第71話 真夜中の来客
ふう・・・。
ん?ああ、ごめんごめん。ちょっと一息ついてるだけさ。
今ので70話か。結構話してきたけど、意外と時間が経つもんだね。
でも、夜明けまではまだまだあるし、大丈夫かな。
はは、気にしないで。こっちの話さ。君はただ、僕の百モノ語を聴いてくれればそれでいいんだ。
それじゃ、また怖い話を語っていこうか。
—真夜中の来客—
同じアパートに住んでた人から聞いた話。
その人は僕と同じアパートに住んでいる人で、確か僕より四つか五つ年上だったかな。
立派に社会人をやっている人で、まったく接点はなかったんだけど、僕のバイト先に時々来ることがあったんだ。それで、同じアパートに住んでますよねってとこから会話が始まって、挨拶以外にも軽く話す程度の関係になったんだけど。
ある日、偶然近所の居酒屋で一緒になってさ。気さくな人だから、向こうから話しかけてきてくれて、それで一緒に呑むことになったんだ。これは、その時に聞いた話。
その人がアパートに越してきて、一年ほど経った頃のこと。まだ僕が引っ越してくる前のことだね。
もう随分生活にも慣れて、何不自由なく暮らしていたある日、部屋に帰ってくるとインターホンのモニターがピカピカ光っていた。
ほら、確か、最初の方に僕の話をした時、話したでしょ?僕のアパートのインターホンって、結構いいやつが付いてて、不在の時に来客があると、モニターがその来客を録画しておいてくれるんだよ。
はて、誰だろう。宅配便の人かな。通販で何か頼んでたっけ?
そう思いながらモニターを確認すると、そこには自分が映ってた。
え?なんで自分が映ってるんだ?
不思議に思った。そりゃ当然、外のインターホンを自分で押したら録画されるに決まってるけど、そんなことした覚えはない。
よく見ると、録画されていた時刻は真夜中の3時過ぎだった。真っ暗な画面の中で、廊下の灯りにぼんやり照らされた自分が、無表情で映り込んでる。寝間着のスウェット姿で。
意味が分からなかった。一体どういうことだ。全く身に覚えが無い。昨日の夜は酒なんか飲んでいなかったし。
記憶にないけど、多分、寝ぼけて外に出たんだろう。その時にインターホンを押して・・。そうとしか考えられない。
無理矢理自分を納得させて、録画は消しておいた。
それからしばらく経ったある日の朝、目覚めると、モニターがまたピカピカ光っていた。
あれ、昨日の夜は光ってなかったのに。・・真夜中に来客?誰だろう。
確認すると、また自分が映り込んでいた。無表情で、寝間着姿で、時刻を見ると、また3時過ぎ。
見た瞬間にいつかのことを思い出した。
まただ。一体何だっていうんだ。自分は、寝ぼけて夜な夜な変な事してるのか?
不気味に思いながら録画を消していて、ふと思った。
もしかして、自分は夢遊病の気があるんだろうか?
夢遊病患者は夜な夜な寝床を抜け出して、ふらふら出歩くことがあるっていう。自分も、そうなんじゃないか?
でも、仕事が忙しいし、そんなことくらいで病院に行くのもなあ。でも、無意識の内に、部屋の外に出るなんて、危ないしなあ。
あれ?そういえば、鍵ってどうやってるんだ?
慌てて玄関に行くと、鍵はきちんと掛けられていた。
寝ぼけてて無意識でも、鍵はきちんと掛けるんだなあ。自分の防犯意識の高さに感心しながら、その日は普通に仕事に行った。
それから生活する内に、すっかりそのことを忘れてしまった。それ以来、真夜中に来客があることもなかったし、病院に行くこともなかった。
ところが、ある日、決定的な出来事が起きた。
前の晩に友人と呑み明かして、朝帰りをした時のこと。早く寝たい一心で部屋に帰ってきて、寝支度をしていると、モニターが光っている。
ああ、早く寝たいのに、誰だ、まったく。
悪態をつきながら確認すると、あり得ないことが起こっていた。
例によって、自分が映り込んでいたんだ。寝間着で、無表情で。
ところが、おかしいのは、その時刻だ。やっぱり夜中の3時過ぎだったんだけど、録画日時は今日。つまり、昨日の夜。
その時間、自分は友人とカラオケ店にいたはず。
・・・こいつは誰だ?
背筋が寒くなった。眠気なんか一気に吹き飛んだ。
紛れもなく自分だ。自分が無表情でこっちを見ている。
あんまり怖くなって、録画はすぐに消した。部屋にいるのも怖くなって、さっきまで遊んでいた友人に連絡を取って、その日は泊まらせてもらったそうだ。
ね、この話、怖いでしょ?
その人は酒を飲みながら、笑って話してくれたよ。
あの、それで終わりなんですかって聞くと、うん、そうだよって言うんだ。
全然解決してないじゃないですか、一体それからどうなったんですって聞くとさ。
どうにもなってないよ。モニターを塞いだだけさって笑うんだ。
その後、どうしようもないから部屋に帰ってきて、インターホンのモニターにガムテープを貼り付けて、塞いだんだって。画面を見えなくするために。
だから、インターホンは実質使えない状態らしいんだよ。不在時に誰が来たか分からないんだって。呼び出し音は鳴るから、家にいる時に鳴れば来客には対応できるらしいんだけどね。
気にしなければ弊害は無いし、別にそれで大丈夫だって笑ってたよ。僕は、そういう問題じゃない気がするんだけどさ。
だって、これってさ。いわゆるドッペルゲンガーだよね?
もう一人の自分が、自分を訪ねて来ているなんて、めちゃくちゃ怖いよ。
それに、その人には言わなかったけど、ドッペルゲンガーって、都市伝説とか怖い話ではさ、こういう風に言われることもあるんだよ。
ドッペルゲンガーは、本人そのものに成り替わることを目的としている。
ドッペルゲンガーに遭遇したら死ぬとも言われているし、そもそも存在するだけで危険とされているんだ。
もちろん、そんなことはただの都市伝説、所詮はただの怖い噂さ。そもそもドッペルゲンガーなんてものは精神疾患や脳の認識能力の物理的疾患から見る幻覚が原因とされているし、インターホンが故障してるだけなのかもしれない。
でも、僕は怖いんだ。それ以来、その人に会うのが。
もしかしたら、もうとっくにその人はさ・・・。
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