第4話シャルロット・アルトリウム

ステージの脇から女が現れる。


流れる様な金髪は街を歩けばその辺にいる女の染めた様にへばりついた感じの下品な色ではなく、黄金の麦畑の様な山吹色。


制服の上からでは正確に判断出来ないが、スタイルは恐らく良い。端正な顔立ちはフランス人形の様だ。


台の前に立つと深々と礼をする。


この彼女が礼をしたならば自分も当然しなければならないと言う様な感覚に襲われ、礼を仕返す。


溢れ出る気品、と言うヤツだろうか。


『みなさん、御機嫌よう。この度イギリス王国より参りました、シャルロット・アルトリウムです。 よろしくお願いしますね』


と、また礼をしたので全員黙って礼をする。


『彼女はこの度イギリス王国より留学、と言う形で我が校に編入してきました。学年は2年、クラスはA組に在籍なされます』


そうして彼女は壇上から去って行った。


ザワザワと話し声が聞こえる。


「あれが...」「Sランクの編入生ってあの子だよな?」「超可愛いじゃん」「他の女子と比べると同じ女とは思えねぇよなぁ」「アンタに言われたく無いわよ」「そうよそうよ!」「でも可愛いのは認めるだろ?」「まぁね...なんか打ちのめされた気分だわ......」「あの人形みたいな子に罵られたい」「お前......」


といった感じだ。また変なヤツがいたが気のせい......気のせいだ。


『それでは、2、3年生の皆さんは退場してください。 1年生の方々はこの後説明会がありますので、それまで楽にしてください』


と、指示があったので立って退場する。混雑する前にそくさくと、だ。









教室に戻ってさっきの先に座ってしばらく待つと扉が開き、東堂先生が入ってきた。


「よしお前達、全員いるな」


扉の方を向くと


「入れ」


と言った。 すると扉がすーっと開き、女が入ってくる。


教壇に立つと礼をした。


習って礼をする。


「先ほどもご挨拶させていただきましたが、改めて。 シャルロット・アルトリウムです。よろしくお願いしますね」


ニコッと笑って言う。 かわいい


「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「踏んでいただきたい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」


みんなかわいいって言ってる中またおかしな奴がいた気がしたが気のせいだ。......気のせい、だよな?


「まぁ全員知っていると思うが彼女はSランクの魔導師だ。 この中にも優秀な生徒は何人もいるが、彼女は格が違う。 彼女から色々なことを学ばせてもらうといい」


一旦切って、また話し出す。


「とは言っても正直私も彼女に相応しい教育が出来るのかが不安で仕方がない。 私だけではなく、うちの教師陣全員そう思っているだろうがな...なにせ自分より位階ランクの高い奴だ。何を教えればいいのか......」


この学園は国立と言うだけあって国の魔術だけではなく、あらゆる分野のエリート達を教師としてスカウトしている。


魔術分野の話になるが、在籍している教師は全員Aランク以上の魔導師だ。


だが、彼女と同じSランクの魔術師と言えばこの学校には2人しか在籍していない。


1人は学園長。だが彼は正確には元Sランクと言うべきだろう。 彼はもう魔導師は引退して教育分野にシフトしたのだから。


もう1人は大学部にいる長谷 恭一はせ きょういち...だったか。そんな奴が居たはずだ。


だがどちらも高等部の授業とは直接関係はない。 基本的にはAランク~A+ランクの先生方だ。


いやまぁAランクって海外のA級リーグで熾烈な魔術戦を繰り広げていたり各地で凶悪な魔導犯罪の取り締まりをしていたりしてもおかしくないんだけどな。 寧ろなんで教師なんてやってるのかが疑問だ。


まぁ先生の不安もわかる、と言う話だ。


「あら先生、そんな事ありません。先生は私には使うことの出来ない属性魔術の黒魔術において世界でも随一のエキスパートじゃないですか」


「ま、まぁそう言って貰えるのはありがたいんだがな......あんま良いものじゃないが。」


そう。東堂先生はレア属性の黒属性を用いた黒魔術のエキスパートなのだ。


闇属性とはいささか違う、主に触媒や代償と言ったものを使う代わりに他の魔術よりも高い威力を誇る属性だ。


「それにランクで全てが決まるわけではありません。元いた学校でもAランクの同級生に負けた事もありました。戦闘経験、頭の回転、様々な要因で強さと言うものは決定します。私は先生に勝てるとは毛頭思っていませんし」


などとしばらくの雑談を挟んだ後先生は口を開く。


「では、質問タイムだ。 何かシャルロットに質問のある生徒はいるか?」


するとあちこちから手が上がる。勿論9割が男子だ。


「では岸田」


「はい! 岸田 元就きしだ もとなりです!俺は絶賛彼女募集中なんですが、シャルロットさんは彼氏いますか???」


だと思ったよ


「おいてめえ!抜け駆けは良くないなぁ!」「そうだそうだ! だが、質問内容自体はナイスと言うべきだ」「だな。僕もこれを聞こうと思ってたし」「後で踏んでいただけないか聞いてみよう......」「お前......」


今度は全員変な奴だった。1人だけ系統は違ったが......


「お付き合いしている男性、ですか? いませんよ」


またニコッと笑う。 かわいい


「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「罵っていただきたい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」「かわいい」


もう突っ込まないぞ......突っ込まないからな?


「はいはーーい!」


「ん、では浅上」


千夏も手を挙げていたのか。


「シャルロットさんってお嬢様みたいだけど、どこか名家の出身なんですか?」


こいつにしてはマトモな質問だと感心した。


「名家......と言いますか、一応ではありますが貴族の端くれです」


「き、きぞく......」


そう言えば言ってたな。 確かこの若さで当主なんだったか、大変だな。まぁ貴族ならあの溢れ出る気品と言うかオーラにも納得だ。


しばらく質問が続く。 女子は比較的マトモな質問(際どいのはあったが)をしていたが、男子はアレだ。 だがその際どいラインの質問にも丁寧に回答をしていた。


「そろそろ時間だな。 次がラストだ。 何か聞きたいことがある者は?」


「はい!」


「立松」


「スリーサイズはいくtぶふぇぁぁぁ!!!」


何がとかと思えば1つ上の段に座っている女子がバッグを立松の後頭部に叩きつけたようだ。 立松は机に延びている。 ...死んでないよな?


「先生、立松君はやはりなんでもないそうです」


「そうか。 座るといい」


「わかりました」


座る。 怖え。


「それでは時間なので今からデータファイルを配布するのでそれが終わったら今日の日程は終了だ。 明日も遅れずにくるように」


個人用端末を開くといくつかのファイルが送られてきている。 時間割とか学年だよりとかそう言うのだ。


「では今日は解散とする。 起立」


ガタガタと音を立てて立ち上がる。


「礼。解散だ」


しかしシャルロット・アルトリウム、ねぇ。


今日抱いた印象は誠実、純真、可愛いの3つだな。


まぁ同じクラスとはいえ、俺の学校生活に関わることは無いだろう......


その後俺は宗一と千夏に声をかけ、教室を後にした。

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