第35話「たたかいのなかで」
「ふッ」
大きく飛びずされば、今まで居た場所を竜の巨体が通り過ぎる。その巨体が持つ力、重量は想像に難くなく、かすっただけでも重傷を負いかねないだろうッ。
「流石竜と言うべきかッ……いや、今更だッ」
竜を斃したことがあるとは言え、あの思い出したくない竜が強さ的な階位で竜全体のどれくらいの位置にあるのかを俺は知らないッ。慢心せざるべきではない、ほぼ格上とみて当たらねばならないとしたら、あっさり罠を見切られたこととて不思議はないのだッ。
「賢い獣は罠にはかからないというのは、何の出典だったかッ」
「おーっほっほっほっほっほ」
思い出しているような猶予をこの竜は与えてくれない。
「炎よッ」
「おぼっ?!」
かと思いきやけん制に放った魔法の炎に顔面からツッコんだりもして。
「うぷっ……やってくれますわね」
「当然だッ! 実力を確かめるのに逃げの一手では意味がないッ」
へその前で両拳を突き合わせるようにして俺はポーズをとるッ。ぶっちゃけ、筋肉を誇示する余裕なんてないのだが、それはそれ。ましゅ・がいあーであるからにはポージングは欠かせないのだッ。
「だが――」
先ほどの魔法、命中したものの元々けん制用、ダメージらしいダメージはほぼ無いとみて良いッ。
「説明しようッ、実は割と窮地なのだッ!」
巨体にモノ言わせた竜の攻撃は一撃当たれば終わり、当然すべて避けなくてはいけないがこちらの攻撃はけん制程度のモノなら当たったところで、直前の焼き増しにしかならないッ。大技を当てたり罠にかけるにはそれなりの隙を生じさせなくては、また飛んで回避されかねない。
「こんな状況だというのに、アレなのだッ」
そう、実力を認めさせつつ適度に嫌われなければいけないという無理難題。勝つとか実力を認めさせるだけなら問題はないッ。
「おーっほっほっほっほ、もう攻撃は終わりでして?」
「あえて説明すまいッ」
と言うか、戦う相手に教えると思うのだろうか。
「さて――」
戦場となっているここは隣国。正体をバラす気はないが、それでも派手な破壊の跡が残るような魔法を使うのは抵抗があるッ。
「落とし穴? あれはあとで埋めれば問題ないッ」
「どなたと話してらして?」
「説明しよう、独り言だッ」
まさか竜にツッコミを入れられるとは思わなかったが、それはさておき、周囲に被害を及ぼさないことを考えるなら、使うのは幻術系の魔法だろう。幻だというのに脳が錯覚を起こし実際にダメージを受けてしまうようなかなり強いタイプの幻術。実を言うと、先ほどのけん制に使った魔法もこれにあたる。
「理由は簡単だッ」
引火による山火事とかが笑えないからである。とは言え、元獣であるなら火が有効なのかは試しておきたかった。怯んだところを見ると、俺の予想も間違いではないと思うのだがッ。
「広範囲を燃やすのはなッ」
さすがに燃焼とかの関係で幻術と見破られるリスクがある。
「むぅ、どうしたものかッ」
とは言え竜も問うてきたが、ここで攻撃はおしまいと言うのはあり得ない。何かしかけるべきなのはわかっていた、だがッ。
「ブレスの効果がまだ不明なのが――」
罠を回避するのに使用したアレの詳細が分かっていないのが、不確定要素だった。
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