第9話009★恵里花が聞きそこねた、神官による聖女候補についてのお話し4

ワルター神官の言葉に、名前と正反対なほど気が強く荒い撫子が大きく頷く。

 その様子は、可憐な美少女姿なのに、なぜか豪快で男前である。


 「確かに経費の無駄ね」


 ばっさりとそう言う撫子を見てから、ワルター神官に向かって、元来の気の強さで、百合が確認するように言う。


 「試練の森には、聖女候補全員で行くんでしょ?」


 どこかワクワクした響きが滲む百合の言葉に反応して、牡丹が両手を合わせて嬉しそうに言う。


 「だったら、ちょっとした

  旅行って感じで


  この国の景色を

  みんなで楽しめるよね」


 その言葉に応じて、元来は気が弱い桔梗も、コクコクしながらお話しに参加し始める。


 「途中の街で

  名物料理を味わうとか」


 勿論、おとなしいはずの鈴蘭もつられて言う。

 そこからは、年頃の女の子だけあってかしましく、ワルター神官が口を挟むタイミングをつかめず、黙って話しが途切れるのを困った顔で待っていた。

 当然、他の神官も騎士達も、黙って成り行きを見ているだけだった。

 その視線の先では…………。


 「うんうん、珍しいものを

  色々と見て楽しむとかぁ~…」


 「観光旅行って感じにして

  欲しいなぁ~………」


 「……だよねぇ~………

  その後には試練が

  待っているんだからさぁ~…」


 「ねぇねぇ…感合かんごうする

  守護獣って、神獣とか

  幻獣とか、聖獣って

  言ってたけどぉ………

  どんな姿しているのかなぁ?」


 「それって、確かに大事だよね」


 「もふもふの猫とか

  犬に近い姿だったら

  頑張れるなぁ~」


 「すべすべの鱗を持つ

  這いずりモノだと

  萌えるけどぉ」


 「ウチでヨウムを

  飼っていたから

  大型の鳥がイイなぁ~…………


  本音を言えば

  鷹とかの肉食系

  猛禽類が好きなのよねぇ」


 「あのね、ママの持ってた

  マンガに描かれた


  ネコに羽根の生えたやつぅ~…

  とても、可愛いのよぉ……


  人が乗れるくらい…

  大きな動物だったら…

  最高に…萌えるんだけどぉ~………」


 「それを言うなら

  ちび飛竜がイイなぁ~


  私の周りをさぁ………

  ちっちゃい羽根でぇ

  パタパタと飛び回るの」


 「ウチで飼っていた

  金魚みたいな

  綺麗な魚がイイなぁ~…


  水中と同じように

  空中を優雅にヒレを

  揺らして泳ぐの」


 「空中を泳ぐ

  ヒレ長の魚かぁ~

  綺麗でしょうねぇ~」


 「実は、私、昆虫も

  好きなのよねぇ」


 「カブトムシとか

  クワガタの類い?


  透き通った羽の

  トンボの類い?


  それとも

  アゲハチョウの類い?」


 「どれも好きだけど」


 「アリとかミツバチも

  面白くて好きよ」


 「えぇぇぇ~……

  抱き締めて心癒される

  もふもふよぉ」


 「冷たい鱗が1番よ」


 「だからぁ~…………」


 何時まで経っても、聖女候補達の会話が自然に途切れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る