて……ほんとズルいです。


「泣かれているご主人様、大人なご主人様、カッコいいご主人様……。一日に三つも見せてくださるとは随分と気前がよろしいですね」


「一つ目と三つ目は狙ってやったわけじゃないから忘れろ。特に一つ目」


段々とソウジ様が落ち着き始めたことを察した私達はここで何か下手なことを聞いて振り出しに戻る可能性を恐れ、少しの間何も喋らないで抱きしめてあげていると


「ふ~う。左腕の治療は終わりましたよご主人様」


「ダメ元で聞くけど俺の左腕はもうくっ付けられない感じ?」


「今のご主人様の左腕は死体のようなもの。死んだ人間を生き返らせられないのと一緒でそれを元に戻すのは無理です」


そう、こればっかりはリアーヌどころか超一流のお医者様でも出来ないこと。つまり一ミリの希望もないという意味なのです。


「そうか……。じゃあそこら辺に俺の腕が落ちてるだろうから探しといてくんね? いつもの腕時計が付いてるはずだからすぐ分かると思うし」


ダメ…。リアーヌだって我慢しているのだから私も我慢しな―――


「そんなこと言われなくともやるに決まってるじゃないですか! ソウジ様はもう少し自分の体を大事にしてください!」


(お嬢様……)


分かっています。分かっていますからそんな同情するような声で私のことを呼ばないでください。じゃないと私、泣いてしまい―――


「一応そこら辺に転がってる死体関係は全部魔法で時間を止めてあるからどっかに纏めて保存しといてくれ。ついでに全員いるかの確認とセリアの偽装死に使えそうな遺体を選んでおいてくれ」


「ご主人様?」


泣きそうなのを我慢していたせいでソウジ様の異変に気付けなかった私はリアーヌの少し焦るような声を聞き、何かマズイことが起こるのかと思った瞬間


「んじゃ、あとはよろしく」


彼はそう言い残し、再び私達の前から消えてしまいました。


「………ソウジ様? ソウジ様⁉」


「落ち着いてくださいお嬢様。恐らくご主人様はどこかに転移なさったのでしょう」


「落ち着く? こんな状況で落ち着いてなんていられませんよ! 今度ソウジ様に何かあったら私、わたし……」


何となく頭の中にあったことを自分の口から発してしまったことにより、今まで我慢していたものが溢れ出してきてしまい……


「私、少し前にソウジ様と約束したんです。『絶対にソウジさんのことは守ります』って……。なのに私はあの方を守ってあげられなかった。それどころか片腕を失っただけじゃなくあんなに怯え、弱るまで私達の為に一人で頑張って……うぐっ、わだじやぐぞぐじたのに」


ついには泣き出してしまった私をリアーヌは優しく抱きしめてくれて


「お嬢様のお気持ちは痛いほど分かります。ですがティア様の言う通りご主人様の選択を否定するわけにはいきません。あの方が自ら茨の道を突き進むと仰るのであれば私達は共に歩み、困っていれば手を差し伸べてあげるだけです。それにこういう時に婚約者として他の方達とは違った慰め方を出来るのは私達だけですよ」


確かにあんなことや、そんなことを出来るのは私達だけの特権……。なんだかそう考えると悪い気もしませんね。もちろん今回の件はかなりショックでしたし、もう二度と同じようなことは起こって欲しくありませんが……。


そんなことを考え始めたお陰か大分落ち着き、後でリアーヌの気持ちも聞いてあげなければと思った瞬間


(ミナにリアーヌよ、ちと良いかの?)


(はい、私達は大丈夫ですが……。今ソウジ様がどこにいるのか知りませんか?)


(あやつなら今わらわの隣におるぞ)


どうやら私を落ち着かせる為に冷静なフリをしていたらしく、ティアさんの言葉を聞いたリアーヌは安心したと分かる声で


(良かった。それでお二人は今どちらにおられるのですか?)


(今は盗賊を探して転移の繰り返しじゃ。ということで今日から二週間ほどこやつの修行をするから帰れんかもしれんが心配せんでよいぞ)


(ちょっ⁉ それってどういうことですか!)


(落ち着くのじゃミナよ。それよりお主達に頼みたいことがあってのう……)


ティアさんの頼みごとを聞いた私達はそれを承諾し、私達はソウジ様のことを一旦彼女に任せることにしました。


「ティア様が一緒ですし、あとはご主人様を信じて待ちましょう」


「はい……。ですが離れ離れだった分は絶対に埋め合わせしてもらいます」


何をしてもらうかは今後ゆっくりと考えるとして、まずはソウジ様に頼まれた仕事を片付けなければ!

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