俺より可愛い奴なんていません。2-16
◇ ◇ ◇ ◇
橋本 美雪(はしもと みゆき)、加藤 綾(かとう あや)、二宮 紗枝(にのみや さえ)による、直々の生徒会への進言も無事通り、時間は放課後へと、移っていた。
桜木(さくらぎ)高校は、放課後に移っても、部活や、友人と話すためだったりと残るせいとが多く、いつも通りの賑わいを見せていた。
そして、立花 葵(たちばな あおい)もまた放課後に残る生徒の1人だった。
葵は自分のクラスに残って、参加希望があった者達をリストにまとめていた。
葵は昼休みを使って、一人一人に元々参加希望があった者達をあたって、ミスコンのイベントの最後に上位4名を決める順位決めをすることになった事の説明と、それでも出てくれるかどうかの意見を聞きに回っていた。
葵が各所に回っている間も、後輩や先輩などから新たな参加希望の話が上がったりした。
それと同時期に、葵の留守だったうちに何人かクラスを訪れたらしく、大和(やまと)を始め、協力してくれている男子生徒達が対応してくれていた。
(俺が各所を集まっている時に3人……、大和達の話だと、ここに来て参加希望をした者が5人…………こんなに集まったのか……)
葵は、現状参加が決まっている者達をまとめたリストを見つつ、この集まり方に感心していた。
(恐らく、学祭程度にわざわざプロのスタイリストを呼ぶって言うとの、後は景品後悔か??
どっちにしろ、参加する方は自分で何をする訳でもないし、順位を決めるとしても上位数名……。
ビリまで決められ、吊るし上げられるような事も無いからな。それに、ここまで増えてしまえば、羞恥心なんかもないだろうし)
ここ最近の異常な集まり方に、葵はいろんな原因を考えつつ、それと同時にあの問題が大きくなって、より深刻な問題になっている事に気がついていた。
(ますます、1人じゃもう無理だな……。もうそろそろクラスの出し物も決め始めて、それに向かって準備をしていくことにもなるしな。男子生徒もこれまでみたいに助けてくれる事も無くなって来てしまうだろうし)
「はぁ〜…………」
葵は考えれば考えるほど、嫌になりそうな程の仕事量に、大きなため息を付き、項垂れた。
「あの、立花さん」
机に項垂れる葵に、頭上から、女性の声で葵に呼びかける声がかかった。
葵はその声が誰のものなのか、何となく想像が付いたが、顔を上げ、確認するようにして声のした方向へと視線を向けた。
そこには予想通り、椅子に座る葵を上から心配そうに見下ろす美雪の姿があった。
「なんだ、橋本。委員会か?」
葵は美雪が自分の所にくる理由として1番適切なものを、美雪に尋ねた。
「あぁ、いえ。修学旅行の話では無くて……ミスコンの事でちょっとお話があって……」
「ん? ミスコン?」
葵は美雪の答えが自分の思っていたものと違ったため、少し不思議に思いつつ、美雪に聞き返すように言葉を発した。
「えぇ、ちょっとお聞きしたい事があります」
美雪は真剣な表情でそう切り出し、続けて話し始めた。
「実は、昼休みに加藤さんと二宮さんと私で、生徒会室に行ったんです。
ミスコンのイベントを手伝って欲しいと依頼するために……」
「え……?」
葵は思ってもみない話の内容で驚いた表情で美雪を見つめ、固まり、美雪は淡々と話を進めた。
「勝手な事だと、余計なお世話だと思ったんですが、紗枝さん的にもクラスの出し物の準備をしていく中で、男子生徒達をミスコンの方に引き抜かれたりしたら進行に支障が出るかもしれないとの事になって、そこで、どうしようかと考えていたんです」
「そうしたら、生徒会の出し物がまだ決まってないじゃないかって事に気づいて、生徒会の出し物として、ミスコンを主催してくれないか頼んだんです。」
美雪の事の経緯を葵は、真剣な表情で黙って聞き込んでいた。
美雪の言っていることは確かに的を得ていて、自分からしても当然悪くない話だと、素直にそう思えた。
「生徒会としては、前々から話題がどんどんと膨れ上がるミスコンを手伝おう考えていたらしいんです。是非、生徒会のイベントとしてミスコンをやらして欲しいとの事でした……ですが。」
美雪は淡々と話す中で、葵に1番言いたかった事がようやく言える状況になり、少し体を強ばらせながら、意を決し、続けて話した。
「立花さん的には、いかがでしょうかッ? 生徒会と協力する件にかんして」
美雪は、葵に真剣な様子で、まっすぐと自分の意志を伝え、黙り込み、考え込んでいる様子の葵を見つめたまま、答えを待った。
少し考え込むと葵は顔をあげ、美雪に向き直り、ゆっくり話し始めた。
「ありがと、橋本。俺からは断る理由は特に無いよ」
葵は、軽く微笑みながら優しく、素直に感謝を伝えるようにして、美雪の言葉に答えた。
葵の見たことものないこんな素直な態度に、美雪は驚き、困惑すらもした。
「で、でも、すいません。勝手にここまで話を進めてしまって……、立花さんを見ている限りでは、自分が目立つためとか、自分が主導でミスコンを率いたいみたいなそんな様子は見えなかったので、生徒会と協力出来ると言う話だけを取ってくる気が、もうあっちとしてはやる気満々で……」
「いや、だとしてもありがたい」
美雪は、勝手に話を進めてしまった事に謝罪したが、葵はそれでも重ねて感謝の気持ちを伝えた。
美雪はその時、葵が本当に追い詰められていたのだと、ようやく実感出来たような気がした。
紗枝の話から、葵がミスコンのどんどんと大きくなる規模に、頭を悩ませていた事は知っていたが、ここまで、大きなイベントでも葵ならば何とかしてしまいそうな、そんな事を思っていたが、それは思い過ごしだったと、初めてここで知ることができた。
「あ、それで早速なんですけど、今日の放課後にもう生徒会室に来て欲しいと昼休みに話があったんですけど、大丈夫ですか?」
「俺は別に大丈夫だ。」
美雪は思い出したように、付け加えてその事を話したが、葵は元より今日は少し残るつもりだったため、何の問題もなかった。
「じゃあ、すいませんけど早速」
「あぁ、行こう」
美雪の言葉に答えるようにして、葵は席から立ち上がった。
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