第4話
七千年の時を経て俺たちは転生した。
それは五年前の出来事だった。
とある村の家で男の子が生まれた。
アトラスと名付けられて。
***
自分を照らす外界の光でアトラスの意識は覚醒した。
(俺は死んだんじゃないのか?)
体は動かない。だが何かに抱きかかえられているのはわかった。
どこかで赤ん坊の泣き声がすると思っていたら、それは自分の口から発せられていた。
視界がだんだんと晴れていく。
「この子の名前はアトラス。アトラス・レトレイヤだ」
俺の顔を覗き込んだ男性がそう口にした。
「私達の子どもよ、あなた」
俺を抱きかかえていたのは女性だった。
彼女は俺を自分の子どもだと口にした。
つまり・・・・
(俺は転生したって事か?)
魔力も肉体も著しく弱体化してしまっているらしく、体も自由には動かない。
それでもアイツがこの場所にいないことだけはわかった。
そのことが酷く辛く悲しかった。
***
だがそんな不安も杞憂であった。
3日後、俺は両親に連れられて隣の家で同じ日に生まれたという女の子と顔を合わすことになった。
その子の顔を見た瞬間、身を乗り出し過ぎて俺を抱きかかえていた母さんの腕から落下した。
母さん達は大騒ぎしていたがそれどころではない。
何故なら目の前にいたのは、魔王レノアだったのだから
それが俺たちの今世での出会い。
それからというもの毎日のように二人で遊んで幼少期を過ごすこととなった。
最初のうちは同年代の友達が出来たということで父さん達も喜んでいてくれたのだ。
けれど村の他の子ども達とは全く遊ばずレノアとばっかり過ごしていたので成長していくにつれて父さん達の不安が膨れ上がっていったということだ。
少しは他の子とも遊べと言われたのだが、どうも村の子供達とは馴染むことが出来なかった。
まぁ母さん達は特に何も言わず見守っていてくれるのだが・・・
***
…東の森
「グギャッ!」
刃がゴブリンの胸を貫通し、ゴブリンの体は地に崩れ落ちる。
「そっちはどうだー?」
剣についた血を払いながら振り返る。
「ん、終わったぞ」
丁度スライムを火魔法で焼き払っているところだった。
「最近魔物が増えたな」
転がり落ちたスライムの魔石を拾っているレノアに声を掛ける。
「
もしそうならかなり困るんだがな。
この森はかなり村に近い。モンスターが大量発生したら必ず被害が出るだろう。
何より俺たちは両親に隠して、この森でモンスター狩りをしている。
まだ五歳の子どもがモンスターを倒すなんて普通なら異常だ。あまり心配をかけたくはない。
「今日はもう少し奥まで行ってみよう。母さん達が心配するからあまり時間はかけられないが」
「そうじゃな、村に来られては少々面倒だしのう」
本当に魔獣の大量発生モンスターパニックなら強力な魔物が出現した可能性もある。
村にはC級以上の魔物を追い払う戦力はないのだ。
もし村にそのような脅威が来たなら冒険者の手を借りるか、軍に頼るしか方法はない。
俺たちがいなければ・・・
完全に村に被害が出ないようにするには俺たちが戦う必要がある。
だがあまり俺たちの力については知られて欲しくはない。よって不穏な芽は早々に潰すことにしている。
「レノア、魔力感知は怠るなよ。やばそうだったら一旦引くからな」
「無論じゃ、お主こそヘマするでないぞ」
既に森のかなり深い場所まで踏み入っている。
ここに来るまで二十体以上の魔物を斬っている。
普通とは比にならない量だ。なにかが起こっていることは確かだろう。
俺たちは前世の経験があるから他より多少強くはあるが、全体的な身体能力は前世の初期値と同じくらいになっている。
今の身体能力で、C+級以上の魔物と戦うのは少しきつい。
まぁ修行次第で、力はどんどんと前世に近づいていっているのだが。
「三時の方向から二体ほどきておるぞ」
「一体は任せるぞ」
気配の方向へと駆け出す。
しばらくして目的の奴らが見えてきた。
二つの影が現れ、やがてその姿が露わになる。
「これはきつそうだな」
思わずそう零した。
一つは大剣を担いだ大鬼オーガの変異種、
もう一つは、森の中を這う素早く獰猛な森の魔物フォレストワームだ。
C級とD+級。
予想以上の災厄が森の奥から現れた。
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