#186:無機質な(あるいは、ウェイクアップ!ボイーズ)

 改めて対局が行われる「場」をよく見てみる。今回は透明感のある黄色がかった不思議な色彩をしたアクリルの大きな正方形の足場だ。縦5マス、横5マスの枡目は、縦が少し長い長方形をしていて、本当に将棋盤のように見える。


「位置関係を分かりやすく実況するために、将棋の指し手のように『1五ムロト』とかって言いますからねー」


 猫田さんが僕を引き合いに出してそう説明するけど、何かそう言われると違和感あるな!!


 「ロボット相撲」と先ほど表現したけど、人間将棋ならぬ「ロボット将棋」という側面もあるのかもしれない。いや、無い可能性の方が高いかもだけど。ちなみに盤の右上が「1一」で、左に進むと「2一」「3一」と算用数字が増えていき、下に進むと「1二」「1三」と漢数字が増えていく。まあこれも実際活用されるかは今のところ不明ではある。


「ま、とりあえずやってみて、コツをつかんでいくというか、そんな感じでお願いします。それでは、両チーム、ロボティック=マシーン、ライドオンっ!!」


 出た、とりあえずやってからというスタンス。まあここでいくら説明を受けたとしても、半分くらいしか理解・把握は出来ないだろうし。僕はもう諦めの気持ちで、アオナギ・丸男の二人と相談し、どのロボに搭乗するのかを決めることにした。


「……俺ぁ、やっぱでかいのに乗ってみてえなあー。ロボはやっぱマッシブ感が重要と思うわけよぉー」


 うん、持論はともかく、あなたは選択の余地なくそれだと思う。「中」とか「小」だとその巨体が収まり切れないと思うわけで。


「じゃ、俺が『中』で、少年が『小』と。まあ順当にってとこで」


 ですね。さくりとアオナギの提示した案に異論は無く、僕らは揃って対局場へのタラップを登っていく。壇上へと上がると、周りの観客席からの、比較的好意的に聞こえる怒号のような歓声が強まってきた。


 溜王決勝トーナメントも、もはや「第7戦」。優勝の可能性のあるチームは僕らを含めて5つに絞られているわけで。客たちの盛り上がりを僕は肌で感じている。同時に自分の中のえも言えぬ高揚感も。


「……」


 壇上を見渡す。正方形の足場の周りをお濠のようにぐるりと取り囲んでいるのは、幅2mくらいの水路のようなプールだった。あまり深くはないみたいで、底までは目測で1mくらいかな? 乗ったロボごと転落しても、まあ大事には至らなそうな……いやいや負けることを考えちゃ駄目だろ。


 濠に渡された簡易的なこれまたアクリル製の「橋」というか単なる板状の物の上をおっかなびっくり渡り切ると、眼前には僕らが乗る「白」の着色がされた張りぼてのロボたちが結構な迫力を持って出迎えてくれていた。おおー、間近で見ると無機質な芸術作品のようで結構いいかも。

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