2044 結論と決心

 C.E.2063_0528_1806



「面倒なことを押し付けられたな。」


 城主の執務室で、みんなは戦後報告も兼ねて、晩飯を進んた。


「天上さんはさっき言ったじゃないですか?天上さんの話なら、春ねえはなんでも聞くって。」


「それでも限度がある、いきなり2万人の捕虜とそれだけの出費を増やすとは…」


「しばらくは厳しくなるかも知れませんが、元々この辺りの駐留軍もそれぐらいの数があるじゃないですか?」


「確かにそうだが…」


「とにかくお願いね、天上さん。」


「仕方ない、ここまでの勝利を取ったからな、苓蘭も反対の理由がないだろ。」


「それはよかったですね、では城主さん、捕虜についでですが…」


「ああ、心配ない、大姫様の許しを得たあと、千月さんの言う通り、面倒を見てやる、ちょうどいい補給兵になるしな、味方のように接してやればいいだろ?」


「ありがとうございます、それと天上さん、城主さんも、出来れば、春ねえ以外の人に伏せいていてください、全部私のやることを…」


「なぜだ?」


「…天上さん、あなたも言ったでしょう?才能あるものは、嫌でも持ち出されるって。」


「ああ。」


「私、嫌です、今回は春ねえの恩を、そして貸しも返すつもりでやっていますから、この事を広まったら、どこかで利用されるかも知れません、あと危険も招くでしょう。」


 なるほど、さっき千月の命令は城主を経由する本当の理由は、これだろうな?


 確かにそうだな、利用されるのも嫌いだが、一番厄介なのは危険性だ、春ねえの父親のように、暗殺されたらゴメンだ。


 なるほど、千月の参加理由はそれか、なら何も言うことはない、確かにいつかやらなければならないことだ。



 #



 晩飯後、トイレに入った千月は、何故か洗面台の鏡をじっと見つめていた。


「ねえ、いーちゃん、私、決めました。」


『なんだ?』


「やはり私は、このまま放りたくないの。」


『放って、何を?』


「台湾の、戦争です。」


『…まさかさっきの戦いのせいで、変な感情を呼び覚ましたのか?』


「違います、実は結構前から悩んでいるのです、さっきの戦いで決心を付きました。」


 結構前から?馬鹿なことを…、絶対変な同情心、もしくは正義感が湧き出したのだろ、それとも母親のことか?


『はあ…、だから隔離をなんとか…』


「違います、色々と考えました、やはりこのまま隔離を解除したら、いい結末には成れません。」


『あん?どういうことだ?』


「まず、氷人の地への道もわからないまま、どうやって解除するの?」


『やってみなくてはわからないだろう?』


「確かに私達はまだ試していません、しかしこの数日、いや、一ヶ月での観察では、多分このままでは入れないと思います。」


『あん?根拠は?』


「根拠はありません、ただの勘です、天上さんと嚮後さん、あと錬火さんみたいな超能力者が大勢いるのに、どうして20年近くも入れないのか、その原因は一体どこにあるのか。」


『あん?それはその城壁とバリアが…』


「いーちゃん、澎湖の先生の話、覚えてます?」


『ああ?ああ…、どの部分だ?』


「氷人はどうして地球人を生かし、現代文明のみを破壊したのか、そしてなぜ、地球人との接触を避けて、あんな城壁の後ろに隠れているのか、あと戦争の激化後、元々あちこちでよく現れた氷人は、どうして一切出て来れなくなったのか。」


 …わからん、なにが言いたい?


「これはただの勘です、氷人はきっと何か深い事情があって、やむなく台湾という島を隔離し、この中に隠すつもりです、しかし台湾はただの小さな島ではなく、文明と軍事力は思いの外高く、氷人にとっては安全とは言い難い、しかし氷人はいーちゃんの言う通り、殺生を好まない種族、だから脅威に成り得る文明のみを破壊しました。」


 ああ、きっとそうだ、しかしいまの話とどういう関係が……


「氷人は多分、台湾人と一緒に、この地で平和的な暮らしをしたいと思います、しかし同時に、やはりどこか信用できない、だからあんな事をしたの、でもやった後すぐ後悔した、台湾人の恨みを買った、これじゃ台湾人との接触も難しくなった、いや、寧ろ申し訳ない気持ちがいっぱいで、台湾人との接触が恐れていた、だから最初は恐る恐ると、台湾人を遠くから観察し、交渉の機会を探すって、そう思います。」


 ……それは、ただの勘…か?違うだろう、またあのとんでもない推理力だな。


 この推測は同時に、どうしてあのロボット以降、二度目の接触は来ないという状況も説明が付く。


「そして思わぬ事態が起こった、まさかこの隔離は、地球人にあんな影響を与えるなんて、結局文明が破壊されても、地球人は新たな力を得て、相変わらずに、氷人にとっての脅威になった、だから戦争が激化した後引き篭もった、地球人を恐れていた。」


『ああ、だが例えおまえの推測は全部正解だとしても、それは氷人の地へ入る方法とどういう関係が…』


「まだわからないのですか?氷人の地では多分普通の方法では入れない、じゃないと超能力者がいっぱい居る今、とっくに破れましたわ、だったら方法は一つしか残れません。」


『…氷人側が、自分から地球人と接触を…』


「そう、ではどうやって氷人を安心させられるの?」


『…台湾人を…一丸にして、戦争をなくし、平和状態に…、そして絶対的な指導者により、台湾人全体を代表し、氷人との講和、つまり…、戦争の…平定…』


「そう、そうよ!」


『話はわかった、しかしやはりまず氷人の城壁へ行ってみる方が良いと思う、やってみなくては…』


「いーちゃん、その城壁、多分さーちゃんゆうちゃんだけでも壊せるわ、しかしそんなことしたら、さっきも言いましたよね、いい結末にはなりませんっと。」


『あ、ああ、どういう意味だ?』


「考えてもみましょう、このまま城壁を破られては、台湾人達にとって、取るべき道は一つしかないでしょう?」


『…雪崩込んて…、復讐…』


「そうよ、あと、もし私達三人だけで中に入り、城壁は元通りに回復、そして解除もせず、一生そのまま氷人と暮らせるつもりだとしても、それで本当にいいの?」


『いいはずがないだろう…』


「あと強引に入っても、信用を貰えないでしょう、あのロボットは何十何百台も襲って来たら終わりよ。」


 その通りだ、そんなことをしてもなんの意味もない。


「もし城壁が壊れたあと、台湾人からの復讐をされなくても、このまま超能力者達が野放しをしたまま解除すれば、どんなことになるのか。」


『…戦争は…拡大する。』


「そうよ、まず一つ、いーちゃんの言った通り、超能力者達がこの力を背に、地球全体に戦争を巻き込む事態が十分考えられるでしょう?」


『…ああ、おまえの言う通りだ、確かにその可能性が…いや、可能性だけではないな、ほぼ確実だろうな。』


「そしてもう一つ、いーちゃんは氷人でしょう?氷人の安全も確保したいよね?」


『それは当たり前だ。』


「しかしいーちゃん、このまま解放されたら、ここの氷人はどんな結末を待っているのか、まさかわからないとは言わないよね?」


 なっ…!なぜ…、なぜこんな簡単な理屈も思い付かないのか!?


「もうわかるでしょうね?地球人に対してこんな酷い事をする氷人は、多分…」


『言うな!聞きたくない!』


 不味い、非常に不味い…、確かにそうだ、このまま解放したら、どんな結末を待っているのか…想像もしたくない!


 例えその出鱈目なビームがあっても、流石に地球全体も攻撃できるはずがないだろう、賢い地球人はいずれ突破方法も練り出せるだろ。


「いーちゃん、もうわかったでしょう?私達の取るべき道は、もう一つしかないよ?」


 ああ、戦争を平定し、氷人との講和を成し遂げる、氷人の事情を聞き、台湾人の許しを得る、そしてゆっくりと時間を掛け、少しずつ台湾人と和解する、そうすれば、仲間思いの台湾人は、解除した後もきっと氷人を庇うのだろ…


 そんな事を成し遂げるために、地球人側には絶対的な統治者が必要だ…


「最後は、私利というのも私利ですが、成し遂げたら、私達も同時に、安全を確保されたわ、全台湾の超能力者が、私達を守ってくれるわ、解除後のいーちゃんもあんな研究所に戻る必要はない、またここにいる同胞と一緒に暮らせるわ、そして私も、生産道具になることはないの、だって超能力者を研究したいなら、ここに大勢の実験体がいるのよ?超能力者じゃない私なんか用済みよ、まあ、ここの超能力者も簡単には頷けないけどね、あと…母さんのことも…。」


 そういえば天上の目的も氷人の地にあったな、氷人達がもし何があったら、うちらは真っ先に天上に殺されるじゃないかな?


 まさかな…、まさか全ての事象が、その一点に集結しているとは…、その、戦争の平定に。


 ……ああ、今この瞬間が初めて、うちの宿主は千月でよかったっと、そう思った。


 ここまでの結論を導き出せる程、この人間の枠を超える知性、この人なら、きっと成し遂げるだろ。

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