第四章

旅立ち

 あれからかれこれ1週間ほど。


 木を食し、落ち葉を食し、草花を食しと、実にベジタリアンな食生活を営み続けて、ようやく弱った身体も復調してきた。

 颯真としては、そろそろ動物性蛋白質も欲しいところだったが、今も拠点としている塔――元・塔があった場所周辺には、ついに動物が戻ってくることはなかった。


 さりとて、森の奥に移動するのは気が引ける。ここら一帯を灰燼と化したは、きっと森の深奥から這い出てきたモノだったのだろう。

 もしや噂の、闇の神霊デ・ラルシレとやらの眷属とかいうやつだろうか。

 こんなとんでも生物(?)が存在していようとは、さすがは異世界、さすがは魔の森と悪名高い闇昏き森デ・レシーナである。颯真は思わずぞっとする。


(本気でそろそろ移住すっかな。贅沢は言わないけど、住みやすい……そうだなぁ)


 今度の住処は、そんな危険生物がいないところがいい。普通に狩りがしやすいよう、適度に自然豊かで。

 でもって、利便性とかも考えて、適度に人里にも程近く。

 でもって、海産物も食べてみたいから、海の近くとか好ましい。


 結局のところ、けっこう贅沢な颯真であった。


 ただ、その条件があてはまる場所に、颯真は心当たりがあった。正確には脳内さん情報で、だが。


 ここから西に100Kmほども行くと、海が見えてくる。

 海岸沿いにさらに20Km北上したところにある港町のシービスタ。別名、海の宿場町。

 漁業と貿易が盛んで、地理的に航路上の補給地点にも最適と、年中絶え間ない人々で賑わっている著名な場所だ。

 近くには緑豊かな山があり、なんと天然温泉が数多く湧いているらしい。

 そして、町の南側にある丘は、貴族御用達の閑静な避暑地となっているとか。


(温泉に浸かりながら海を見下ろすロケーションってどーよ? なんて取ってあつらえたような好立地!)


 そこにはさすがに今回のような謎の危険生物もいまい。

 颯真は独りごちる。


(食料豊富で気候も涼しく過ごしやすいときて、港町なら珍しい異世界グッズなんかもあるかもしれん。こりゃあもう、スライムの神さまだか女神だかに誘われているようなもんでしょ。行くっきゃない! よし、そこを俺の次なる第二の住処セカンドハウスとしよう!)


 まあ、ファーストは消失しているので、実際はセカンドもなにもないわけだが。


 とにかく、移住先目的地は決まった。

 120Km程度の距離なら、通常で半日、のんびり休み休み行っても1日でお釣りがくる。

 善は急げと、颯真はフクロウ形態に偽装し、大空に飛び立った。

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