「おやすみなさい。猫ちゃん」心はにっこりと笑った。

 それからいそいそと移動してスリッパを脱ぎ、ベットの上に移動する。心は毛布をかぶりベットの上で横になると、あっという間に眠りの中に落ちていった。そして心はぴくりとも動かなくなった。真白は心の様子を観察しながら、慣れない舌を使ってようやくミルクを飲み干した。そしてしばらくの間、真白は体の中にストーブの中で燃える炎の熱を溜め込んだことで、体が自由に動くことを確かめると、さっきから一つ気になっていることを確かめてみることにした。

 真白は部屋の扉の前まで移動すると、かりかりと爪で扉を引っかくようにして、その扉を開けてみようとした。しかし、それは不可能だった。ついさっき死にかけたばかりなので、本気でこの部屋の外に出ようと思ったわけではないのだけれど、やはり猫になってしまった真白の力では、人間の扉は開けることができないようだ。その確認を終えると、真白は部屋の中央に戻り、そこから勢い良くジャンプをして椅子の上に飛び乗った。そしてさらにそこからジャンプをして、真白は心の眠るベットの上まで移動する。

 真白はさらに移動して、心の胸の上に飛び乗ると、そこからじっと眠り続ける心の寝顔を眺め始めた。それはとても無防備な寝顔だった。なんの警戒心もない無垢な表情。眠り続ける心の表情はとても穏やかで、その顔色は火を灯す前のロウソクのように真っ白だった。真白はそんな心の寝顔を見て、だんだんとなんだか生きている人間を見ているというよりも、なにか死体の顔を眺めているような気分になった。それは見ていてあまり気持ちの良い光景ではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る