四
もう二十年以上もまえのことですが……、私はかつて高校生の頃、付き合っていたボーイフレンドとのあいだに赤ちゃんが出来てしまいました。
彼のことは本当に好きだったのですが、妊娠がわかった途端、彼は「自分は知らない、関係ない」といって逃げてしまいました。そのとき私は十七歳にもなっていませんでした。
私の両親は二人とも教師でとても厳格な人たちで、打ち明けることなどできず、担任にも親しい友人にも言えませんでした。悩んでいるうちにどんどん日がたってしまい、もうどうにもならない状況でした。
十六、七の女の子が無知と愚かさゆえに子を身ごもり、親にも教師にも言えず、そういうときどうすればいいのでしょうか?
そんなとき、唯一私の異変に気付いた近所に住む
学院では事情を打ち明けたその日に入院をゆるされ、その後私は別館で子どもを産み、その子は子どもを欲しがっている家庭にもらわれていき、幸せに暮らしていると聞きます。
両親には、私は突然発心してシスターになることに決めたと連絡し、それっきりです。両親は最初はいろいろ手紙や電話で連絡を取ろうとしましたが、最後にはあきらめて、連絡もしてこなくなりました。一番の理由は、学院長が私の事情を知らせたので、十代で妊娠した娘を呼び戻すより、シスターという聖職者になることを決め家を出た、と近所の人に言える方を選んだのでしょう。今でも実家とは連絡をとっていません。
私のような境遇におちいった女には、この「聖ホワイト・ローズ学院」は必要な場所なのです。モデルとなったアイルランドの「マグダレン修道院」はたしかに厳しい一面もありましたが、未婚で母となった女性が唯一存在をゆるされる場所だったのですよ。
日本ではその場合、中絶しか道はありませんが、中絶は恐ろしいことです。命を絶ってしまうより、救い、産むことができる場所がどれだけ必要か。
現に、今でも毎年望まぬ妊娠で女性が人知れず苦しみ、隠れて産み、どうしていいのかわからず、生まれたばかりの赤ちゃんを死なせてしまうような事件はいくつかあります。そんな苦しんでいるような女性のために国や政府は何かしてくれたでしょうか? 最近ではやっと内密出産を支援する病院もありますが、それだって全国で一か所だけです。赤ちゃんポストに託そうにもそこまで行くだけの交通費も手段もない女性がほとんどです。この「聖ホワイト・ローズ学院」は苦しんでいる女性たちによって数少ない大切なホームでもあったのです。
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