第22話:回避に向けて動く者たち

 その頃、全ての王族が結託してアリスを守るべく動いて居るなど、知る由も無いギルヴィアは、静かにほくそ笑んで居た。


(くっくっく。アリスフィーヌ嬢とレンシスを婚約させる事が出来れば、稀代の魔術師を囲い込み、全ての国を支配すら可能となるのは確実だな)


 周囲が見えて居ない王を注意する者は現状では居ない状態なのだが、馬鹿な事をして居ると知らされて動く人物居るのだ。


 その人物とはレンシスとメイフィス王妃。


 彼らに王が暴走しアリスを脅かしかねない、と聞かされるのは間もなくだろう。


「騎士団長よ」


「はっ・・・(逃げたかったが逃げたと判明した瞬間に一族郎党を処罰しかねぬ)」


「ウィルソン邸へアリスフィーヌ嬢を奪いに向かわせただろうか?」


「・・・勿論に御座います。精鋭部隊で御座います故、アリスフィーヌ様を我が王城へ出来るかと存じます(行かせたくは無かったが・・・)」


 王命を断れば処罰されてしまうのは目に見えて居た。


 だからこそ反発するなど出来ない状態だった。



 * * * *


 準備を整えると言う偽りの報告を王にした宰相は、唯一、歯止めが出来るで有ろう王妃と第一王子の元へと向かう事にし、先ずはレンシルの私室をノックする。


         コンコンっ


「まあ、宰相様。レンシル様にお知らせいたしますわ」


 王子付きの侍女が宰相の訪問を告げると怪訝な顔になってしまうのは致し方ないだろう。


「何が起きたのだ?普通ならば父上に報告行くべきで有ろう」


「・・・その王様が暴走致しまして、アリスフィーヌ様をマシュー邸から連れ去る計画を立て騎士団を強引に動かして御座います」


「マシュー邸?」


「はい、一刻ほど前では御座いますが、獣人族の王よりヴァカス様から国外追放をされたアリスフィーヌ嬢を魔の森より救い出し、マシュー・ウィルソン様宅へと保護され、ウィル王子と婚約する事となった、と通達が有りまして・・・稀代の魔術師とうたわれしアリスフィーヌ様を惜しむような発言をし、黒い感情に支配されてしまわれたのです」


「・・・何て事になったのだ。この事を母上には?」


「これからに御座います」


「僕に知らせたのは騎士団に行かなくて良いと指示をする為?」


「はい。団長殿も動かしたく無いにも関わらず、動かさざるを得ない状態でして・・・。私も王様には違う理由を告げて来て居る次第であります」


「そうか。母上に報告へ行って居る間、騎士団を止めておこう」


「お願い致します」


 そんなやり取りを聞いて居た者が居た。


 それはアリスに頼まれた闇の精霊。


 これならば軍が動く事は無い安全になったと判断できた故、音も無く消え、街道に居るエルフ、屋敷を守る天族、万が一に備えて出立した魔族へと知らせに飛んだのは言うまでもない。


 これから最大級の雷が落とされると理解できたからでは有る。


 溺愛して居る王妃から「馬鹿」だ「阿呆」だと言われれば、例え邪な考えに支配されて居る王で有っても正気に戻るのは判り切って居たからなのだ

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