六
「……て、鉄格子? そ、それ、ひどくない? それじゃ、わたしたち本当に囚人じゃないの?」
「そうなんだってさ」
夕子の口調はひどく淡々としている。
「え? 何言ってるのよ?」
美波は驚くというより、虚をつかれたような気持ちだ。
「ここはね、悪いことをした女のためのホームだったんだって、昔は。以前は〝マグダレン・ホーム〟って呼ばれていて、堕落した女たちを集めて更生させていたんだってさ」
つまり、この聖ホワイト・ローズ学院は、以前は矯正施設のようなものだったらしい。
「な、なんなのよ、それ……」 妙に美波は背がむずむずしてくる。
「悪いことって、なによ?」
なぜか美波は反発するように夕子に言っていた。夕子に反発しているつもりはなく、夕子の向こうにいる、夕子にそんなことを吹きこんだ人物に向かって言っていたのだ。
「売春とか」
あっさり言われて美波は目を剝いた。
「マグダレンって、聖書に出てくるマグダラのマリアから取ったんだって。マグダラのマリアはもとは娼婦だったんだけれど、イエス・キリストに出会って改心して聖人になったとか」
マグダラのマリアの話は、そういえば、いつかの朝の説教のときに学院長が言っていたような。ぼんやりと美波は思い出した。あのときは興味もなくただ聞き流していたが……。
「じゃ、この学院、というのか、まえの施設のときは、ここへはそういう人が来ていたわけ?」
言ってみて、どうにも不快になる。そういう人達が使っていた建物に今自分がいるのかと思うと、不謹慎だとは思うが、自分まで汚れた気がしてくるのだ。
地域の人からは今もそう思われているのかもしれない、と思い至ると、嫌悪感が湧いてくる。
ちがうって……。夕子は首を振る。どこか頼りなげな仕草だ。
「今もよ」
「……?」
「今もそうなんだって。ここは娼婦を……救済? 助けるための学校なんだって。今もそのためにあるんだってさ」
美波は絶句していた。
とにかくその後、夕子といっしょにトイレに行くと、幸い雪葉の具合は少しましになっていたようで、どうにか二人で支えて二階に上がることができた。
「こっち。この部屋は今使ってないみたい」
山本美香がいる部屋に戻すのはためらわれ、階段から一番ちかい空き部屋に二人で雪葉を連れこみ、ベッドのうえに雪葉を落ち着かせた。
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