ノヴェレッテ ~Novelettes~
ざき
2018.7.31~2018.8.15
暗い森を思う。陽の光すら拒む
(2018.7.14)
老後の話。妻に「もし俺が先に死んだら悲しんでくれるか?」って訊いたら「そんなことしてる暇はない」って答えた。冷たいやつだと
(2018.7.31)
「ねえママ、どうしておほしさまは、上からおっこちてくるの?」
「うーん、きっとミィちゃんと遊びたくなって、お空から降りてくるんだよ」
「ミィちゃんのおうち、わかるかな?まいごにならないかな?」
「よし、今度お迎えに行こっか」
「わあ、行く行く!」
娘と私の、しあわせな時間。
(2018.8.2)
私の
(2018.8.3)
暴力的な夕立が、男と女を
やがて雲間から降り注いだ光が、男と女の頬に七色の橋を架けた。顔を見合せた二人は、思わず声を立てて笑った。そして雨上がりの街に向かって一歩を踏み出した。
(2018.8.4)
佐平が深く腰を沈めた刹那、中空に三日月の軌跡が
刃は既に
相対した男は血を噴いて地面に崩折れた。手向けのように、鍔鳴りが
身を起こした佐平は襟を掻き合わせると、小雪のちらつく夜を家路へと急いだ。
師走の暮六つ、仕事納めであった。
(2018.8.5)
物語の登場人物は結末を書くことにより、各々の役割から解放される。
しかし物語が絶筆や放棄によって未完の憂き目に遭うと、彼らは物語の中に縛られ続けることになる。
浮かばれぬ登場人物たちの魂を救うため、未完作品の補筆を行う組織が暗躍しているというが、定かな話ではない。
(2018.8.5)
仕事から戻ると、2歳になる娘が大号泣している。嫁に事情を訊くと、保育園から帰るバスの中で初めてお年寄りに席を譲り、感極まっているとのこと。
「わだじ、やざじぐでぎだー!!」としがみついてくる娘を思いっきり抱きしめる。ありがとう。いい子に育ってくれて、パパはうれしいよ。
(2018.8.6)
男は
信心の
(2018.8.7)
珊瑚の
「どうしたのさ、これ」
「一目惚れよ。お前を見初めたときと同じさ」
「ばか……」
おまさは赤面して夫の袖を打つが、その口の端には笑みが溢れている。
(2018.8.8)
紗奈のグラスをマスターが静かに下げた。ルージュの付いた吸殻を残し、彼女は宗太の下を去った。自業自得の別れ。宗太の胸の内は晴れやかだった。
脳裏に紗奈の顔が浮かんだ。一心に惹かれた笑顔。しかし瞬きすると、それは呆気なく消えた。宗太は苦笑して、マスターにチェックを告げた。
(2018.8.9)
母は縁側で茶を啜っている。智子はその隣に腰を下ろした。猫の額ほどの庭に春が満ちていた。
「お父さんと、寄り戻すの?」智子は切り出した。
「……どうだろうね」
「もう。決めてるくせに」
母は無言で俯いた。智子は意地悪な自分を恥じた。誤魔化すように、桜餅を口一杯に頬張った。
(2018.8.10)
君の唇があいつの名を綴るとき、胸の芯が灼けるように痛む。 気付かれないように呼吸を整え、僕は平静の仮面を被って相槌を打つ。
僕の苦しみなんか知らないで、君はあいつの話を続けている。あいつの話なんかどうでもいい。
どうでもいいけど、楽しそうに話す君を見ているのは好き。
(2018.8.11)
妹の結婚が決まり、二人だけの祝いの席を設けた。居酒屋の古時計が零時を告げて、
立ち上がった妹の足元がふらつき、私は慌てて抱き止めた。腕にあたたかな重みが乗った。
「ありがと」
妹は笑った。その顔が妙に眩しく、私は顔を背けた。鼻の奥が痺れ、視界が滲んだ。
(2018.8.12)
暮れゆく夏の空に雷鳴だけが響いている。生温い風に雨の気配を感じて、子供達は三々五々我が家に飛び込んでいく。軒下で空を恨めしげに見上げ、少年は虫取り網を手放せずにいる。雷鳴を十度数えて我慢ならず、ひっ被った麦藁のつばに雨粒が跳ねた。夕立が町を撃つ中、人知れず夜が来た。
(2018.8.13)
強いあなたは脇目もふらず、自分の道を歩いていく。私がどれだけ必死に走っても、遠ざかる背中に追いつくことはできない。
だから私は、ここで独り待つことにした。あなたの
(2018.8.14)
火葬場の立会人の話。
(2018.8.15)
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