第19話「女子会」

「今日は茜の家で遊ぶから、昼ご飯いらないや」

「そう。行き帰り道気をつけてね」

「うん」


 茜の家に着くとすでに刹那も到着していた。

 しかし、宗藤さんの姿はない。


「ウメネーに送ってもらった。邪魔する気はなないさー、私は近くで休んでるよ。だって」

「さ、さっそく始めましょう。刹那ちゃんは初めてなんだっけ?」


 茜は手際よく刹那とナツキに手ほどきする。


「茜料理上手」

「茜は料理教室通ってるから上手なんだよ」

「ふーん、茜料理好きなの?」

「え?、えーとね……」


 ナツキは首をかしげる。

 茜がナツキを見つめる。


「先生の受け売りだけどね、料理は食べた人を幸せにできる。その笑顔を見ることがやりがい。私もそう思うんだよね」

「?」


 刹那も訳ありにナツキを見る。

 ナツキとしては二人してえ見てくる理由がわからないので首をかしげる。


「そうだ。刹那ちゃんに頼みがあるんだけどいいかな?」

「なに?」

「今度、着付け教えてくれない?」

「着付け?」

「そう。だって自分で着れるってすごいもん」

「着付けなら大丈夫、教える」

「ありがとう。ナツキは?」

「え?僕は着ないから大丈夫だよ」

「なんでよ、ありでしょ」

「ナツキなら似合う」

「似合っても着ません」


 着て外を歩いて最中に性別が変わったら不審者になるのだ。

 ナツキは最悪の光景を想像し恐怖する。


「あ……みなさん。ここで重要なお知らせがあります」


 茜は手を上げ二人の視線を集める。


「電池がないので買いに行きます」

「暑いのに?」

「ナツキが頑張って手動で回すならいいけど」

「うん、行こう……あ刹那ちゃんは大丈夫なのかな?」

「買い物くらいなら大丈夫だって」

「あと電球も買うから」


 泡だて器の電池がなくなったようだ。電池を探したが見つからない。

 茜は母に電池の予備について質問したら買わないとないかも、ついでに電球も買ってきてと頼まれた。

 近所の家電屋に向かう。


「あーどうしようナツキ」

「ん?」

「色よ色」

「あー。どんなだっけ?」

「オレンジ系だったけど種類多くてさ」


 売り場に到着し、電球を眺める。

 種類は茜の母から伝えられているので、迷うことないが色の種類の指定はなかった。

 茜は記憶から色を思い出すが、似たものが多くて決めきれずにいた。


「この色綺麗」

 

 刹那が指を指す。


「じゃ、これにしましょう」


 茜はカゴに電球を入れる。


「後は電池だね」


 電池が置いてあるコーナーに向かう。

 ナツキは刹那の手を繋いでいる。店内で万が一刹那の異能が発動しないようにだ。


「あ、気を付けて」


 ナツキは刹那の手を引き、体を寄せる。


「何あの人感じ悪」


 茜は文句を言う。

 男性客は急いでいたのか、すたすたと歩いてきた。

 危うく刹那に当たりそうになった。

 男性は謝りもせず、そのまま立ち去る。


「茜、これでいい?」


 刹那が電池を掴む。


「うん、それでいいよ。後もう一セットお願い」


 刹那はもう一つ電池を手に取る。


「え?」

「きゃ!」


 刹那が電池に触れた瞬間、刹那の影が動き、実体化した。

 そして、紙切れの如く電池を二つに裂いた。


「刹那ちゃん、抑えて抑えて」 


 ナツキが頭を撫でる。


「大丈夫落ちついてる」


 刹那の言動とは裏腹に、棚の電池を破壊し続ける。


「あ!」


 騒動の最中ナツキは店の出入り口で不審な男を見た。

 さきほどの男がこちらの様子を確認すると急いで店外に逃げ出した。


「あの人電池に何かした。だから影出た」


 刹那の説明によると、影は異能に対しても発動するとのこと。

 つまり、あの怪しい男が電池に悪さしたのだろう。逃げ出した理由もつく。


「茜ごめん、説明よろしく。後通報も」

「え?ちょっと二人とも!」


 ナツキは刹那と共に男を追うことにした。

 ナツキ一人で追うことも考えてが、刹那を置いてくのは危ないと判断した。

 なら、茜に騒動に気づいてやってきた店員に説明してもらった方が良い。

 全員で追いかけると、今度はナツキ達が通報される恐れがある。


「待ってください!」


 後ろめたいことがあり、逃げている人間は当然素直に言葉に従うはずもなく、逃げる。


「どけ!」


 逃走する男は目の前に歩いてくる女性を突き飛ばす。


「え?」

「あら。女性に手を出す殿方には折檻が必要ね」

「うわ!」


 男の腕を女性が掴み男性を投げ飛ばす。


「痛て!」


 そのまま地面に叩きつけられる。


「大人しくしないと。折れますよ?」


 女性はそのまま男を取り押さえる。


「は、ははぁ……梅姉さん大丈夫ですか?」


 ナツキは体力が心もとない。息を切らしながら追いついた。


「ウメネー強し」

「で、あんたらこいつは誰だい?追ってたんだろ?」


 ナツキもどう説明したらいいか考えると、見知らぬ男性が声をかけてきた。


「お取り込みちゅう、すいませんなー。少しだけいいですかい?」


 刹那は一歩下がる。

 ナツキはうさんくさいそうな人だと思った。


「僕は枯草言うもんです。あ、苗字のことです」


 うさんくさそうに笑う。


「僕は『千導院』の者です。そちらの綺麗な女性は、梅原さんでしたよ?」

「あら。どこで私の名前を?」

「そりゃ、紅い家の梅原さんを知らんやつはもぐりやろ。それに、僕も千導院に所属してそれなにり長いんで、お姿を見たことあります」

 梅姉の口調が変わる。


「そう。では千導院のところの枯草さんが何のようで?」

「その男、引き渡してもらえませんかね?見る限り逢引のような関係じゃなさそうですし」

「……条件次第ですかね。ひとまずそちらが引き取りたい理由を聞いても?」 

「京さん!また勝手に飛び出して」


 満が走ってきた。戦闘か?と警戒するが、京が窘める。


「実は警察の案件で……その容疑者ってのがこいつなんや」

「なるほど。では、その事件とはどういった?」

「それは……」

「京さん、さすがにそれ漏らすのはだめでしょ」


 満が遮る。


「満はそんな器の小さい男やったんか?」

「何がです?」

「綺麗な女性方が容疑者確保してくださったんや。手柄の横取りに近いんやで?なら、こちらもできるだけ要望に応えるべきやろ」

「はぁ……後で怒られても知りませんからね」


 満は肩をすくめる。


「こいつは、例の家電連続爆破事件の容疑者や」

「え?」


 ナツキは思わず声を漏らす。

 驚きと、同時に納得した。

 刹那が破壊したのは電池。つまり、この男は電池を爆発させる異能。

 なぜ家電量販店ばかりだったのか納得できる。

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