祭り 2
ただ、レリルの父であるラシューレ卿が暮らす本邸は遥か遠くの地。
現地との温度差もあり、現状、そこまで深刻な事案ではないとして、言い方は悪いが見送られ続けてきた。
そこに、領主家の一族であるレリルの訪問だ。
これ幸い、この機会を逃してなるものかとばかりに、双方の代表が先日直訴にきたらしい。
「で、双方から申し立てがあってね。今年のお祭りの結果如何で、負けたほうが勝ったほうの傘下に収まるように取り計らってもらいたいと、申し合わせたようなタイミングで言ってきたわけ。さすがに私の独断では決められないから、お父様に問い合わせ中なのよね、これが」
「お互いに勝ちの総取りで納得してるんなら、面倒もなくていいんじゃねーの?」
颯真がベッドからレリルを見上げてそう言うと、レリルは氷点下の眼差しで10秒ほども颯真を見下ろしてから――大げさな動作で肩を竦めた。
「……これだから颯真は安直なんだから。長年いがみ合ってた相手同士が、理屈に縛られたくらいで簡単に納得すると思う? むしろ反発して前よりえらいことになるのは必至よね。で、結局、そのしわ寄せが私にくるわけよね。だってお父様の性格だもの、返事なんて『任せる』くらいしかないもの! じゃあ、なに? 問題が片付くまで、私にここに留まれと? 何年かかるってのよ、あ~、もう!」
レリルはベッドに腰かけたまま、両手を掲げてじたばたし、反動をつけて上体を思いっきり後ろに倒した。つまり、横たわる颯真の上へと。
レリルの後頭部が颯真の腹部を直撃したが、レリルはそれでも飽き足らず、頭でぐりぐりと押さえつけてくる。
颯真の中身スライムボディには痛くも痒くもなかったが、とりあえず腹の上のレリルの額にチョップはかませておいた。
「あ痛っ。レディに向かってなにするのよ!」
「レディっぽい態度も取れない人には、レディ扱いなんてできません~」
颯真はレリルを腹部に載せたままで構わず勢いよく起き上がり、レリルをベッドの下に転げ落とした。
「ひっどーい! 淑女に対してなによー! そんなんじゃ、女の子にモテないわよー!」
「うっせ! 第一、内緒だなんだとか言いながら、一から十まで詳細説明してんじゃねーか。いいのかよ、俺、完全部外者なんだけど?」
「あ、それは大丈夫。巻き込む気まんまんだから」
「うっわ。こいつ信じらんねー。とんでもないことをしれっと抜かしやがった」
「へ~、颯真ってば、そんなこと言うんだ~? へ~?」
「……んだよ?」
レリルの半眼でのにやけ顔が不気味だった。なんというか、底意地悪そうな。
ベッドの下の絨毯にぺたりと座ったまま、レリルはどこからともなく算盤を取り出した。
「ひーふー、ふむ。ここがこうなるからこうなって……こんなもん?」
レリルが誇らしげに算盤を見せ付ける。
「なにこれ?」
「颯真がここで飲み食いした食費の概算。あと宿泊費も込みね。サービスはしてるけど、相場でこれぐらいかな」
「うっわ、きったねー! 最初から俺を嵌める気だったな!?」
「ふふふ。貴族の子女は慎ましいのだ! で、どうする颯真? 手伝ってくれるなら、これはチャラ! 今後の寝食も保障するけど?」
浅ましいの間違いじゃないのか――と颯真は喉まで出かかったが、心ゆくまで飲み食いし、出店でたかっていたのが事実だけに、ぐうの音も出ない。
しかも、今後の食もかかっているとなると――
颯真はがっくりとうな垂れたのだった。
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