第5話「襲撃」
『今日は全国的に晴れ。まるで君の美しさを引き立ててくれる陽気だね。次は臨時のニュースかな?また明日』
ナルシストだがイケメンで主婦に絶大な人気があるお天気アナウンサー。
ニュースはテロがまた発生したことを伝える。
「あら、珍しいわね。ナツキ、アンタがニュース見てるなんて」
「先週茜と話してこれだからね」
ナツキがリビングでニュースを眺めていたところ、母がやってきた。母はこれから出かける予定だ。
ナツキは放課後、調査のために学校の図書室に向かい、休みは近くの図書館に行こうと思っていた。
今日は休みだが、午後から宗藤が家に来る予定なのでひとまず家にいることにした。
約束した宗藤の方は思わず溜息をつく。
「おいおい。こりゃめんどくせーな」
コンビニに一度寄り、駐車場に向かっている途中面倒な事態に巻き込まれていた。
「おい。お前紅い家の、メンバーだろ」
「違う。俺は関係ない。一般人だ」
「嘘こくな、俺らは見てたんだ。あのビルから出てくるのを。兄貴達がお前んとこのせいで警察に捕まったからな。お礼しにきたんだ。悪く思うなよ」
「……俺は清掃業者でな。業務で行っただけで関係者ではない」
「道具も持たずに掃除か?」
「少しだけ顔貸せよ」
「断る」
「三人から逃げられると思うなよ?」
「ち」
見た目から推察するに二十歳前後だろう。
男三人に囲まれたこういったトラブルは多々ある。
宗藤は戦うことは好きではない。
戦うことが好きな人間の方が少ないだろう。
「死ねやこら」
男の一人が勢いよく殴りかかってきた。
宗藤は後ろに下がり、男の拳を避ける。
パンチのスピードはいたって普通だ。
拳が異様に硬いなどの身体強化の異能と判断する。
宗藤は異能の性質からよく戦闘班に回されるので『異能者』と対峙するのことが多い。
なので相手の行動でだいたい異能の種類がわかる。
異能の発現の条件、原理や仕組みは完全には解明されてないが、その人間の精神状態や願望など精神的な問題などが関係している最近の研究で判明しつつある。
「逃げんな、が……」
宗藤は男の拳を手の平で受け止める。
骨が砕けてもおかしくない一撃だが殴った男が脂汗を浮かべ地面に倒れた。
異能をかなり応用した使い方だ。
宗藤の異能は向きを変える。
拳のエネルギーの向きを変えた。
倒れた男は本来相手に与えるはずのダメージを全て己の体に受けたのだ。
反射に似ているが、反射とは異なる。
反射はただ撥ね返すのに対して、宗藤のは場合は文字通り向きを変える。
水が上から下に一直線に流れる。
反射は水の流れを下から上にあげる。
宗藤は当然同じことができるがそれに加えて水の流れを蛇行させたりなど変えることができる。
「悪いな、俺も暇じゃないしな。それにこれは立派な傷害罪だ。逮捕させてもらう」
「調子に乗るな!動くなよ。下手すりゃ殺しちまうからな」
「……玩具だろ?」
男は懐から銃のようなものを出した。
海外とは違い日本だ。実弾を放てる銃をそうやすやすと入手できはしない。
「あぁ、そうだな」
弾を撃つ。案の定、プラスチック製の弾だった。
宗藤はとっさに避ける。
「なるほどな」
避けた弾がコンクリートの地面に当たる。コンクリートが砕けた。
『手の平遊戯』
この男の異能だ。
自分が投げたり放った物の回転回数を変えることができる。
例えば、コマを回したら理論上永遠と回すこともできる。
回数を増やすだけではなく減らすこともできる。
エアガンから発射された弾の回転数を増やすことで劇的に威力を上げているのだ。
『手の平遊戯』
宗藤は地面を転がり弾を避ける。
異能は精神状態に大きく左右される。
これは統計結果であるが、『異能者』が自分の異能に名前をつけることにより安定して異能を行使できるデータがある。
『異能者』にとって名前をつけるのは一般的だ。
強化され打ち出されたエアガンの弾が宗藤の体を貫く。
が、当然の如く弾は宗藤に当たると男の方に向かい、男の体を打ち抜く。
「痛て!!」
男は倒れこむ。
「これで当分お前も異能は使えないだろう」
落としたエアガンを宗藤は手の届かない所に蹴り飛ばした。
戦いなれた『異能者』ならともかく目の前にいるのは不良上がりの喧嘩っ早い『異能者』である。
慣れている宗藤の方が優位である。
「これで、数の有利はなくなった。所詮お前らはただのガキだ。プロでも、戦闘慣れしてるわけでもない。大人しくしてろ今警察呼ぶから」
「くそが」
男達は必死だった。
相手も『異能者』だ。こちらも怪我をすることはあるかもしれないと覚悟していた。
現実は想像より悪く、宗藤の異能が何かもよく分かず、最早動けるのは一人である。
男はバタフライナイフを取り出した。
当たり所が悪くないとナイフだけで素人が相手を殺すというのは難しい。
宗藤の異能が相手ではナイフごときでは傷をつけることすらできない。
「おっとそうきたか」
本来ならバタフライナイフの範囲とは決まっている。
腕の長さだ。
その範囲に入らなければ鋭利な刃は空中を虚しく彷徨うだけだ。
が、それが急激に変化した。
男の腕がありえないほど伸びた。
宗藤は男がナイフを取り出した時点で範囲外からの攻撃を想定していたので、腕を掴みひねる。
「な!」
それとは別で男の腕が不可思議な方向に曲がった。
「……伸ばせるだけみたいだな。まぁ、綺麗に折ってやったからきちんとしてればすぐ治るだろう。刑務所の中でな」
宗藤は男達が反撃できないことを確認すると警察に通報した。
本来だと事情聴取などの時間をとられるが、自身の所属と身分を明かしそれを簡略化した。
認可組織の恩恵である。後で紅い家から書類を提出すれば終わりだ。
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