「おはようございます、皆さん」

「おはようございます、シスター・マーガレット」

 生徒が一斉に返事をするのに美波はあわてて口をぱくぱくさせる。夕子は何もしない。

「では、朝のお掃除を始めましょう。それぞれ庭掃除、草抜き、朝食準備の手伝い、廊下の掃除、トイレの掃除と別れてください。では、えーと、こちらから二十人までは庭掃除、つぎの二十人は草抜き、そしてつぎは……」

 というふうに仕事を割り当てていく。割り当てられた生徒たちはそれぞれの現場へと向かっていく。美波たちは廊下の掃除を割り当てられた。

「また寮内へ戻るんなら、時間の無駄じゃん。寮のなかで割り当ててくれたらいいのに」

 たしかに合理的ではないが、この朝の美しい空気を吸えたのだからとくに不満もなく美波が寮へ戻ろうとすると、甲高い声がひびいてきた。

「美波と夕子は新入生ですから、トイレ掃除をするべきです」

 声の主は裕佳子、レイチェルだった。

「ムカツク」

 夕子が小声でつぶやく。トイレ掃除を割り当てられていた生徒は嬉しそうに、シスター・アグネスに言った。

「じゃ、新入生と代わってもらっていいですか?」

「なんでよ!」

 反抗する夕子に裕佳子は冷たい声で言いはなつ。

「あなたたちは来たばかりで一番罪に汚れているのですから、それだけ大変な仕事をするべきです」

「はあ?」

 夕子は憎々しげに口を開き、美波もさすがに裕佳子の言い分に腹が立ってくる。

「そうですよね、シスター・マーガレット?」

 シスター・マーガレットは困ったように微笑する。純粋な黒色というよりも、かすかに濁った黒茶の瞳が朝日にきらめく。

「そうね……。では、今日のトイレ掃除は美波と夕子にお願いしましょう。でも二人だけでするのは大変だから、あと三人は一緒に行ってあげて」

 そこでしばし誰が行くか悶着が起こったが、結局、カードの残り数が少ない生徒が、それだけ罪を犯した証拠なのだから、という裕佳子の言い分で、当てはまる生徒がトイレ掃除にまわされた。

 正直、その言い分に美波はあきれたが、何も言わないでいた。この場所では気の優しそうなシスター・マーガレットよりも、ジュニア・シスターの裕佳子の方が発言力があるのだ。

「朝からトイレ掃除なんて冗談じゃないよ」

 美波も同感だが、仕方なく寮内にはいる。寮や学校は欧米風というのか、通常の日本の学校のように履き替えることがなく、そのままのシューズだ。そのため廊下も汚れやすい。

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