四
「やってんのよ!」
さらにケーキを頬ばりながら夕子は学院にたいする鬱憤を吐き出す。
「でも、それじゃ、夜、トイレ行きたくなったらどうするんだ?」
「こっそり行くけれど、見つかったら叱られる。で、カード取られるの」
「カード?」
夕子のさらなる説明に、佐藤は呆れたような納得したような顔を見せる。
「イエローカードみたいなもんか?」
「イエローカードの逆……みたいなもんかな? 向こうが出すんじゃなくて、こっちが渡すから。でも、ずるいんだよ。ジュニア・シスターとか、その予備になるプレとかは夜トイレ行こうが毎日髪洗おうがいいんだから」
さらに彼女たちに気に入られている生徒は違反行為があっても大目に見てもらったり、見て見ぬふりされて許される。
夕子のようにジュニア・シスターであるレイチェルと相性が悪いと小さなことでもあれこれ文句を言われ、カードを没収されてしまうのだ。一度などは学院長の前につれだされ、鞭で打たれるところだったが、入学してまだ一ヶ月もたっていないということで、シスター・マーガレットの取りなしで見逃してもらった。
「鞭打ちって……ひでぇな。そんなことしたら問題じゃねぇのか?」
吸っていた煙草をあやうく落としそうになり、佐藤はあわてて持ちなおした。
「それを親も納得しているんだって。全然、聞いてないよ。もう、とてもあんなところでやってられない」
ケーキを食べ終わった夕子は一息ついた。
空になった皿を見つめ、つくづくあの学院にはいられないと実感する。こうなったら、学院長も、もう退学にするしかないだろう。荷物などは、後日送ってもらえるだろうか。送ってくれなければ親に頼みこんで取りに行ってもらうか。最悪の場合あきらめても仕方ない。
親は怒るだろうが、もともと学費免除だったのだから、懐が痛むわけでもない。あんまりうるさく言うようだったら、家を出てどこかにアパートでも借りればいい。夕子ももう数日すれば十七歳になる。夕子のまわりでは十八、九で家を出て自活している者も多い。
(そうだ。すっかり忘れていたけど、もうすぐ誕生日だったんだ。もう親の言いなりになることもないじゃん。あれこれ言うんなら、家を出るって言えばいいんだ)
今の不況の時代、自立は厳しいかもしれないが、あの学院での生活を思うと、どれほど貧乏しても一人暮らしの方がましだ。
(……二度と、あんな所へ戻るもんか。ざまぁ、見ろよ)
「じゃ、そろそろ行くか」
残りのコーヒーを飲み干して席を立つ佐藤につられるように夕子も立つ。
「このまま国道つっぱしれば、もうすぐだ」
「あー、やっと家帰れる」
「でも、おまえ、親納得してんのか?」
「してない。怒られるだろうけどね」
佐藤はヘルメットを渡しながら複雑そうな目で夕子を見る。
「家着いてからのことは知らないからな」
「大丈夫」
家を出ることを決めていた夕子はすっかり気が楽になってバイクにまたがり、斉藤の背をつかむ。
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