第43話 『協定』

 みんなが、自分の正体を隠していた。

 

 まあ、そういうところだろうと、ぼくは思った。


 それにしても、ぼくはずっと、ここにいるのは大山先生だと考えていた。


 発信機から送信された信号も、ここから出ていたし、そう判断するのは当然だった。


 大山先生は、杖出元首相とは似ても似つかない別人である。


 市井の偉人だが、大学も追われ、研究所も追放され、放浪の学者になった。


 本もすべて発禁となり、強制回収された。


 そんなことが、この国でまた起こるなんて、誰も考えていなかっただろう。


 毛葉井総理が誕生するまでは。


 戦争と大災害で、国内はばらばらになっていた。


 後ろ盾だったカメリカ国も、破綻した。


 そこで、生き残った周辺大国からは、保護を名目に、我が合衆国を、占領しようという動きもあったが、いきさつはわからないものの、日本合衆国政府が、かなりの核兵器を使える状態で持っていることが知れ、足踏みした。


 非核三原則に抵触する裏切行為だが、どうも、ぼくの取材によると、カメリカ国の駐留軍が、ブルース・トーンの超巨大カルデラ噴火で危なくなった核を、勝手に持ち込んだらしい。


 ここらあたりは、タイミングの問題である。


 直後、我が合衆国も、同様にぎたぎたになった。


 核が野放しになった。


 そのうちの50%は、わが政府が確保し、20%は、生き残りの駐留軍が確保した。


 全体では、1000発くらいはあったはずだと言われる。


 残りは、どこにいったのかしら?


 非合法の反政府組織が、かなりの部分を奪取したとも言われるし、まあ、必ずしも

間違いではない。


 その証拠に、ぼくも、しっかりと、少々握っているわけだ。



 それにしても、宝田氏は、大山先生を探していたはずだったが、実はその居所をとっくに知っていた。


 ただし、それが大山先生ではなく、相手が杖出元首相だとは気が付いていなかったらしい。


 悪く言えば、杖出氏が、大山氏にすり替わっていた。


 それは、人為的なことか?


 そうして、我が施設と協力して、食料などを運んでやっていた。


 まずは、大山先生と杖出氏の関係を解明する必要がある。


 目の前の杖出氏が知っているはずだ。


 『ときに、お伺いしますが、みなさまは、私共と、協定を結ぶお考えで、ここに来ているのですか。単なる、観光ですか?』


 娘さんが、無邪気な様子で尋ねた。


 『そこなんですが、・・・・』


 ぼくが話し始めた。


 ここは、主導権を取りたい。


 『あの、大山先生がここにいるはずだったのです。大山先生は、ぼくが師と仰ぐかたです。大山先生に仕掛けた発信装置は、ここから信号を出していた。なのに、いたのは、あなた方だった。大山先生は、あなた方に、拉致されているのでしょうか?』


 杖出氏と娘さんは、顔を見合わせた。


 


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