6年2組 02番 秋山冷

6年2組 02番 秋山冷あきやまれい


 今日の夜、お父さんと砂肝だめしに行きました。


≪鳥?≫


 県境にある薄暗い、300メートルほどのトンネル。そこをライトの明かりだけを頼りに歩くというものです。


≪気をつけてね≫


 未舗装の部分もあってか、踏みしめた地面がジャリジャリと音を立て、そのたびに乾いたホコリっぽい匂いが鼻を突きました。


 シンと静まり返っているようで、しかしうっすらと風の音が聞こえてくる。風が吹くたび、4月にしてはやけに肌寒い感覚をおぼえました。そしてその風の音はさながら、なにかのうめき声のようにずっと聞こえ続けます。


 トンネルを進むたび次第に大きくなる風の音。しかしそれは、トンネルを抜けた瞬間パッタリと止み、気づくとじんわりとした汗が一粒、頬を流れて行きました。


 とまあ、ここで私の肝試しは終わりです。


≪国語、100点≫


 結果として何も起こらなかったけど、すごく疲れたし、おまけにすごく憑かれました。


≪おまけで何か起こってるね≫


 何も起こらなかったのはおそらくですが、私含め家族は霊感が強いので、霊を上手く避けることが出来るのだと思います。


≪へぇ〜≫


 実際私の一家は、実家の村では『野深やみの王家』と呼ばれています。


≪なんて?≫


 なので霊感のない人なら、間違いなくあのトンネルをくぐった数日のうち命を落としていたことでしょう。それだけ深い怨念が、あそこには渦巻いていましたので。


≪こわい≫


 あっ。そういえば、先生に謝らなければいけないことが一つあります。


≪ん?≫


 たった今先生は、私の書いた日記を見ているあいだ、私のおこなった心霊スポット巡りを脳内で想像しながら読み進めたかと思います。



 つまり今先生は、私の経験を追体験しました。


 トンネルをくぐって、歩いて、感じた空気や聞こえた音や漂う匂いも全部、頭の中ではっきりと、思い浮かべました。


 これってもう、


 だから、ということは、なんですけど。多分なんですけど、先生の後ろにもう、あのトンネルに渦巻く霊が来てるんじゃないかなぁって。そう思うんですよ。


 なのでもし、先生に霊感がなかったら、ごめんなさい。その時は、ごめんなさい。




────────────────────




【先生のひとこと】


マジ......?

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