第78話 クイースト王国役所
テラスへと出て来た千尋。
椅子に座ると同時にカミンが現れる。
「おはようございます千尋様。コーヒーをどうぞ」
コーヒーを受け取りお礼を言う千尋。
昨日はコーヒーを頼んですぐに魔力操作をした為、そのまま淹れ直しとなった。
お待たせしないようにと千尋が部屋を出たタイミングで用意したのだろう。
コーヒーを飲みながら今日は何をしようかと考える。
リゼ達はまたプールで遊びたいと言うかもしれないが、まずは役所に届け出ないといけない事を忘れていた。
そのままクエストもいいけど…… 皆んなで考えよう。
いつもの魔力操作を始める。
リゼがまた早く起きて千尋に声をかけずにコーヒーをもらう。
今日から千尋に習って魔力操作をする。
完全な制御はリゼにはできない為千尋のように隠蔽する事はできないが、リゼも二十個までなら魔力球を制御できる。
リゼが制御できる魔力量の幅は4,000ガルド程。二十個の魔力球を制御した場合、一個のあたりの魔力量は200ガルド程となる。
単純に制御できる個数や魔力量を増やせば戦闘でも威力が上昇する。魔力球を一つ増やせるだけで5%も威力が上昇するのだ。
千尋は魔力球を
それでも千尋が制御できる魔力幅はおよそ6,000ガルド。
リゼの一・五倍にもなる。
少しするとアイリも今日は早く起きて来た。
千尋とリゼが魔力制御を訓練しているようなので、声をかけずにコーヒーをカミンから受け取って席に着く。
「おはよう、アイリ」
「あ、おはようございますリゼさん。今日は魔力制御ですか?」
「このままじゃ差をつけられちゃうでしょ? 私達も少し訓練しておかないといけないわよね」
「じゃあ私も一緒にやります!」
コーヒーを飲んで三人で魔力制御を行う。
ちなみにアイリの魔力制御は最大で二つまで。
魔力幅はリゼと同格の4,000ガルド程。
さすがはクリムゾンでも上位の実力者といったところ。
クリムゾンでは一つの魔力球の最大魔力量を増やす訓練だったので、分割した魔力球を制御をするリゼ達には驚いたものだ。
やはり気になるのは他のメンバーの魔力幅。
蒼真の制御個数は一個。魔力幅は6,500ガルド程。
ミリーの制御個数は不明。魔力幅は8,000ガルド程。
朱王の制御個数は十個。魔力幅2万ガルド程だ。
これは全て最大値となる。
普段の戦闘では強化や防御に回す分の魔力がある為、最大魔力量で攻撃する事はないのだが。
しばらくしてミリーが起きてくる。
「皆さんおはようございます! 千尋さんも時間ですよ!」
そう、千尋は名前を呼ばれる事で覚醒する。
挨拶を交わしてミリーもコーヒーを受け取る。
カミンは全員分のコーヒーをまた持って来てくれた。
千尋は今日も嬉しそうだが、またうまく予備魔力を増やせたのか。
今日の予定をまた話し合う。
やはりプールで遊びたいという意見もあったが、まずは役所に行ってからだ。
全員で朝食をとって出掛ける事にする。
私服を着てバッグだけ持って準備は完了だ。
朱王の邸は貴族街でもかなり王宮に近い位置にあり、役所までは距離があるが歩いて向かう。
貴族街は大きな邸がたくさんあるが、鉄柵に囲まれた広大な敷地の中の豪邸が見えるだけ。
ザウス王国でも貴族街は同じような風景なのだが、一軒一軒違った様相の豪邸は遠くからでも見ていて楽しい。
クイースト王国役所。
貴族街の街門外側、市街地側の広場に面した位置にある。
ザウス王国の役所同様大きな役所だ。
王国の近隣の街の高難易度クエストも張り出されており、張り出されたクエストの数は数百にものぼる。
受付でまずはクイーストの朱王邸に一ヶ月住まう事を報告すると驚かれた。
どうやら主人の居ない邸は、他国の超一流貴族の別荘と思われていたようだ。
まぁ
ついでにクエストボードを確認するが、ここで少しトラブルが起こった。
武器を持たずに私服のままクエストボードを見ていた千尋達は、
「おう、お前ら見ない顔だが他所の冒険者か? 武器も持たねーでクエストなんて受けたらすぐに殺されちまう。だからよぉ、姉ちゃん達はオレ達と一緒にクエスト行こうぜぇ、ゲハハハ!」
笑いながらアイリの腕を掴む冒険者。
一緒になって笑うのは同じパーティーメンバーであろう十五人程の男達。
「うわぁぁぁぁあ!! やめて下さいコモンさん!! この方達はゴールド冒険者ですよ!?」
焦ったように走ってくる受付の女性。
ゴールド冒険者と聞いて手を放すコモン。
アイリが掴まれた腕をパンパンと払う。
「本当にゴールド冒険者か? こんな女子供のいる弱っそうなパーティーがか?」
「ぜ、全員が難易度10を一人で討伐できる程の実力と報告書にあります! 絶っっっ対に揉めないで下さい!」
コモンと受付の女性が話し合っているのにもかかわらずクエストボードを見る千尋。
「ねぇ! 結構いいクエストたくさんあるよ!」
「難易度10が三つもあるしな。ザウス王国よりもクエストが多い」
「クイースト王国の北部には強い
朱王の言う超級の魔獣という言葉に喜ぶ千尋と蒼真。
それを聞いたコモンや受付の女性は震え上がる。
クイースト王国では難易度10の魔獣の恐ろしさを知っている。
半年前に市民街を襲った魔獣の群れ、難易度10の魔獣【キマイラ】が街を蹂躙した。
防衛にあたった冒険者の多くが命を落とし、市民街が広範囲に渡って破壊、多くの犠牲者が出た。
聖騎士と大魔導師、騎士団と魔術師団の総攻撃によってなんとか討伐する事ができたのだが。
そして頭上を飛んでいく魔獣の影。
超級の魔獣だ。
どうやらキマイラの群れは超級の魔獣から逃げて来たようだった。
そしてクイーストで半年前までは確認される事はなかったが、伝説として語り継がれる超級の魔獣【デーモン】。
数百年前に突如現れた、精霊を取り込んだ魔獣とされている。
「超級!? なにそれ強そう!!」
「これは期待ができそうだな!!」
「千尋さんも蒼真さんもまた一人でやるとか言わないでくださいね!」
「ミリーさんだって一人でやりそうですよ!」
「やるならまずはじゃんけんで決めましょう!」
いい話を聞けたと千尋達は満足して役所を後にする。
残されたコモンと受付の女性は言葉を失っていた。
気分良く貴族街を歩く一行。
まずは貴族街にある緋咲宝石店に向かう。
とりあえず到着の報告をして、幹部を今夜邸へ招待するとの事。
貴族街に入ってすぐに大きな広場がある。
広場を囲むように各種店が並び、全てが豪華な貴族用の店となる。
ちなみにこの貴族街、一般市民が入るには門番の審査と許可が必要だ。
買い物目的に市民街から貴族街に入る事は許されておらず、許可証を持った商人やブルーランク以上の冒険者であれば入る事が許される。
広場を行き交う人はそれ程多くはないが、誰もが皆貴族なのだろう高価そうな服を着ている。
やはり昨日私服を購入して良かった。
一般市民の私服では貴族街では浮いてしまうだろう。
広場を見渡してすぐに緋咲宝石店はわかった。
この貴族街において一軒だけ全く違った様相の建物。
煌びやかで豪奢な作りの店が多い中、シンプルに正面が全てガラス張りで室内には制服を着た店員のいる店。
そして漢字で緋咲の文字が入った看板。
「いらっしゃいませ。ようこそ緋咲宝石店へ」
笑顔で挨拶をして一礼する店員さん。
しっかりと接客が教育されているようだ。
店内に入ってすぐに「す、朱王様!?」と慌てた様子で駆けてくる女性。
「やぁ、テティ久しぶり」
「お久しぶりです朱王様! お連れの方々も始めまして! 私、クイースト王国緋咲社長、兼貴族街店長のテティと申します! よろしくお願い致します!」
挨拶をして深くお辞儀をするテティ。
千尋達もお辞儀をする。
「今夜幹部を集めて私の邸に来れるかい? なんなら泊まって行ってもいいし」
「はい! すぐに伝えて参ります!」
とりあえず要件はこれだけなので店の商品を見て回る。
店員さんも朱王を知る者は嬉しそうに挨拶し、新人はまた始めましてと挨拶をしていた。
そしてミリーを紹介するとすんなりと受け入れられ、全員がミリー様と呼んでいた。
アイリに確認したところ、アフロディーテでは朱王とミリーの交際を認めるものとすると各国に連絡があったとの事。
アイリもアフロディーテ幹部会からの手紙で報告を受けたそうだ。
アイリはアフロディーテ内でも幹部らしい。
全員と挨拶できたので宝石店をあとにする。
特に予定もないのでこの日は貴族街で観光を楽しむ事にする。
お昼前だがとりあえず昼食と思って入った店。
個室に案内され、コース料理を頼んでしばらく待つ。
大きなテーブルに次々と運ばれてくる料理。
中華料理のようだが味はどうだろう。
一口食べて顔を綻ばせるミリー。
アイリにも「これ美味しいですよ!」と勧めている。
蒼真も美味しいのか箸が進む。
千尋はフーフーと息を吹きかけながらも美味しそうに食べている。
千尋を見た朱雀は同じようにフーフーと息を吹きかけて料理を食べる。
そういえば朱雀は熱い食べ物を好まない傾向にあるが、炎の精霊が熱い食べ物が苦手とは此れ如何に。
リゼはカニと睨めっこ。
たぶん食べ方がわからなくて固まっているのだろう。
しばらくすると千尋が食べ方を説明していた。
朱王は餃子を食べて即お酒を注文。
出てきたお酒は黄色っぽくて泡もあり、まるでビールのようにも見える。
朱王はそれをグイッと飲むと「ぷはー!」と嬉しそうな表情をする。
「朱王! そのお酒はアワアワですけど美味しいんですか!?」
「うん、ビールではないけど苦味と甘さ…… そうだな、ビールをジンジャーエールで割ったシャンディガフみたいな味で美味しいよ」
ミリーが店員さんを呼んで全員分を注文。
美味しいと聞けば飲まないわけにはいかないらしい。
飲みやすいお酒でグイグイ飲める。
グラスはあっという間に空になり再注文。
アイリは初めて飲むお酒に少し戸惑いつつも、チビチビと嬉しそうに飲んでいた。
そして朱雀にはジュースが渡される。
やはり見た目子供の朱雀にはお酒を出してくれないらしい。
お腹いっぱい食べ、少し酔いも回っていい気分。
店を出る際に、邸にお酒を持って来てほしいと朱王が頼んでいた。
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