ロリな天使が今日もゆく!!
じゅん
なんで生きているんだろう?
はあ…。オレはなんのために生きているんだろう…。
自分がなんとなく、日々を過ごしているようにしか思えない。特にやりたいこともなく、目標もなく、とりあえず学校に行って、とりあえず課題を提出して、とりあえず単位をもらって。そうやって大学生の1年間は終わってしまった。なんとなく面白いかなと思って、理学部の物理学科に入ったが、実際に1年間勉強してみてどうにも面白くないことに気づいてしまった。
4月からまた新しい学期になるが、とてもこんなモチベーションでは、勉強を続けていける自信もない。かといって休学するにしても親に迷惑がかかる。それに休学したところで、自分が何がしたいか決まっているわけでもないのだ。同期の友達はみな一生懸命勉強している分、自分との温度の差にいたたまれなくなることがある。がんばっているふりをするのも、もう疲れた。
結局、自分に中身がないことに気がついてしまったのだ。生きていく中で、要領よく物事をかたづける能力は手に入れたが、情熱をもって何かをしようと思ったことは一度もない。そうだ、オレはいつも中途半端な人間だ。自分になんの意思もなく、ただ敷かれたレールを歩んでいるにすぎないのだ。
はあ…。いけない、またため息が出てしまった…。
オレは今日も、無意味にリビングのソファでテレビを見ている。夕方のワイドショーでは、芸能人が評論家気取りで社会問題について議論している。でも、その声はオレの耳には届かない。風のように通り過ぎてしまうのだ。そうしてまたオレはため息を繰り返す…。
「兄貴、なにか悩みでもあるのかい?」
ふりかえると、ドアの前にランドセル姿の妹が立っていた。きっと、学校から帰ってきたのだろう。彼女はそのままオレのほうに歩み寄ってしっかりと右肩をつかんだ。
「よかったら、なんでも話聞くぜ。」
きりっとした目つきでかっこよくそう言ってきた。うわ、なんだろ…。すごいめんどくさい…。なんでもないと言いたいところだが、嘘をつくとどこまでも追及してくる。そっちのほうがさらにめんどくさいのだ。オレは自分に生きる目標がないのだという話を小学生の妹にした。うわ、なんだこの羞恥プレイ。
「わかるよ、わかる。お前の気持ち十分わかるよ。わたしもそうやって悩んでた時期あったわ。」
妹は何かを確信したかのようにうんうんとうなずいた。いや、お前まだ10歳だろ。オレお前と同い年のころ鼻くそほじくりながらへらへら笑ってたぞ。
「兄貴、人間の特権について考えたことがあるか?」
妹は隣にちょこんと座って一緒にテレビを見ながら、突然語りだした。
「特権…?」
「そう、特権だ。動物にはなく、人間にしかない特権だよ。」
「ものを考えることとか、会話をすることとか…かな?」
オレのごまかしたような回答に、妹はふうっと一つ息をついた。この息遣いは、妹が何か大切なことを言おうと思ったときの癖なのだ。彼女はふとオレのほうを見上げて、まじめな顔で言った。
「もちろん、それらも人間にしかないのかもしれない。でもたとえば、ライオンだって獲物をいかに早くとらえるかについて考えをめぐらすことがあるかもしれないし、イルカだって超音波で互いに意思疎通ができるだろ?実はわたしたちには見えないだけで、彼らは思ったよりもいろいろなことをしているんだよ。」
「確かに…。」
妹に見つめられて、オレは少しドキドキした。思わず視線が泳ぐ。どうもこのモードの妹には弱いのだ。完全にペースをもってかれてしまう。
「じゃあ、人間がいる意味ってなに?生きている意味ってなんだ?」
妹は静かに、視線をそらさずに訴えかける。一体、何を言いたいのか?てんでオレには見当がつかない。まったく、妹の考えていることは全然理解できないのだ。
「さあね…。まったくもってわからないよ。」
あきらめたように下を向くオレに、彼女はやさしく声をかけた。
「そうなんだよ。わからないんだよ。人間が生きる意味なんてだれもわからないんだよ。でもそれを考える力が、人間にはあるんだよな。
動物には、それがない。彼らはおそらく、生きることが念頭にあるんだ。生きるために、こうしようとかああしようとか、そういうことを考えるんだ。考えることも、会話することも、生きるためにやっているんだ。ストレートだよね、かっこいいよね。たぶん彼らは飲食することと繁殖すること以外は人生の目的じゃないんだ。
でも人間って、たぶん動物とは違う。食べたり飲んだり、繁殖するために生きているのかと言われたら、そうじゃないよね。もちろんそれも人生の要素ではあるけど、全体じゃない。むしろ逆だよね。何かをするために、生きているんだよね。だから迷うんだよね。動物みたいに、オレは食べるために生きているんだ!って声高に言えたら、どんなに気持ちいいだろう…?でも、はっきり言えないからこそ人には価値があるんじゃないかな。
特に理由もなく、なんの目的もなく、この世界に投げ出されてしまったわたしたち。なのにいきなりしっかりとした目的をもってやりなさいって言われても、困るよね。だって、目的なんて誰かが与えてくれるわけでもない。自分の頭で考えて、決めていかなくちゃいけないんだから。そう簡単に決めれるものじゃない。中身がないのは当たり前だよ。無理に誰かがつくった中身を詰め込む必要はない。
兄貴は、まだ若いんだし時間もあるんだから、いろんなことやってみればいいと思うよ。自分が経験していないこと、さまざまなことにチャレンジしてみればいいと思う。その中で、きっと大事なこととか、震えるくらい好きなことに出会えるんだから。そのときまではむしろ中身がないほうがいいんだよ。」
オレは妹の声に聞き入りながら、なんだか温かな気持ちになった。確かに、妹が言った通りかもしれない。目的を即座に決めてしまったら、自分の生き方を決めつけてしまったら、それはそれでもったいない人生じゃないか。オレはオレのままでいい。生きていく中で発見したりわかったりすることがあるんじゃないか。それがオレをつくっていくんじゃないのか。新しいバイトでもはじめてみようかな。
「それじゃあさ。ゲームでもやろ♪」
気づくと、妹はもうTVゲームをする準備をしていた。テレビの画面にはもう格闘ゲームのスタートボタンが点滅している。
「これも、新しい経験でしょ?」
照れたように妹がにやりと笑った。彼女はこのゲームが大好きなんだが、オレは口実を言って断っていたのだ。仕方ない。なんだか勇気づけられた恩もあるし、付き合ってやるか。
「しゃあねえな。やるか。」
オレたちはゲームをはじめた。
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