第5話 最弱の職業は、実は最強なんです
「……ブゥ、キィ、ヤァ。あっ! 武器屋だ! ほんとにあるんだ!」
「あるわいっ! つーか、逆に現実の世界であまりないだろ! イスラエル以外」
「うひょーー! 憧れの、武器屋っ! 武っ器っ屋だっ!」
「憧れの、って。おまえノーゲ世代だろ。武器屋なんて出てくるゲーム、したことないだろ」
口を尖らせつつ、死織は武器屋のドアを開く。
「ゲームはしたことないですけど、武器屋は知ってますよ。それとそのノーゲ世代って呼び方やめてください。なんかあたしがゲームしたことないみたいじゃないですか」
「したことないだろ? おまえ、ゲーム規制法が施行されてから生まれてるじゃねえか」
「いまは、学校の授業でやるんですって、『ゼバウス』とか」
「え、授業で『ゼバウス』やってんの? 関係ないじゃん、それシューティング・ゲームじゃん」
「あたし、結構成績良かったんですよ」
ヒチコックは死織について薄暗い店内に入り、目を輝かせた。
店内は木材を組み合わせたログハウス調。天井に太い梁が走り、明かり取りの窓が多く、店内は明るい。軽井沢にある紅茶とジャムの専門店みたいな感じだ。でも、ショーケースとか壁とかに飾られているのは、瓶とか缶ではなく、すべて武器。
ショート・ソード。ヌンチャク。トンファー。そして革鎧。鎖帷子。ヒノキの棒。
「うわー、なんでもあるー」
「一応ここは、『はじまりの村』だから、武器屋が置いてる装備は初期用ばかりだぞ。値段は安いが初期状態の所持金は1000Gだろ? あまり高いもん買っちまうと、あとが大変だからな。あと、最初にこれだけは注意しておく。この『ハゲ・ゼロ』は基本プレイヤー・キルが存在する。物理攻撃は、味方に当たるし、当たればダメージもあるから注意しろよ。で、ヒチコック。おまえ、そういえば、
「ああ、あたしはガンナーです」
「…………、へ?」
「ガンナーです」
「……へ? ガンナーなの? ガンナーにしちゃったの? そこもやっちまってるの?」
「なにを言ってるんですか?」ヒチコックは死織の方へ向き直ると、自慢げに胸を反りかえらせた。「ガンナーは最強ですよ」
「最弱だろっ!」
「えー」
「『ハゲ・ゼロ』では、銃器は拳銃しか出ないんだ。マシンガンとかアサルト・ライフルはスーパー・レアでまず出ない。拳銃で戦うことになるんだぞ。しかも、ここはプレイヤー・キルがあるから、戦場のガンナーの銃弾は、敵より味方によく当たる。いわゆる地雷
「いや、そんなことありませんって」
「あちゃー、ジョブは教会でしか変更できないけど、この村に教会なんてないし、おまえ、それどうするんだよ? 事前に攻略法を調べたりしてこなかったのかよ」
「わかってないなぁ、死織さん」
ヒチコックは、ノンノンと人差し指を左右に振る。
「ガンナーは、最弱なんかじゃないですよ」
「どうして?」
こほん、と咳ばらいをしたヒチコックは、解説をはじめる。
「死織さん、なんでもありの格闘技で、武器の使用が可能だった場合、最強なのはなにか知ってますか? それは『コンバット・シューティング』です。だって、そうじゃないですか。周囲を数人の敵に囲まれても、彼らを10秒以内に全滅させることができるんですよ。と、
「え? そんなこと
「いらっしゃい」
カウンターの向こうに座っていた小太りのおっちゃんが立ち上がった。がっちりした体格。太い腕。禿げ頭だが、鼻の下に口ひげをたくわえ、笑顔は少年のよう。
「武器屋へ、よこうそ。店主のタカハシです。うちは、安くていいものが、なんでもそろってるからね。ゆっくり見て行ってよ」
「おう、こんにちは」死織は片手をあげてタカハシへ近づく。「俺じゃなくて、この新人の子が武器を買いに来たんだけど、
「ああ、銃か。ジョブがガンナーとは珍しいね。銃ならこっちだよ」タカハシは人差し指を立てると、2人をすみのショーケースに案内する。「うちにあるのはこれだけだな」
ガラスケースの中に展示された銃は2丁だけ。死織を押しのけて、中を覗き込んだヒチコックは、興奮の声をあげた。
「うわー、ここでもう
〈作者註〉 イチロー・ナガタ~昭和の時代に『月刊GUN』や『コンバット・マガジン』で活躍したライター。
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