第33話「問い」

「まず聞いておきたいことがあるッ!」


 勢いをつけるため筋肉を誇示するようにポーズをとりながら、俺は切り出した。内容は種族が違いすぎて子供なんてできないのではと言う話である。


「おーっほっほっほっほ、何をおっしゃるかと思えばそのような話。まったく問題になりませんわ。根拠もなしにわたくしが貴方の子供を産んでも良いと言うと思って?」

「なッ?!」


 自信たっぷりに笑い飛ばされ、俺の希望は潰えた。


「そうですわね、ですが説明をしなければその懸念もわかりますわ。しかし、どこから説明したものかしら……そうね、まずはわたくしがこの姿になった経緯から話すのがいいですわね」


 憮然として絶望に言葉を失っていたからだろう、竜は勝手に話し始める。


「そもそも、わたくしはもっと小さな体で草を食んで仲間と暮らしていた今とは全く別の生き物でしたわ。わたくしも群れの中で育ち、やがていつかは仲間の雄の子を産むものだと、そう思っていたある日――」

「待てッ」


 気落ちしていた俺ではあったが、その内容は聞き逃せないものがありすぎたッ。


「元々別の生き物だとッ?!」


 どこからともなく現れていた魔物は、動物が変異したモノだった。物語にはよくありそうな設定ではあるッ。だが、それならば気になることがあった。


「一体どうしてそんな姿に」

「それをここから説明するところでしてよ? あれは、いつもと変わらない普通に日の事。ちょっと変わっているけれど大好きな草を食んでいたら急に下から何かが噴出して、わたくしの身体に入り込んできましたの」

「噴出し……入り込むッ?!」


 恐らくそれがこの竜を別の生き物、おそらく草食な動物の何かから変異させたのだろうッ。


「ええ、説明が難しいのですけれど、入り込んできたモノはわたくしに力を与え、同時に一部の例外を除いた人間を憎むように仕向けたかったみたいですわね」

「何だか聞き捨てならない内容がちらほらあるのだがッ? その経緯で何故お前は人間に敵意を抱いていない?」

「それについては、たぶんわたくしが大好きな草の仕業ですわね。食べると何かを傷つけようとかそういう気持ちが無くなってしまう――」


 ああ、関所でそんな効能のあるハーブがこの国の特産品だとかそんな話をしていたなッ。おまけに魔物避けにもなる、と。


「つまり、人間に敵意を持たないのはその草のおかげとッ?」

「他に理由を思いつきませんわ。それに物事について考えたりできるほど頭がよくなったのは、この姿になってから。仲間たちは驚いて逃げ出してしまって、相談できる相手もいませんでしたもの」

「成程なッ。ひょっとして助けてほしいというのは、知恵を貸してくれと言うのも含まれているのかッ?」


 知恵を貸すだけなら、実力を確かめる必要はない。だが、話を聞く限り求められているのは力をもっての助力だけとも思えない。


「おーっほっほっほ、流石はわたくしと番になることを前向きに考える人間ですわね」

「いや、なんでそうなるッ?!」

「あら? 前向きに考えていなくては子供ができるかどうかなんて質問は飛び出してこなくてよ?」

「あ」


 早まったッ。これはひょっとして盛大な自爆をしてしまったのだろうかッ。問いかける相手も居ないが、居たら居たで肯定しか返ってきそうにないのが怖かった。











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