129話 ミドリムシ

「たくさんいた生き物はミドリムシというのですか! 流石はレイ様! 博識でいらっしゃる!」


 どうやらピノは、水の中の小さな生物についての知識はなかったらしい。

 光合成を行うための葉緑体を保有しながら、体から生えた毛を駆使して水の中を移動する事ができる。

 そんな不思議な生物がいるんだと、以前N2が言ってたっけ。


 けどそのミドリムシと、俺達が乗っかってる人型の木となんの関係が?




 俺の訝しげな顔を見てピノがひと言。


「この子たち、根っこがいらないんです!」


 う、うん……?

 ピノの言いたい事がいまいちピンとこない。


「更に更に、細胞分裂が他の植物と比較にならない程早いんです!」


 ピノはミドリムシの特徴を、あたかも偉大なことであるかのように話す。


 あんなに虫のことが嫌いだったのに。

 ピノにいったい何をしたんだセシリア!


 木の巨人の形成が一通り終わり、膝を着いたようなオブジェが出来上がった。

 そしてその巨人のオブジェのてのひらから指の第一関節くらいの大きさのドングリのような実がコロンと現れた。


 ピノがそれを拾い上げ、

「レイ様レイ様、両手を貸してください!」

 と、せがむ。


 言われるがまま手のひらを広げると、ピノはそこへドングリを乗せた。

 そして今度は指を優しく折りたたむよう指示される。


「エナジー……えと、大きな力を伴う植物の生成は、パートナーを介さなければいけない制約があるようでして……」


 そんなことを言いながら、ピノはドングリを包んだ俺の手に自身の手をかざし、ムムムとなにやら力を込め始める。



「これから行うのは増殖と魂の付与です。種子を増やすのはピノだけでも出来ますが、他に関してはレイ様のお力が必要となります」


 ピノがそう言うと、手の中でドングリがコロコロと増えていくのを感じた。

 次々と数が増え、20個のドングリ達が手の中をいっぱいにする。


 増殖ってのはドングリもとい、種を増やすことか。

 残りの魂の付与……ってのはいったい……。

 そもそもこの種はなんのためのものなのだろう……。


「さっき言ってましたよね、あの黒い機械達をぶっ倒そうって。その気持ちを種子に込めるんです」


 あぁなるほど、願掛け的なやつね。


「そして最後に、種子を足元の穴へ注ぎ込んでください」

「穴って、巨人のてのひらの?」


 コクコクと頷くピノ。

 足元には木のうろのような穴が開いており、そこへ願掛けを終えたドングリ達を流し込んでいく。


 すると、手のひらからドングリを飲み込んだ巨人がぐむぐむと体を動かし始めた。


「これで装填完了です」

「そ、装填?」


 ピノがそう言うと、巨人は俺達を肩へと移動させ、右腕を持ち上げ黒い機械達に向け勢いよく何かを射出した。

 がしかし方向はバラバラで、巨人の腕から射出された何かは黒い機械達には当たらず、地面へとめり込んでしまう。


「外した!?」

「いいえ、全て着弾しました」


 ドングリ達が着弾した地点から植物の集合体のようなものが出現し、みるみるうちに肥大化していく。

 そして俺達を乗せている巨人同様に、人を成した形へと変化していった。



「まさか……今こいつが撃ったものって……」


 さっきのドングリは弾丸なんかじゃなくて……増殖って、こっちを増やしたのかよ……。

 じゃあミドリムシに根がいらないって言ってたのはもしかして……。


「ここからは激しく揺れますので、しっかり掴まっててくださいね! 危険ですので、くれぐれも地上へは落ちませぬよう」

「おいおい……嘘だろ……」


 巨人のオブジェがすくっと立ち上がり、やつら黒い機械達の方へと歩みを進める。

 着弾したドングリからも巨人が生まれ、突如として20体の巨兵がやつらを取り囲んだ。


「さぁレイ様! 彼らをぶっ倒しますよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る