小さな心臓
雨世界
1 真夜中の病院と黒猫 ……ずっと一緒にいようね。猫ちゃん。
小さな心臓
登場人物
プロローグ
ある日、真白は夢の中で猫になった。
猫になった夢の中で真白は一人の女の子と出会った。
女の子の名前は心と言った。
……心は、真白の太陽だった。
本編
真夜中の病院と黒猫
夢の始まり
……ずっと一緒にいようね。猫ちゃん。
気がつくと、真白は夢の中で真っ黒な毛並みをした一匹の猫になっていた。猫になって、真っ暗な廊下をなれない四本の足を使いながらひたひたと歩きまわっていた。それは暖をとるための行動だった。そこはとても冷たかったから、真白は体を温めることのできる小さな炎を求めていた。
だけど、どこまで行っても世界は真っ暗なままで、炎はどこにも見当たらなかった。真白は炎が無理なら、せめて古くても、ぼろぼろのものでもいいから一枚の毛布が欲しいと思った。暖かい毛布にくるまって、朝が来るまで、この真っ暗闇の中で静かに眠っていたいと思った。夢の中で眠りにつくというのはなんだか変な話だけど、でもそうしたいと思えるくらい、ここは寒くて仕方がなかった。
でも結局、どこまで歩いても世界は真っ暗なままで、いつまでたっても現状はなにも変わりそうもなかったのだけど、でも、それでも真白はそんなものたちを求めて、暗い廊下をひたひたと小さな足音を立てながら歩き続けていた。
お腹がとても空いていた。だから力が出なかった。夢の中だというのにお腹が減るというのも、これまた変な話だった。そんなことを考えていると風が、びゅーという音を立てて真白の周囲を吹き抜けた。寒い風だ。真白はぶるっと体を震わせた。今は春のはずなのに、吹く風はまるで冬の風のように冷たかった。もしかしたらこの夢の中では季節は冬のままで時間が止まっているのかもしれないと真白は思った。そういうことは夢の中では、『よくあること』だった。
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