#123:漉餡な(あるいは、愛と入金だけが)

 僕らが医務室でくつろいでいた時に行われていた決勝トーナメント第2試合は、1組3位と2組1位の戦いだったそうで、結果1組3位が勝ったとの情報が流れてきた。次にカワミナミさんチームと当たる相手になるそうだけど、それはさておき、さあ次はまた僕らの対局だ。


「……少年。君と戦いたいと言ったことに嘘は無い。上がってきてくれよ」


 言うなりカワミナミさんは上着をさっと羽織って颯爽と医務室を出て行った。しかし僕らはトーナメントカーストの最下層。あと4連勝しないとそこには辿り着けないわけで。


 僕はともかく残り二人の身体のコンディションが心配だ。むちうちと頭パックリと。そう言えば、身につけているこのメイド服の調整をしてくれたオーリューさんは、溜王で「飛んだり跳ねたり」みたいなことを言ってたっけ。あまり激しい運動を伴うものは御免被りたいものの、予選準決のようなしんどい系も覚悟しなくてはならない。


 いやいやいかん、あんまり思い込んだらダメだ。気合い入れるんだろ? テンション……テンション……


「室戸ぉ、新しい額よぉぉぉっ」


 そんな僕に丸男がスマホ画面を突きつける。そこには、


 <入金しました。金額¥460,000―>


 来たはぁぁぁぁぁぁぁっ!! やる気スイッチを16連射されたような感覚が僕を包む。そうだ、恐れないでYENのために!! 否、サエさんとの約束のために!! 勝って掴むんやあっ!!


「……」


 時間にして約1時間ほどしか休息は取れなかったものの、アオナギはすんなりベッドから降り立つと、ジョリーさんの手によって吐瀉物等の汚れが取り除かれて一通りの修復がなされた蒼のメイド服に袖を通した。首の白いコルセットが何というかメイド服と調和してない感もない。


「いくぜ野郎ども」


 何故かそうニヒルに決めると、肩を怒らせアオナギは脂ぎった長髪を揺らし部屋を出ていく。おおーう、と丸男もそれに応じると、かぽかぽ脇を鳴らしながら続いた。


「ムロっちゃあん、どんどんキナ臭くなって来てるけど、あんたは気にしちゃだめよぉん。素の自分の力を信じるのよぉ」


 ジョリーさん。やりますよって。猫の手のようにかわいく曲げられたその両拳に、僕も握った拳を軽く当てる。


「ん決勝ぉぉぉぉ、トーナメンっ、第!! 3!! 試合!! っだぁぁぁぁぁっ!!」


 グラウンドに出た僕らを待っていたのは、想像以上の歓声だった。そしてテンションがいつも通りの実況は桜田さん。今日は黒髪をぴっちり後ろに撫で付け、真っ赤な細身のスーツに黒のシャツ、そして照明を受けて銀色に輝く細めのネクタイと。割と普通だ。何かを想起させるとか、そんなことは無い。


 って、いやいやそれでいいんだよ、そこは無理するところじゃ絶対ないから。何を少しがっかりしている?


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