2-7.

 「犯行に使われた携帯電話の出所が、未だ不明ってのはどういうことなんだ」

取り調べを受ける国枝の様子を小窓から窺いながら、権藤が訊ねた。

「どういうことも何も、そういうことですよ……」

疲れた様子の飯島が、口を尖らせる。

「SNSで上の階の住人の愚痴を言っていたら、ある日突然差出人不明の普通郵便で駅のロッカーの鍵が送られてきて、ロッカーの中に携帯電話と殺人の方法が書かれた手紙が入ってたと言ってるそうです」

事が終わったら、携帯電話は同じロッカーに戻し、鍵は掛けずに立ち去れ、手紙は読み終わったら燃やせと書いてあったそうだ。契約者となっていた人物は、自分の名義で携帯電話が契約されていることすら知らなかったという。

「……全て事実だったとしてもですよ。そんな得体の知れない誰かから提案された殺人計画を、書いてある通りに実行するなんて、どうかしてます」

動機は、上の階から毎日のように聞こえる宴会の騒音に耐えかねて、というようなことを、先ほどやっと少しずつ話し始めたところだった。

「その程度で本当に人が死ぬなんて、思ってなかったんだろうさ。日頃の腹いせに、ちょっと危険な目に遭わせてやろうとか、その程度だったんじゃねえか」

と、権藤は独り言のように呟いた。

「……でも、目撃者がいなかったら、本当に事故か自殺として処理されてましたよね?」

「……ああ」

なにしろ国枝は、被害者に一切手を触れていない。

「もしも、歌ヶ江さんがマンションに来なかったら」

当人が殺意を認めなければ、たとえ国枝が関わっていたことがわかったところで、殺人事件にはならなかった。それが、歌ヶ江が現れた途端に風向きが変わったのだ。

「あいつを呼んだのは春日原だろう」

「そうなんですよねえ……」

本人は飽くまでも「早く帰りたかったから」と言っていたが、目撃者ですらない彼は、申し出れば遅からず解放されたはずだ。

「前に権藤さんに言われてから、春日原くんのこと私も気になって、少し調べたんです」

ボソボソと飯島が話す小声を、権藤は視線で促した。

「春の事件より前にも数件、目撃者や容疑者、参考人として関わった事件がありました。いずれも浮草署の管轄ではなく、当時は未成年だったこともあって、重要視されていませんでしたが」

確認できた限りで数件ということは、ややもすればもっと出てくる可能性もあった。更に、

「管轄した署に同期がいたので聞いたんですが、やっぱり、変な男の子がうろうろしてて、気がついたら事件が解決してたって言ってました」

「気がついたら、なあ」

フン、と気に食わなさそうに鼻を鳴らした。

「偶然、なんでしょうか……」

飯島が、怪訝そうに呟く。事件が早期解決するということもそうだが、事件に遭遇する頻度についても。

「偶然と言うしかねえだろ、今は」

「そうなんですよねえ……?」

再び同じ言葉を呟き、飯島はしきりに首を傾げるのだった。

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