死に戻りの有無は?(2)
「あの、この銃、弾を込めるとこ……」
「ん? ないよ、ヒーローパワーを発射する武器だし。エネルギー弾みたいな感じ」
「ひ、ひーろーぱわー」
「俺の場合はMPなんだけどねー」
マスクで一切見えないが、からから笑うその声で、勝宏が今だいたいどういう顔をしているのかは分かる。
……それは、武器の練習になるんだろうか。ていうかこれの扱いに慣れてもどうしようもないような気がしてきた。
「そろそろ日が沈むな。野営するか」
「う、うん」
「俺が全部準備しとくから、透は何かおいしいもの買ってきて」
「はい……」
勝宏が言うには、魔物避けの小規模結界を作るマジックアイテムがあるらしい。
動かしてしまうと効力がなくなるので、火を起こすための枯れ枝を先に集めて、野営地を決めてからマジックアイテムを発動させるのだそうだ。
それなりに高価らしいので、壊してしまう可能性を考えると自分では触りたくない代物である。
彼が日本食を欲する限りは、この先も自分が準備することはなさそうだが。
『今日は何買いに行く?』
(カレー食べたいって言ってたから、カレーのテイクアウトにしようかな)
『了解。直接飛ぶか』
(ううん、勝宏の服洗濯頼まれてるんだ。預かってきたから、一旦家に。洗濯機回しながらお店に行くよ)
『おお、そうか……』
ウィルに呆れられながら日本へ転移する。
勝宏との会話にも多少ながら慣れてはきたが、ウィルとの会話の方がまだ気楽だ。
直接お店に行くかどうか問われて、一度自宅に戻りたいと自分の意思ではっきり断れているのがなによりの証左といえる。
自宅へ戻って、勝宏の服を洗濯機に放り込む。洗濯を終えるまで約50分だ。
そう長いこと日本に留まるわけではないので、終わったら部屋干ししてしまおう。次に食料調達で日本に戻ってくる時までには問題なく乾いているはず。
ざっくり所要時間を計算しながら洗剤と、部屋干しでもにおわないのが売りの柔軟剤を投下。スイッチを押したら、カレー専門チェーン店にテイクアウトの予約電話。電話だと相手の顔を見ずに済むので、それほど酷いコミュ障は発動しない。
テイクアウト品が出来上がるまで10分とのこと。ウィルに送ってもらうと秒で到着してしまう。
シャワー浴びてもいいかなあ。
ちろと洗濯機の覗き窓を確認すると、まだ洗濯物の量を検知している最中だ。
逡巡は一瞬。一時停止ボタンを押して、浴室に向かった。
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半分遠足のような異世界旅は、町までこれといって転生者の襲撃もなければ強い魔物と遭遇する機会もなく、のんびりとしたものだった。
町に着いたら透専用の武器を調達しよう、と言われていたので、結局例のヒーローパワー銃は一度も使われずに終わる。やっぱり無駄だったんじゃなかろうか、あれ。
勝宏から聞いていた転生者の治める町に無事到着して、宿まで取ったところではたと気付く。
「どうやって資金調達しよう……」
日本食おつかいで勝宏から小金を数枚貰ってはいるが、正直剣や弓なんかが数千円程度の貨幣で購入できるとは思えない。
自分のぶんの宿代を払ったことで、こちらの世界での所持金は銀貨6枚である。
「えー、俺出すよ?」
「う、で、でも……」
「遠慮しなくていいのに。……あっ、だったらほら、貸しってことにするのは?」
「貸し……」
「武器の購入金額分、日本のものちょくちょく買ってきてもらうってことでひとつ」
「そ、それなら」
おつかいに出していた報酬を今後無しにして帳消しというわけだ。
むしろ、世話になっているのだから自分の方に借りが多い状況なのだけれど。
もちろん、日本のものを買ってきてこちらで高額転売するという手も考えないでもなかったが、そんな交渉ごとが必要になりそうな手段で透の口がまともに機能するわけがないのだ。
いつまでも勝宏に頼りっぱなしは彼にも迷惑だ。こっちでの資金調達の手段は、早めに考えないと。
「じゃ、まずは武器屋だな!」
部屋に少ない荷物を置いて、勝宏が透の腕を引いた。
「武器……何がいいんだろう」
「ひとまず剣持ってみる?」
連れてこられた武器屋にて、見た目駆け出し冒険者の少年に武器をあてがわれるもやしのような男、というのはちょっと目立っている気がする。
四方からじりじりと好奇の目を向けられているのを肌で感じながら、勝宏に勧められたショートソードを握ってみた。
「お、もい……」
切っ先ががくがく揺れる。腕の震えは武器を持った恐怖ではなく、単純な筋力不足が原因である。
これを魔物相手に振りかざすのは、ちょっと無理がある。相手がチート持ちの転生者ならばなおさら。
「マジで? 転生者ステータスならレベル1でもある程度の力はあると思うんだけどな……後衛型なのかな、ステ魔力全振り! みたいな!」
「おろ、していい……?」
「ああ、ごめんごめん」
ひょい、とショートソードが勝宏によって取り上げられた。
「後衛型かもなあ。弓はどう?」
次に手渡されたのはファンタジックな装飾がなされた弓だ。売り物の矢をつがえるのは気が引けるので、そのまま弓だけ構えて弦を引いてみる。
「……無理そうだな」
「かた、い……です……」
全力で引けば使えなくもないが、乱戦中に弓を引くのにいっぱいいっぱいではそれこそ敵の的になってしまう。
こちらの様子を伺っていた武器屋の店主が苦笑いをしている。うう、ポンコツでごめんなさい。
「となるといよいよ魔法メインだね。杖はどう?」
弓もまた回収。代わりに勝宏が持ってきたのは、魔法の杖というよりバトルスタッフだった。
まあRPGだと後衛職にバトルスタッフ装備させることもあるけど。問題は持てるかどうか。いや、ここは意地でも。
「持……て、ました」
「腕。腕震えてるから透」
ひい。待ってくれ。後衛職ステータスでも持てる武器を持てないというのはさすがに、さすがにつらい。
なんて言えるはずもなく、非情にもバトルスタッフも勝宏の手によって回収されていく。
とうとう店主も勝宏と一緒になって、どうにか透にも持てそうな杖を店中探し回ることになってしまった。
いやその、本当にごめんなさい。
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