99話 お前は好き嫌いが激しいからな
N2が3度目の就寝チャレンジをしている途中に、食糧調達を終えたラズが帰ってきた。
遠くの空が赤みがかって頭上には一番星が見えているが、N2達がおこしてくれた焚火のおかげで調理するには十分な明るさが確保できている。
「木の実とー、キノコとー、あと動物がかじってた木の皮だ」
「ありがとうラズ。てっきり虫とかを大量に持ってくるもんかと思ってたよ」
「お前は好き嫌いが激しいからなー」
「昆虫食はそういう域を越えてんだよ……。まぁそのうち覚悟する時が来るかもだけど」
ラズは一応今まで俺が食べてた物から、食べられそうなやつを選んでくれたらしい。
仮に虫を持って来られたら俺はどうしてたかな……。
「毒も入ってなさそうだね。どうやって見分けたの? キノコ類は特に難しいのに」
N2がラズの調達品を解析しながら安全性を確かめる。
キノコの場合、図鑑と比較しても類似品が多く、N2が解析してもほとんど毒が含まれていたので今まで食べるのを避けていたんだ。
「直感……と言いてぇところだが、確証を得たのは他の動物が食ってるのを見たからだな。とって来たのは確実ってわけじゃねえから、食うかどうかはN2が見た結果で決めてくれ。それと……」
ラズが出発前には背負っていなかった葉っぱの包みを地面に下ろす。
その包みの蔓で縛られた口を緩めると、中に入っていた白色の液体がトプンと波打った。
「N2が言ってた名前は、たしかヤギだっけな? そいつと似た動物から、量は少ねえがミルクを分けてもらってきた」
脳が液体をミルクだと認識した瞬間、言葉が出るよりも先に舌が反応し、唾液が口内を潤した。
ミルクだ! 目の前にミルクがある!
「あーーーーー! その手があったか!! なんで思いつかなかったんだろう!!」
完全に意識外だった。
N2達の前では動物性の食糧は死骸でも見付けない限り食べられないと思い込んでいた。
あるじゃん! 乳製品!
興奮して突然荒げてしまった俺の声に驚いて、ラズ達がピクリと体を震わせる。
「ラズ! ナイスだ! お前に頼んで大正解だった!」
「そ、そうかよ……。そんなにこれが飲みたかったのか?」
「それもあるけど、ミルクから色々作れるんだよ! チーズとか、バターとか!」
3人が不思議そうに顔を見合わせる。
多分なんでこんなに俺が喜んでいるのか分からないんだろう。
何日も植物性のものだけで過ごした辛さが!
これから起こる食文化の革命の予兆の尊さが!!
「レイ……泣くな」
「これは嬉し涙だからいいんだ。よし、早速調理に取り掛かるぞ!!」
何作ろう何作ろう何作ろう!!
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