第17話「見知らぬ天井」
ナツキはショックから立ち直る。今は逃げ出すのが一番だ。
しかし、不運にここで異変に気付く。持ち上げてる刹那がやけに重く感じる。
気づけばナツキの体は女体化していた。
原咲は原咲でナツキを見るなり不審な行動を取っていた。
膝をおり、場違いにも丁寧なあいさつを始める。
「まさか……こんなところで、貴方様に出会えるとは。再会に歓喜のあまりですが、申し訳ないのですが私には用事がありまして、失礼させていただきます」
ナツキは途中で気を失った。
目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。
恐らく病院なのだろう。
「初めまして。紅い家専属の医者の柊だ」
長髪で眼鏡の男性はそう名乗った。
「君は神崎ナツキだね?」
「あ、はい。そうです」
「ナツキ起きたー」
隣のベッドに刹那が寝ていた。
「神崎ナツキさん、頭痛、吐き気、目まいなど不調はありますか?」
「……ないですね」
「なるほど、失礼する」
「え?え?へ?」
ナツキは驚きのあまり言葉を失う。
柊が眼鏡を外すと、その長髪がうねうねと動き、ナツキの腕に絡みつく。
「あ、大変申しわけない。貴方は初めてだったな。これが私の異能だ。診察なのでしばし我慢してほしい」
しばらくすると、ナツキの腕は解放された。
「協力感謝する。貴方は特に問題ない。もう帰ってもいい状態だ」
「ありがとうございます」
無事なら幸いだ。
「ひーらぎ私自分で異能使った」
「それは興味深い。それなら問題はないと思うが」
ナツキ同様に刹那の腕に柊の髪の毛が絡みつく。
「……本当だ何も問題はないようだ。あるとすれば単に異能を使った疲労だ。これは目覚しい進歩だ。刹那君。日を改めて詳細を教えてくれ」
「わかった。ナツキも一緒ね」
『ぐー』
「な、なんだ」
病室で聞いたことのない音に柊は辺りを見渡す。
「腹ペコ大王」
「あははは、ごめんなさい」
ナツキの腹の声だ。
「健康のはいいことだ。食堂へいくといい」
「あ、宗藤さんはどうなったんでしょうか?」
「彼は無事だ。恐らく今は所長と共に警察と話しているところだろう」
ナツキと刹那は食堂に向かう。
食堂に入ると何か作っている匂いが漂ってきた。
「きたきた。もうちょっとでできあがるから座ってまってて」
厨房からセバスチャンの声が聞こえる。
「あ、手伝うことあります」
「ありがとう、大丈夫よ。たくさん食べてもらえるとありがたいわね」
料理が提供された。
「いい?刹那ちゃんお残しはだめだからね?」
「えー?」
「ほら、こんだけ小さいから食べられるよ」
ナツキはひそり援護射撃をする。
セバスチャンは微笑む。
兄妹のようなやりとりを見守っていると梅姉がやってきた。
「二人共無事でなによりだね」
ナツキと刹那を確かめ頷く。
「ナツキ、あんた体育の授業は得意かい?」
「……普通です」
「そうかい。この間の校外学習だっけか?座学だけじゃなくて実技も入れようと思ってね。武術の経験ないんだろ?」
「実技ってなんですか?経験ないですね」
「まぁ、今回こんなことがあったし最低限の護身術は身に着けといて損はないよ」
「いいんですか?」
「お、乗り気とは意外だね」
『異能者』相手なので仕方ないとはいえ、刹那に守られるだけだったのは不甲斐なかった。
「覚えておいた方がいいかなって思いまして」
「ああ。今後は運動できる服でも持ってきな」
「はい、よろしくお願いします」
「とりあえず、場所だけ案内するよ、ナツキついてきな」
ナツキは梅姉に従う。
「あんたには感謝してるよ」
「え?」
「刹那さ。刹那は見てわかるようにあんたより子供だ。……あの子いないとこで勝手に言うのもあれだけどね。お前さんは言っておいた方がよさそうだね」
「……」
「あの子には家族がいないんだよ」
異能の制御で紅い家にいるかと思ったがそんな理由があったとは。
「あの歳で天涯孤独になった。普通の子供でも辛いことだろう。それに加えて刹那の異能は他人を傷つける。支えてやるべき大人も当然見てみぬフリ。うちにくるまでは本当に独りだったんだよ」
優しげにナツキ頭をなでる。
「異能の性質上、宗藤が父親の代わりのように一緒にいるけどね。けれど代わりにはなれない。良くて親戚のおじさんてとこかい?」
ナツキにも家族には見えなかった。
「刹那は人付き合いが得意なほうじゃないからね。でもお前さんがが来てからはまるで兄、姉のように喋ってるの見てほっとしたよ」
「確かに刹那ちゃんと話しますけど……なんででしょう?」
最初からあんな感じなのだ。ナツキに懐く理由がわからない。
「人間の関係は交わす言葉の量だけじゃないのさ。なにより切羽つまった状況とはいえ、刹那が自分の意思で異能を使ったんだ。今回きちんと使えたのはまぐれかもしれない。けれど、あの子にとって大きな進歩だ」
梅姉の感謝の意味が理解できた。
「本当の兄妹のように思って面倒を見ろとは言わない。ただ、怖がらずに普通の女の子として接してあげてくれないかい?」
「……それはもちろんです」
刹那に言ったように怖いとは思ったことがないし、思わない。
「ありがとよ。それとすまなかったね」
「え?」
「あんたを危険に巻き込んだ」
「だ、大丈夫ですよ。事故みたいなものですし」
「それでもだよ」
「神崎君、すまなかった」
宗藤がやってきた。ナツキを見るなり頭を下げる。
「だ、大丈夫ですよ。怪我とかしてないですし」
「責任はあれど、お前のせいではないだろ。とっとと家に送ってやんな」
車で宗藤に家まで送ってもらった。
「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂沸いてるから入って」
ナツキ湯舟に体を預ける。
思考は混ざりあう。
刹那のこと。理由は不明だが、自分が誰かの力になっているのなら良いことだ。
そして、原咲のこと。
茜に伝えることは避けるべきだろう。
何よりの疑問は原咲の態度だ。誰と勘違いしてたのだろうか。
風呂から出ると着信があったことに気づく。電話をかけるとすぐに繋がった。
「もしもし茜?」
「ごめん、寝てた?」
「ううん、お風呂入ってた」
「そう」
「で、何?」
「今度お菓子作らない?」
「……来週なら大丈夫だよ」
今週は朽平と会う約束している。
「あ、そうだ」
ふと思いつきを口にする。
「刹那ちゃんも誘っていい?」
「……」
「茜?」
「理由は?」
ナツキは正直に言うか迷った。
本人から聞いたわけではない情報を言っていいものかと。
悩んだ結果正直に伝え茜にも協力してもらうことにした。
「孤独……」
「茜?大丈?」
「大丈夫。そうね、精一杯楽しみましょう」
「うん」
「ごめん、おやすみ」
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