第99話 飛行装備

 待ちに待ったワイバーンの素材が、そのなめし加工と着色を終えたとの報告があった。


 車で工房へと向かい、職人の欲しいという素材を渡す。

 上位魔獣の素材を欲しがると思ったのだが、若いワイバーンの素材が欲しいとの事。

 上位魔獣の素材は強度が高すぎて加工が難しく、良い商品を作る事が出来ないそうだ。

 若いワイバーン二体分の素材で交渉成立。

 一体分で良いとも言われたのだが、その素材の質の良さから二体分を置いてきた。

 指定した色以外の素材は全て着色をしていないが!今後使用する際に着色すればいいだろう。




 朱王邸に戻ってさっそく飛行装備を作る。


 まずは加工が簡単な聖騎士達の飛行装備から作る事にする。

 若いワイバーンの素材を切り出して次々と加工していく。

 それ程器用さが必要でもない為、全員で一気に作っていく。

 素材を切るのは千尋と朱王。

 地属性強化が高い二人であれば切り口も綺麗。

 ミスリルの工具でしっかりと形を整えながら作り込んでいく。

 図面や型もあるので同じように作るだけだ。

 魔力練度の高いメンバーは苦もなく飛行装備を完成させていく。

 もちろん聖騎士達の望んだ色で作成する為、十二枚とも全て色が違う。

 これまでは統一された鎧やローブだったが、装備にも個性を持たせる事にするようだ。


 シダー国王の飛行装備をC級魔獣素材で作ったが、ヴォッヂのはA級魔獣の素材にした。

 これは魔力練度の違いで別素材としたのだが、上位魔獣の素材は少し癖が強い。

 魔力練度が高くないと操作がしづらくなるだろう。

 ヴォッヂは聖騎士長という事もあり、その魔力練度はリゼやアイリを超える。

 その点シダー国王は聖騎士と同等といったところか。

 もう少し練度を上げてほしいところだが、訓練すれば大丈夫だろう。


 それでも見た目はほとんど変わらない。

 シダー国王の飛行装備は濃紺色に青白い飛膜だ。

 魔石の代金を支払ったのも国王である為しっかりと装飾を入れる。

 ミスリルの粉末を金色に着色して飛行装備の濃紺色部分に装飾を施す。

 ミスリルの粉末による刺青のような方法だ。

 魔力によって飛行装備にしっかりと定着するだろう。

 頼まれてはいないが旦那さん用の飛行装備も作る事にした。

 以前朱王は合ったことがある為、そのイメージで飛行装備を作る。

 深紅を好む男性で、シダー国王の装飾と同じように装飾を加えた。


 一度装飾を入れてしまうと他のも同じように装飾したくなる千尋と朱王。

 悪い癖だが仕方がない。

 全員分の装飾をしっかりと施した。






 翌日からは自分達の分を作る事にした。


 千尋の装備は当然のようにS級魔獣の素材とした。

 魔力練度の高さで千尋を超えるものはいない為当然だ。

 千尋の飛行装備は全てが純白の翼とし、金色と赤色で綺麗にミスリルの装飾を施す。

 最上級の飛行装備が完成し、その出来に千尋も大満足だ。


 蒼真の装備もS級魔獣の素材で作る。

 S級魔獣は超巨大な個体だった為素材もたくさんとれる。

 蒼真の飛行装備はシダー国王用のと同じような濃紺色に、銀色の飛膜。

 濃紺色部分には銀色の装飾、飛膜部分には濃紺の装飾とした。


 ミリーはA級魔獣の素材を使用。

 S級魔獣の素材よりも若干操作しやすい。

 ミリーは漆黒の翼に朱色の飛膜を選択。

 漆黒の翼に朱色の装飾を施し、これまでの装備との相性も良さそうだ。


 リゼはC級魔獣の素材を使用する。

 A級魔獣の素材に比べれば強度がだいぶ劣るが、その柔軟性はリゼのルシファーの軌道を遮らない為にも重要だ。

 防御の訓練もしたが、基本的には攻め、蹂躙するのがリゼの戦闘スタイルだ。

 リゼは桜色の翼に鈍色の飛膜。

 装備と合わせてもバランスが取れそうだ。


 アイリは翼をC級魔獣の素材、飛膜をA級魔獣の素材を使用する。

 アイリの戦闘能力上、少し柔らかめのC級魔獣素材ではスピードを充分に活かせない。

 あえて飛膜を硬質なA級魔獣素材にする事で直線的な速度をあげようと考える。

 色は濃いめの青紫に、少し紫を入れた銀色の飛膜。

 アイリの装備にも合う綺麗な仕上がりとなった。




 全員分完成したがまだまだ作らなければならない。

 勇飛パーティーの分とカミン達五人の飛行装備だ。


 勇飛の飛行装備はA級魔獣素材を使用し、要望通りに全て緑色の翼にした。

 勇飛のイメージから金色の装飾を入れる。

 かなり派手好きなので、金の模様をギラギラと光る程に多く入れた。


 勇飛パーティーは基本的に単色を好む。

 ナスカは深紅。

 エレナは純白。

 カインは天色。

 個人のイメージに合った色で装飾を施した。

 素材はあえてC級魔獣の素材を使用したが大丈夫だろうか。




 次にカミンの飛行装備。

 カミンは元聖騎士長、そして今は朱王に鍛えられて相当な強さを持つ。

 S級魔獣素材を使用しても問題はないだろう。

 カミンは普段から執事服を着ており、襟に青が入っている以外は黒い服装だ。

 飛行装備も全て黒で作成し、飛膜に青い装飾を入れる。

 これなら執事服に装備しても不自然さはない。

 ちなみにこの執事服は各種耐性を備えたミスリルウェアだったりする。

 調査も基本的にはこの服装。

 朱王の部下である事を誓った日から装備をも執事服としたのがきっかけだ。

 しかし執事服のまま装備はできるが飛行中は少し邪魔になりそうだ。

 朱王の装備のジャケットと同じ様に丈を短く、そして背面にスリットを入れるなどの加工をした方が良さそうだと伝えておく。


 マーリンとメイサの飛行装備はC級魔獣素材を使用する。

 二人もメイド服が装備となる。

 黒い翼に白い飛膜とし、装飾も白と黒で入れていく。

 同じ飛行装備となったが、バックルの色を変えて違いを出す。

 赤いバックルのマーリンと、薄紫のバックルのメイサ。

 魔剣の色と合わせるとまた似合いそうだ。


 そしてフィディックの分も作った。

 高い魔力量を持ちながらそれ程魔力練度は高くない為、若いワイバーン素材で飛行装備を作る。

 装備はある程度伸びるが、体がかなり大きいフィディック用にと一回り大きい飛行装備を作った。

 フィディックもカインに特注して作ってもらった執事服のミスリルウェアを着込む。

 真っ黒な飛行装備とし、装飾は髪の色に合わせて少し青味がかった銀色を入れた。


 戦闘能力を持たないレイヒムだが、最近ではカミン達と共に行動する事も多いそうだ。

 日頃から美味しい料理を作ってくれるレイヒムにも作ってあげよう。

 料理人にとってコックコートは戦闘服と言っていいだろう。

 レイヒムのコックコートは白い上着に黒いズボン。

 それならば黒い飛行装備でもいいだろう。

 朱王邸の部下達の装備が全員黒という事になってしまうが、朱王=黒い装備とイメージが湧くので問題ないだろう。

 銀色でさり気なく装飾を入れ、ベルトを赤くする事にした。


 やはりクリムゾン幹部達にも作った方がいいだろう。

 ニシブの分はすでに作ってある為、残り四枚を作る。

 いずれも魔力練度はそれほど高くない為、若いワイバーン素材でいいだろう。

 幹部達のイメージに合った色で作成した。




 邸にいたカミン達を集めて飛行装備を渡す。

 カミンが礼を言い、マーリンやメイサも喜んでくれたようだ。

 レイヒムは自分がもらえるとは思っていなかったのだろう、感激のあまり朱王に抱きついていた。

 その後土下座しようとする程に謝っていたが。

 そしてよくわからないまま受け取ったフィディックだが、朱王からもらえた飛行装備に嬉しそう。

 外に出て飛行装備を試してもらう。


 マーリンやメイサ、フィディックは空へと舞い上がり、自由に飛び回る。

 C級素材を使用した飛行装備は魔力の制御がしやすく、誰にでも扱いやすい良い素材のようだ。

 S級素材を使用したカミンの飛行装備だが、やはり魔力の制御は難しい。

 蒼真と同等かそれ以上のカミンでさえ、強化による硬度と強度で翼の動きが悪い。

 直線的な飛行は問題ないが、滑らかに滑空するのは難しいようだ。


 同じく千尋達も自分の飛行装備を試す。

 C級素材を使用したリゼはマーリン達と同じく空を自由に飛び回る。

 千尋はさすがと言っていいだろう。

 S級素材を使用したにもかかわらず、物凄いスピードで空を自由に舞う。

 C級素材の翼にA級素材の飛膜を使用したアイリは狙い通り、扱いやすさと強度が両立し、直線的な速度が高い飛行装備となった。

 蒼真とミリーはカミンと同じく苦戦中。

 翼の動きが固く、なかなか滑らかな飛行とはいかないようだ。

 しかし努力の二人は練習を惜しまない。

 カミンも含めて地面で翼の操作を練習する。

 思い思いの魔力の制御を試して、お互いに意見を交換しながら翼を動かしていく。

 少しずつ滑らかに動くようになる翼は、イメージ力と魔力の制御のバランスが難しい。

 それでも空を飛ばずに滑らかな動きができるようになるまで練習し、朱王の魔石に各々のの制御イメージを固定させる。

 元々魔石に組み込んであった同調だが、魔力制御が高くないとイメージ力と結びつけることはできない。

 個人の魔力制御とイメージ力を同調した甲斐あって、滑らかに動くようになった飛行装備。

 硬度や強度はそのままに、自由に動くようになった翼で空を舞う。


 意のままに空を舞うことが出来る装備にフィディックは号泣。

 なんでこの魔族はこんなにも涙脆いのだろう。

 まぁそれでもカミン達にも可愛がられているようだが。

 その証拠にフィディックはミスリル製の武器を持つ。

 カミンに買ってもらったそうだ。

 どう見ても大剣だが、フィディックの体の大きさから考えれば普通の両手直剣だ。

 千尋はフィディックから直剣を借りて魔力量2,000ガルドを溜め込む仕様にエンチャント。

 ついでに貴族用のドロップにも同じようにエンチャント。


「フィディックは得意な魔法は何かあるかい?」


「リゼ様から習った氷の魔法を得意とします」


 いつの間にかリゼが氷の魔法を教えたらしい。

 朱王もさすがに驚く。

 過去に行った千尋達との戦闘訓練。

 その中でリゼだけは明らかに殺意を持って攻撃をしてきたのだ。

 そのリゼが魔族であるフィディックには何故か優しいような気がする。

 少し寂しい気分になる朱王だった。


 まぁそれはともかく魔法陣をエンチャントし、精霊と契約してもらおう。

 メイサに習って魔法陣を描き、メイサの詠唱に続いてフィディックも呪文を唱える。

 召喚されたフラウはフィディックを見て震え上がる。

 朱王の時もそうだったが魔族の魔力が精霊を怖がらせるのかもしれない。

 フラウが逃げようとして後ろを向くと、複数の精霊が其処彼処に存在する。

 不思議に思うフラウ。

 もう一度フィディックを見るとあまり怖くない。

 フィディックは剣を見せて魔力球を作り出す。

 戸惑うフラウにリッカが近寄って契約するよう促す。

 何故か早くしろよみたいなジェスチャーだがいいのだろうか。

 フラウはフィディックと契約し、新たに魔族の精霊魔導師が誕生。

 嬉しそうなフィディックの魔力をフラウも感じたらしく、怯える事はなくなった。




 次は誰に渡しに行こうか。

 そんな時はリルフォンの出番だろう。


 まずは千尋が勇飛にコールする。

 残念ながらクエストに向かっているそうで、帰ってくるのは明後日になるだろうとの事。


 今度は蒼真がヴォッヂにコールする。

 何気に蒼真とヴォッヂは仲がよく、「飛行装備が出来たんだが」と伝えるとすぐに来るという。


 どれだけ急いで来たんだろう、聖騎士達が数分後には電磁移送で朱王の邸にやってきた。

 各々要望通りの色の飛行装備に喜び、今後の自分達の装備についても話し合う。

 全員が聖騎士となった事で、今後は装備のデザインを変更するそうだ。

 それぞれ飛行装備を着用して空を舞う。

 自分の意思で飛び回れる装備に全員が大満足。

 楽しそうなのでしばらく遊ばせておこう。


 やはりヴォッヂもA級素材に苦戦し、しばらくは同調に時間を費やした。

 ある程度飛ぶ事ができるようにはなったが、今後もまだ同調する必要がありそうだ。




 シダー国王にコールするのは朱王。

「飛行装備ができましたよー」と伝えると、リルフォンの向こうで騒ぎが聞こえるがこちらにすぐに向かうという。

 また電磁移送で来るのだろう。


 ヴォッヂ達同様に数分でやって来たが、国王がお供も連れずに出歩いていいのだろうか。

 飛行装備を渡してそのデザインにも満足そう。

 そして自由に空を飛び回り、その飛行性能にもご満足頂けたようだ。

 旦那さん用の飛行装備も渡したらまた喜んでいた。


 聖騎士共々飛行装備で帰っていく。




 あとはクリムゾン幹部達に渡すだけだが、カミン達が直接運んでくれるそうだ。

 ちょっとひとっ飛びして来たいのだろう。

 一着ずつ手に持って飛び立った。


 それを見た千尋達。

 朱王をチラチラと見るのは何故だろう。


「オレ達も勇飛さん達に届けて来ていい?」


 行きたいみたいなので了承する朱王。

 これで飛行装備の件も一旦終了だなと一息つく。


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