ググゥとリリィの短い季節

藤澤歩人

第1部　「孤独の国」編

その渡り鳥の一族は

お互いの命が尽きるまで

誓い合った一羽の相手だけを愛し

その名を残すことなく生涯を閉じると云う

その渡り鳥の一族は

『習わしの海域』で雌雄別れて過ごし

晩夏の風に帰郷の音を聞くとき

古からの標に従い『祈りの島』を目指すと云う

その渡り鳥の一族は

千羽もの群れの中から

最も素敵な匂いをもつ妻を探し

無言でその傍らに降り立つと云う

その渡り鳥の一族は

最愛の相手と生涯を分かつと誓ったとき

くちばしとくちばしを絡ませ

求愛の誓いを踊ると云う

その渡り鳥の一族は

誓いの滴を肺の奥底で染め

失われることのない海を懐に抱き

愛しい相手の姿を映し続けると云う

そしてこの物語は

一羽の渡り鳥が死に別れることなく妻を失い

この『諦観の海』を飛び去ったところから静かに紡がれていくことになる。

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