第12話「一人だけの校外学習」
翌日、再度図書館に向かった。
「お待たせしました。相談って何かしら?」
「忙しいのにごめんなさい、朽平さん」
ナツキは十年前に自分の通う学校で起きた失踪騒ぎを伝え新聞を見せた。
「これ詳しく調べたいんですけど、方法とかあったりしますか?」
公開されている書架には置いてないものがあるかもしれない。
「……」
「朽平さん?」
朽平の様子が途中からおかしくなっていった。
「なんで君はこんなくだらないことを知りたいの?」
「それは……」
正直に話すことはできないので、言葉に詰まる。
「好奇心は特に地獄を見ることになるわよ」
「……」
「それが自分だけならいいかもしれないけど、周りを巻き込むかもしれない」
「もしかしたら困ってる人がいるかもしれないんです。それを解決するのにこの騒ぎを知る必要があるんです」
「……」
嘘は言ってない。ナツキは朽平の目をまっすぐ見る。
「そう。実はね、私この事件知ってるんだ」
「え?」
「こう見えても私、十年前は学生だったんだ」
「まさか、朽平さんのクラスメイト?」
そうだとしたら、いきなり大進展である。
「あくまで、噂だけど異能絡みがあったとかなかったとか。下手にかかわると危ないかもよ?」
「承知の上です」
「異能だよ?怖いでしょ」
ナツキを遠ざける脅し文句にはふさわしくない。
「怖くないです。だって僕も『異能者』だから」
「え?」
今度は朽平が黙る番になった。
朽平はしばし、沈黙した後恐る恐る質問を切り出す。
「君の異能はどんなものなの?」
「体の性別が変わるときがある、です」
「……女体化ね」
朽平は再度沈黙する。
「分かったわ。来週時間とれるかしら?ちょっと情報を整理したいから」
「本当ですか?ありがとうございます」
翌日、学校に向かうとなにやら警察が付近をパトロールしたりと普段と空気が違った。
「あ、宗藤さんおはようございます」
「おはよう」
「そういえば、なんかあったんですか?」
爆発テロがあって警戒するのは理解できる。しかし、それにしては少々大げさな気がする。
「ああ、爆発テロとは別で指名手配犯が捕まったらしいぞ」
「なるほど」
「今日は校外学習だ。荷物まとめて車に乗ってくれ」
「へ?」
初耳だ。
「神崎君は普通学校に通ってるから異能の知識については世間一般と同程度しか知らないだろう?」
「それはそうですね」
「異能の専門家たちがいるんだ、そいつらから話を聞くことは貴重な経験になるだろう」
「でも聞いたところで関係ないような……」
「仮にだ、異能関連で自身に危険が迫った時知ってるのと知らないとは違うだろう?」
それはそうだ。
ナツキは紅い家に連れてこられた。
「きたね」
会議室のような部屋に案内された。中で待っていたのは先日、先輩の怪我を治していた女性だった。
「神崎ナツキです、よろしくお願いします」
「ああ。私は梅。気軽に梅姉って呼んでくれ」
「姉……」
宗藤は苦虫を噛み潰したような顔して呟く。
「神崎君、一応勉強という形だからノートだけはてきとうに書いておいてくれ」
宗藤は夕方には迎え戻ると言い、学校に戻っていった。
「さて、さっそく始めようかね」
梅姉はホワイトボートに文字を書き始める。授業のようだ。
「さて、一般的には異能は三つの分類に分けられる。それは知ってるかい?」
「はい」
「自身の体に何らかの影響を発動させるタイプ。これはナツキお前さんも当てはまる。残念だがこの犯罪に走るやんちゃはこれが一番多い。後、分りやすく捕まえやすいっていうのがあるね」
「暴行事件多いですもんね」
「次は自然現象などに影響を及ぼす異能。あんたが知ってるのだと宗藤と刹那だね。宗藤のは難しい言葉でいうなら、ベクトルの変換。刹那は影という本来実体のないモノに実体を持たせてる。他には、何もないところで炎を出したり、音波を自由に扱えたりとかね」
ここまではナツキもよく知っている内容だ。
「あまり関わりのなかったあんたには三つ目のはお決まり文句しか知らないんじゃないかい?」
「はい。それ以外としか」
「そうさね。この二つに属さないもの、または二つの混合とかね」
このタイプは他人が異能だと認識、判断することが難しい。
「一例は択一の異能だね」
当然何もわからない。
「この異能は、当人にとって都合のいい選択を常に行える。ふざけた異能さ」
「なるほど」
余計わからなくなる。
「違法カジノを一人で潰したって話がある。しかも一晩で」
ナツキは梅姉の説明を待つ。
「ようは自分にとって良い選択を取れるってわけだ。つまり、勝負するかしないか。賭け事に負けることはまずないからね」
「なるほど」
ここでようやくナツキも理解することがきた。
「でもよくそれが異能だって判明しましたね」
ただ運が良い人。で一生を終える可能性だってあるかもしれない。
「そうさね。他には他人の思考を読んだりとかね」
授業は進む。
「異能の発現は八割以上が子供の時だ。あんたもそうだね。異能と認知されたら国の指導の下住んでる地域の自治体が監視する」
それは十二分に知っていることだ。
「しかし、あんたみたいな人畜無害な異能は放置が多い。逆に他人を害する可能性があるものは、教育施設で生活することになる」
ナツキの身近に同年代の『異能者』とあったことがないのはこれのせいだ。
「因みにだが、人畜無害も興味深いよ。人間なのに一生歯が伸び続けるとかね」
まるで齧歯類のようだ。
「異能か突然変異か論争はあるけど、今のところは異能扱いさ」
内容は変わり、歴史になった。
「人類史において、一番最初の『異能者』は誰かわかるかい?」
知らない。そもそも、分かるものなのだろうか。
「そう、分かるはずもない。分かっているのは戦前に出てきたことだけだね」
「え?戦前なんですか?」
ナツキが知っているのは戦時中に発見され、戦争が終わったということだけだ。
「ああ戦前だ。けれど、数が出てきたのは戦時中だね」
梅姉は笑う。
「戦争そのもについては学生の本分だろう?私からは説明はしないよ」
梅姉から聞かされる情報はどれも初めて聞くことで、ナツキは一生懸命ノートを取った。
勉強は一度昼休憩をはさみ、夕方まで続いた。
「こんなとかね。寝ないで聞いてたのは感心だね」
「さすがに、寝れないですよ」
「そうだ、忘れてた。一つだけ真面目な質問だ」
そういう口調は変わらずだが眼差しは真剣そのものだ。
「先刻、『異能者』と一般人の間に溝があると言ったね。それはあんたも感じる通りだろう。あんたに大切な人間はいるのいかい?」
「……います」
家族に茜に。少ないがナツキには確かに存在する。
「大事にしな。失ってからじゃないと大切さが、かけがえのない物に気づかないけどね。あんたは絶対後悔する」
「はい」
「……まだあの小僧戻ってきてないね。……ナツキ、ついてきな」
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