第44話 コックリさんの正体
そういえば、怖い話の定番でもあるコックリさんの話をしていなかったね。
コックリって、どういう漢字で書くと思う?狐狢狸、キツネ、ムジナ、タヌキって書くんだよ。
ムジナっていうのはアナグマのこと。ようするに、獣の名前で当て字してあるんだね。
動物に関する怖い話がでたから、ついでにここらでしておくとしようか。
—コックリさんの正体—
四つか五つくらい年下の女の子から聞いた話。
その子はちょっと恥ずかしそうに話してくれた。私、昔はちょっとおかしかったんですよ、って。
その子曰く、多感な時期にオカルトにハマって、霊感少女みたいに振舞っていた頃があったそうだ。
そういった本を読み漁ったり、心霊DVDを借りてひたすら観たり。友達との会話で、そういう事を急に言い出したり。いわゆる中二病ってやつかな。そんなの、可愛い方だと思うけどねえ。
ちなみに、霊感は全く無かったそうだよ。それでもオカルトに対して興味は尽きない。何もない空間を見つめては、幽霊がそこにいるって信じ込んでいたそうだ。
ある日の事。自分の部屋でオカルト雑誌を読みふけっていたら、降霊術って言葉を知った。そのページで紹介されていたのは、ひとりかくれんぼやコックリさんのやり方。
それを見た時、ふと思いついた。そうだ、幽霊を探すよりも、呼べばいいじゃないか。
思いついたら話は早い。早速やってみようと考えた。まずはひとりかくれんぼから。
ところが、ひとりかくれんぼをやるにはちょっと条件が難しい。ぬいぐるみやお米、赤い糸、縫い針。グッズは用意できても、家に一人じゃなきゃ出来ないし、真夜中に決行しなくちゃならない。
今すぐにできないんじゃ意味がない。そこでコックリさんをやることにした。コックリさんは紙と鉛筆と十円玉しか用意しなくていいし、いつやってもいいからね。意気揚々と白い紙に五十音と数字、鳥居のマーク、はい、いいえ、を書いた。
ところが、財布から十円玉を取り出して紙の上に置いた時に気が付いた。
あっ、そうだ。コックリさんは複数人でやるものじゃないか。
せっかく用意したのに、一人じゃ意味がない。あーあ、幽霊に会えると思ったのになあ。
・・・・待てよ、一人でも出来るんじゃないか?
そうだ、何も複数人でやらなくたって、一人でも出来そうじゃないか。
危険な考え方だよ、ほんとに。降霊術を遊び半分でやるなんて。何が寄ってくるかも分からないのにね。
さっそく一人っきりでやることにした。ひとりかくれんぼならぬ、ひとりコックリさんってわけだ。
鳥居の上に十円玉を置くと、人差し指を置いた。コックリさん、コックリさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら、”はい”へお進みください。
ところが、ピクリとも十円玉は動かなかった。なんで動かないの、せっかく用意したのに。
軽くやけになって、自分で”はい”に動かしたそうだ。雰囲気だけでも楽しむか。そう考えて、勝手にあれこれやることにした。
一度動かしたら鳥居の上に戻らなきゃならない。スーッと戻したら、今度は質問タイムだ。
コックリさん、コックリさん、私は幽霊に会えますか?
コックリさん、コックリさん、私は霊感がありますか?
そんなくだらない質問を繰り返しては、”はい”に動かして悦に浸っていた。なんというか、危険知らずというか、可愛いというか。
ひとしきり質問をやりつくしたら、段々と飽きてきた。もうそろそろ終わりにしよう。
その時、もうひとつ質問を思いついた。これを聞いたら最後にしよう。
コックリさん、コックリさん、あなたの正体はなんですか?
言い終えてから、気が付いた。あっ、これって、”はい”か”いいえ”かで答えられないなあ。
どうしよう、とりあえず、ゆ、う、れ、い、にでも動かそう。人差し指に力を込めた瞬間だった。
十円玉が、初めて自力で動いたんだ。
えっ、えっ、動いたっ。押さえつけていた十円玉が、勝手に紙の上をスーッとスライドしていく。怖いやら、嬉しいやら、困惑やらで頭が真っ白になって、じっと見つめていたら、十円玉はこんな言葉を差した。
け、も、の、け、も、の、け、も、の。
その三文字をひたすら往復するように、動いている。それが、段々と早くなっていって、次第に腕が付いていけなくなるほどの速さになったそうだ。
なんで、なんでっ、いやあっ。
怖くなって、手を引っ込めた。指を離した瞬間に、十円玉は机から落ちて転がった。床の上でくるくる回った後、ピクリとも動かなくなった。
ひとりで震えていると、さらに怖いことに気が付いた。
ああ、ルールを破った。途中でコックリさんを止めてしまった!
コックリさんは最後に、コックリさん、コックリさん、どうぞお戻りください、ってお願いしてから”はい”に動いてもらって、ありがとうございました、ってお礼を言わなきゃならない。途中で十円玉から手を離したら、ルール違反なんだ。もしきちんと終わらなかったら、良くないことが起こるとされている。
部屋にひとりきり。これからよくない事が起こる?
そう考えると、いてもたってもいられなくなった。すぐに十円玉と紙とライターを握りしめて、近くの神社に向かった。
もちろん、お祓いなんかするわけじゃない。コックリさんに使った紙と十円玉はすぐに処分しなきゃいけないんだ。それでコックリさんの呪いを回避できるとは思えなかったけど、とにかく一刻も早く処分したかった。
息を切らして神社に着くと、すぐに裏手に周って紙に火をつけた。燃えカスを足で粉々にしたら、今度は十円玉を処分する番だ。正面に戻って、賽銭箱に十円玉を投げ入れた。
手を合わせながら、必死に祈った。お願いします、呪いなんか嫌です。よくない事なんて嫌です、どうか助けてください。お願いします。
——ガラン。
頭上で音がした。縄を揺らしてもないのに、鐘がひとりでに鳴った。
えっ?どうして・・・。硬直していたら、今度は耳元で音がした。
はぐ、ちゃぐ、ちゃぐるる。
まるで獣が何かを咀嚼しているような音だったそうだ。
うわああっ。
ごめんなさい、ごめんなさいっ。心の中で必死に謝りながら、逃げるように家に帰ったそうだ。
その日は生きた心地がしなかったけど、それから特に変なことは起きなかったらしい。怪我もしてないし、際立つような不幸事も特にはない。
神社の神様が、お願いを聞いてくれたのかも。その子はケロッとした顔でそう言ってたよ。ちなみに、それを機にオカルトに深入りするのはやめたそうだ。
僕さ、その時聞いたんだよ。
もしかして、その神社って稲荷神社だった?
あっ・・・、そういえば、確か、そうです。
関係あるのかは分からないけど、獣の神様がけものを祓ってくれたのかな?それとも、そもそも祓えてなんかいないのかな?どっちなんだろうね?はは。
あと、もうひとつ、気にかかることがあるんだよね。
コックリさんの正体は何ですか?って聞くこと自体が、そもそもルール違反なんだけど、呼ばれたモノは、け、も、の、って答えた。繰り返し、繰り返し、け、も、の、け、も、の、け、も、の・・・。
も、の、の、け。モノノケ、物の怪。自分は物の怪だ、って言いたかったんじゃないかな?
ほんと、降霊術なんてイタズラにするもんじゃあないね。何が寄ってくるか分からないんだから。
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