第27話 骨壺
君はちゃんとお墓参りに行っているかい?
僕はね、なるべく行くようにしているよ。ちょっと前に言ったように、幽霊や神様は信じていないけれど、気の持ちようなんだ。やった方がいいんなら、迷わずやるよ。信じちゃいないけど、神聖なものを無下にはできないんだよね。
まあ先祖供養っていうのはやっぱり大事なことだと思うよ。気持ちだけでも出来るなら、しといたほうがいいと思う。昔ながらの神聖な行事だしね。
でも、そんな神聖なお墓参りにまつわる怖い話っていうのもあるんだよ。
—骨壺—
知り合いの親父さんから聞いた話。
知り合いの家族は毎年いつものようにやってくるお盆の時期に、家族総出でお墓参りに行くのが恒例行事だった。その年の夏もいつもと変わらない。帰省した家族を出迎えて、きちんと下準備をして、一家でお墓参りに出かけたんだ。
家族で近況や昔話に花を咲かせているとあっという間に霊園に着いた。早速みんなで箒やバケツを持ってお墓の掃除に取り掛かる。周りを掃いたり、墓石を磨いたり。すると途中で奥さんが、あれっ?って声を上げた。
これってどういうこと?
奥さんの方を見ると、お墓の正面にしゃがみこんで、何かを指さしてる。どうしたんだ?近寄って見ると、お墓の納骨穴が普段は蓋で塞いであるのに、ずらされていたっていうんだよ。
最近親族で納骨なんかしてないわよね?奥さんは不思議がった。もちろん親父さんの方にも心当たりはない。ここのところ親族に亡くなった人はいないし、そもそも管理しているのは自分だったから、納骨があれば連絡があるはずだ。
一体どういうことなんだろう。蓋は墓石と同じ素材だから重いし、勝手にずれるわけはない。
誰か墓を間違えたのか?不審に思って、思い切って蓋を取ることにした。えっちらおっちら重い蓋を全部ずらして納骨穴を覗くと、見慣れないものが目に付いた。
当然中には今まで収めてきた故人の骨壺がいくつかあったんだけど、その横に並ぶようにして花瓶が置かれていたんだ。一輪挿しみたいな細い花瓶じゃなくて、何本も差せるような膨らんだ形の花瓶。
なんだこれ?墓に飾る用の花瓶か?どうしてこんなところに。腕を伸ばして花瓶を掴むと、陽の光の下に手繰り寄せた。何の変哲もないただの安っぽい花瓶だ。
あれ?なにか入ってない、それ。
息子が言う。確かによく見ると花瓶の中に何かが入っている。いや、入っているというよりはみっちりと詰め込まれてる。白い枝切れみたいなものが。
何だこれ?
枝切れを一つ取りだしてしげしげと眺めていると、その正体が分かった。それと同時に背中に悪寒が走った。
これ、骨だ。
花瓶の中にいっぱいに詰め込まれていたのは骨だったんだよ。
何でこんなものが。みんな軽いパニックだ。一体誰がこんなことを。墓を間違えたにしたって、こんな花瓶に骨を入れるはずはない。
そんなことよりも何よりも、これは一体誰の骨なんだ?
不気味でしょうがない。どこの誰かもわからない骨が自分の家の墓に収められていたんだから。
けど、いつまでも気持ち悪がっていたってしょうがない。仕方がないから霊園の管理業者を呼ぶことにした。でも、業者が来たところで何も解決はしなかった。当然自分の家の名義で納骨は行われていなかったし、霊園には監視カメラなんてついていない。どこの誰がやったかなんて見当のつけようが無かったんだ。
ああでもない、こうでもないと揉めた末、結局その骨はその業者が預かることになって、その日は歯切れ悪くお墓参りを済ませて退散した。
後日、管理業者から連絡があった。結局犯人は分からずじまい。どこの誰がやったか分からないけど、質の悪いイタズラだろうってことになった。
その時、親父さんは気になって聞いたらしいんだ。一体あの骨は誰のものだったんですかって。管理業者の人はすんなり教えてくれたらしい。
あれは人骨ではありませんでした。数匹分の猫や犬の獣骨だったんです、って。
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