#121:団欒な(あるいは、茶番なーG7)
「アオナギさんっ!!」
スタンドの地下に医務室があることを聞いた僕は、軋む身体に鞭打って駆けつけたわけだけど。
「……」
医務室というよりは一般病棟の六人部屋くらいの広さのある大部屋だった。白い壁に、地下だけど窓とカーテンが取り付けられている。ベッドは3床ほどが確認できた。おそらく消毒薬と思われる、病院とかに独特の匂いを感じる。
そして部屋の左奥に目指す人の横たわった姿をいち早く見つけた僕だったが、首にコルセットを巻かれたその人は、僕と目が合うや、白目を剥いて死んだフリをしたわけで。
「う、うわわわわわっ」
僕もその辺の呼吸が判らないほど、ヤボでもなければダメに毒されてもいない。咄嗟に自分の右足を左足に引っ掛け、派手に突っこけて見せると、でかい音と共にヘッドスライディングでなだれ込んだ。
何故そんなことをしたか?
「大丈夫か……少年。ジョリーから連絡を受けた。無事勝ったそうじゃないか」
僕に背を向けてアオナギのベッドに寄り添うようにして座っていたのが、他ならぬカワミナミさんだからであって。そして今まさに、切り分けたりんごをひと切れ、アオナギの口許に持って行きかけていたところであったからであって。
物音に何事かと振り向いたカワミナミさんは、何というか普通の表情だ。ごく自然に甲斐甲斐しくお世話をしていたわけだけど……どういうこと?
「いててててー、転んじゃいましたぁ。いやあ、そうなんですよー、それは良かったんですけど、アオナギさんの具合が気になって……」
などと僕は内心のどきどきを押し隠しつつも白々しく、奥のベッドに近づいていく。
「……むちうち、だそうだ」
一昨日の事故によるものか。カワミナミさんはアオナギの様子を再び見やって、おや? というように小首を傾げると、フォークに刺さったりんごを皿に戻した。
「……今まで起きていたんだがな。まあ無理もない。かなりの速度で追突されたそうじゃないか。少年も診てもらった方がいいかもな」
カワミナミさんはひょっとして部分的な天然なのかも知れない。まあそれはいい。問題はこの男の方だ。
「ええ、割と平気だったんで忘れてましたけど、そう言えばむちうちの症状って、翌日以降に来るとかって言いますよね」
言いつつ僕もアオナギのベッドの脇に立つ。徹頭徹尾の狸寝入りか……僕はそのシーツに覆われた横脇腹に手刀をデュクシデュクシと打ち込むが、その度びくりと体が反応するものの、アオナギはこの場を気絶で乗り切ろうとしている。
まあいいか。めったに見せない弱みを握ったということで、本件は後ほどじっくりと訊問することとする。と、
「おおーう、ムロトぉう、まったくお前さんは大したやつだぜぇーい」
洋画の字幕のような台詞を吐きつつ、丸男が部屋に入ってきた。手にはコンビニの袋をぶら下げている。また食い物を買いに行ってたのか。
「やや、てめえは河南っ!! 何しに来やがったんでぇぇぃっ!!」
そして入るや否や、唐突にそう茶番をやり出す丸男だが、
「……さっきからいた。そしてちょっとした見舞いだと言ったはずだが?」
はいはい、もうその辺のことはいいです。ほんとは仲いいんですよね? まあ険悪な感じを出されるよりは全然いいけど、何でそれをひた隠しにするの?
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