第107話 ゼス王国朱王邸

 シャッターの前では聖騎士と剣士、スーツを着た男女の四名が横一列に並んで立ち、その背後にはズラリと控える多くの人々。


「おかえりなさいませ、朱王様」


 剣士の男が朱王に挨拶をすると、続いて背後に控えている人々が声を揃えて挨拶をする。


「お連れ様もようこそ。クリムゾン総隊長、サフラです。よろしくお願い致します」


 深々と頭を下げる白髪碧眼の男サフラ。

 彼は実質クリムゾンのナンバー2となる人物だ。


「聖騎士のイアンです」


「クリムゾン緋咲本部社長、ダンテです。よろしくお願いしますね」


「クリムゾン本部施設長、ガネットと申します。皆さんよろしくお願いします」


 幹部四人が挨拶し、千尋達もそれぞれ自己紹介をしつつ挨拶をする。


「ただいま、みんな。今日も仕事だったんだよね? お疲れ様。集まってくれているなら丁度いいし報告しようか。話には聞いていると思うけどこちらは私の恋人のミリーだ。今後私の妻となる予定だから丁重に扱ってくれ。それとミリーの所属するパーティーメンバーが今日から客人として私の邸に滞在する。くれぐれも失礼のないように」


 朱王の言葉に顔を真っ赤にしてお辞儀をするミリー。


「それと普段の仕事とは別にみんなに頼みたい事があるんだ。クイーストで先行して始めたんだが、全ての王国で娯楽を広めたいと思う。それに協力してほしい。詳細は追って伝えるのでよろしく頼む」


 朱王の頼みとはやはりテレビ局の立ち上げとモニターの設置だ。

 クイースト王国と同じように、しばらくは映画の日のを設けて上映し、いずれはテレビ局の番組を放映していく事とする。


 朱王は挨拶と簡単な報告を終え、サフラに促されて邸へと向かう。

 集まっていたクリムゾンの職員、店員達は朱王達が邸に入るまで見送って解散となる。




 車庫から出て右側に巨大な城…… 城だ! 城が建っている。

 どうやらゼス王国の朱王邸は城らしい。

 クイースト王国の邸でさえも驚く程の大きさだったが、ゼス王国の朱王邸はその数倍ともなる大きさだ。

 使用人百人以上が常駐し、幹部達も仕事でこの邸を頻繁に訪れているとの事。

 この城にも大浴場があり、室内プールも設置されているそうだ。

 玄関から入ると十数名の使用人が並び、全員が頭を下げている。


「ようこそ御出で下さいました。私、邸の使用人の長を務めさせていただくボルドロフと申します。ご用件がございましたら誰でも構いません、なんなりとお申し付けください」


 ボルドロフは白髪に髭を蓄えた執事だ。


「今日からしばらくの間よろしく頼むよ。あ、サフラ達はどうする? 今夜から泊まる?」


「では朱王様方がゼスにいる間、お世話になりたいと思います」


 これでゼス滞在中はサフラ達四人と一緒となる。

 とはいえ四人は仕事があるので遊んでいるわけにもいかないのだが。


 ボルドロフに部屋を案内され、邸の中央棟内の部屋を割り当ててもらった。

 三階の廊下を挟んで両側に部屋があり、魔力登録をしてそれぞれの部屋を決めた。

 朱王は自分の部屋がある為部屋割りは必要ないのだが。


「朱王様。そちらのお子様は……」


「私の契約している精霊で朱雀という。寝る時は刀の中だから部屋は必要ないよ。ただお菓子が好きだから用意してやってくれ」


「かしこまりました。では朱雀様、こちらをどうぞ」


 ボルドロフがポケットから取り出したのは飴玉だ。

 嬉しそうに受け取って、包みを剥がして口に含む朱雀。

 見た目通りお子様だなと思う。




 邸に到着したのが十九時頃だった為、夕食を摂る事にする。

 ゼス朱王邸の厨房に立つのは一流料理人のアルフレッド。

 クイースト王国のレイヒムにも負けない絶品とも言える料理に舌鼓を打つ。

 やはりクイースト王国とは味付けが違い、しっかりとした味付けながらも素材の旨みを引き立てるような一手間が加えられている。

 レイヒムの料理で薄口に慣れてしまった千尋達だが、旨みを噛み締めながらいつもと違った美味しさに満足そうだ。


「食事中だが報告しておかないとね。アイリはクリムゾンを抜けて冒険者になったよ。ダンテ、幹部マネージャーとして推薦する子はいる?」


 アイリがクリムゾンを抜けた事に驚く四人だったが、朱王の言葉に意を唱えるつもりはないのだろうダンテは応える。


「ではデイジーを推薦します。現在もアイリの仕事を代行してくれてるのもデイジーですし、補佐をしているマリードもいますので」


「じゃあデイジーは明日から邸に泊まるように言っておいてね。あとは君達に渡しておく物があるんだけど……」


 リルフォンを取り出して幹部四人とボルドロフ、アルフレッドに渡し、初期設定で時間を合わせて全員と魔力登録をしてもらった。

 よくわからないまま六人は魔力登録をしたのだが、通話やその他機能に驚愕する。

 ダルクなどはこれを商品化したいと思ったようだが、朱王と千尋が魔石製造機になるのは嫌なので商品化は当分先になりそうだ。


 朱王と千尋、蒼真で今後のリルフォンの活用方法を説明し、テレビ局の立ち上げと人員の確保などの構想を話し合う。

 今後必要となるリルフォンはクイースト王国で毎日作り貯めていた為、在庫は百個以上ある。

 各店店長とチーフ、聖騎士達とクリムゾン各区隊長に配る事とし、残りはテレビ局メンバーに配る事となる。


 ついでに朱王はレイヒムに渡した魔石と同じものを渡し、アルフレッドにも今後の料理の研究に役立ててもらう事にした。




 その後はサフラ達からここ最近の情報を聞く。

 王国内外縁側の村に住み着いた魔族には動きがない事、王都貴族の邸内には未だ魔族の侵入はない事などこれといって大きな変化は無いようだ。

 また、各店舗の売り上げ状況や施設への新しく入った子達の人数、学校の教育その他の相談などを受けながら今後についての話をまとめていく。


「教育というわけではないけど今後テレビ局を設立したいからね。そっちの仕事をする子達も育てて欲しいんだけどできるかな?」


 朱王は施設長であるガネットに問いかける。


「テレビ局とはどういったものなのでしょう?」


 やはりテレビ自体を知らない彼らには実際に映像を見てもらう他ないのだが、今はモニターも魔石を組み込んでいないため見せる事はできない。

 止むを得ず以前作った魔石だけで見てもらう事にする。

 しかし魔石は五つしかなかった為、急遽千尋がクイースト王国の映画の日の映像を魔石に込め、一つ追加して人数分を用意した。

 蒼真が魔石を全員に配って準備ができた。


「目を閉じて、魔石を額に当てて魔力を込めてみて」


 朱王の指示に従い六人は映像の魔石に魔力を込めて見始める。

 全て十五分程の魔石なので少し待つ事にしよう。


 ちなみに一つだけホラーの魔石が混ざっているのを覚えているだろうか。

 もちろん…… 蒼真は覚えている。




 十五分後。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 盛大に響き渡る悲鳴。

 悲鳴をあげたのは施設長のガネットだ。

 嬉しそうな表情でガネットを見る蒼真と、呆れ顔で蒼真を見るアイリとミリー。

 目を閉じて映像の余韻を楽しんでいた他のメンバーも悲鳴に驚いて立ち上がっていたが。


「部分的にだけど映画はどうだった? しばらくはこんな映画をこの国でも放映しようも思うんだけどさぁ。すぐに映画を作ったりはできないだろうけど、クリムゾンテレビ局で作ったいろいろな番組を放映していけたら楽しいと思わない?」


「こ…… こ、こ、こ、怖かったですけど途中までは引き込まれそうな程面白かったです。私の興味を引き付けて…… 引き付けて…… 引き付けて…… 一気に恐怖のどん底に叩き落とされました……」


 涙目ながらも答えるガネットは真面目だなとも思う。


「さすがは朱王様です。これを国民全員に観せようとお考えとは素晴らしい!」


「娯楽なんてほとんどないですからね。これなら子供も大人も楽しめるし、観ているだけで気分が高揚します!」


「あの蜘蛛男…… 只者じゃないな……」


 ダンテとサフラは映画に感動したらしく、立ち上がって話し合うほどに盛り上がっている。

 イアンはどうやら映画の主人公に興味が出たようだが。


「テレビ局では冒険者のクエストに同行するというのも良さそうですね。国民のほとんどが魔獣退治など見た事はないでしょうから」


「我々料理人の番組もあるとまた様々な料理が各地で産まれるのではありませんか?」


 ボルドロフとアルフレッドも自分達のアイデアを出す。

 これから始まるクリムゾンの新しい仕事に、自分が直接携わらないとしても協力したい気持ちは大きいのだろう。


「みんなからの意見を聞きながら良いものを作っていきたいと思う。今後は忙しくなると思うからみんなよろしくね!」


「「「「はい、朱王様!」」」」

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