第24話 精霊魔術師

 レオナルド達の魔剣が完成した。


 あと三日ほど滞在する事にし、今日からの滞在期間中は千尋とリゼを連れての王国観光となった。


 ファンタジー世界を彷彿とさせる王国。

 多くの物語を読み、千尋がかつて想像していた世界がそこにはあった。

 リゼも王国を歩き回るなど数年ぶりとなるうえ、千尋の話す物語の王国を重ねて見る事でまた新しい見方ができる。

 蒼真とミリーはこの一ヶ月間よく王国の街を散策していた為、千尋やリゼがはしゃいでいるのを嬉しそうに見ている。


「あの! 私の家族を紹介したいんですがいいですか!?」


 という事でミリーの家に向かう。




 ミリーの家は魔法医の家…… 家というよりそのまま病院のようだった。

 お昼頃に訪れた為、休憩時間のようだ。


「お父様! お時間よろしいですか?」


「おお、ミリー、蒼真君も! それと君達もミリーの仲間の二人だね? 私はミリーの父でロイという。ミリーと仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」


 ミリーの父親は人の良さそうな中年…… にしては若く見える。


 千尋とリゼも挨拶をし、ミリーの兄、ジョニーも交えて話しをした。

 ミリーは三人兄妹の末っ子で、真ん中にマリーという姉がいるという。

 マリーは他の街に医師がいないという事で、そこに住んでいるそうだ。

 ミリーの母は王国勤めでなかなか会えないとの事。


 一時間ほど話して午後の診療時間となり、ミリーの家、病院を後にした。


「最初ミリーの家に行った時には結婚相手を連れて来たと騒がれたな」


「早とちりもいいとこです。迷惑おかけしてスミマセンでした蒼真さん」


「まぁ大事な娘が突然男を連れて来たら勘違いもするだろうな」


「お父様が蒼真さんに勝負しろとか言った時は恥ずかしかったですよー」


 確かに恥ずかしいなと思う千尋とリゼだった。






 その後は昼食を摂ってまた観光を楽しみ、ロナウド邸に戻ったのが十六時半。


 使用人が慌てた様子でミリーに駆け寄る。


「ミリー様! ロナウド様とレオナルド様が怪我をして大変なんです!」


 急いで使用人についていく四人。

 場所は訓練場のすぐそばの部屋。

 二人は身体から血を流して椅子に座っていた。


「強くなったのうレオナルド。儂は嬉しい!」


「父上こそ、そろそろ私に勝ちを譲ってくれても良いんではないですか?」


 大怪我を負いながらも楽しそうに話している二人を頭を押さえて見ているレミリア。


「お二人ともどうしたんですか!?」


 すぐに魔力を拡散して回復魔法を施す。

 みるみる怪我が治っていき、三分ほどで完全に回復した。

 ミリーに礼を告げてレオナルドが言う。


「父上と訓練していたんだけどね、やはりお互いにこの剣の性能が楽しくてついつい本気で打ち合ってしまったんだよ」


「物凄い威力でなぁ。普段通りの魔力で全力に近い威力が発揮されるからのぉ。全力で打ち合ったらどうなるだろうとお互い試したんじゃ」


「魔力の大きさから危険だと思ったので…… 私が間から風の魔法で威力を逃しました」


「とんでもない爆発になりましたね! あっはっはっ!」


「レミリアもあの威力を上空へ逃すとは大したものじゃな!」


「笑い事ではありません! 死んでしまったらどうするんですか!?」


 怒ると同時に泣きだすレミリア。


「すまないレミリア」


 となだめるレオナルド。


「レミリアに怒られた! 初めての事じゃな! いやぁしかしスマンかった、今後は気をつけよう」


 頭を下げるロナウドを見て、慌てて頭を上げさせるレミリアだった。






「ところで精霊はどうするの?」


  ハッ! と思い出したように千尋を見る三人。


「レミリアはアリアを移すの?」


「そうね。アリアとはこれからも一緒にいたいからこのケリュケイオンを器にするわ」


 レミリアはケリュケイオンをレオナルドに預けて、自分の部屋に魔杖を取りに行く。


「私は雷属性にしようと思う。父上はどうするんですか?」


「儂はやはり炎じゃな。千尋くらいしか炎を消せる奴もおらんじゃろ」


 レオナルドは千尋の使う雷属性魔法を一目見て気に入っていた。

 ロナウドはやはり得意な火属性魔法にするという。






 レミリアが戻って来ると、魔杖と一緒に精霊魔導書も持ってきてくれた。


 まずはロナウドがデュランダルで魔法陣を描く。

 レミリアから精霊魔導書を受け取り呪文を唱える。


 魔法陣が光を放ち、炎の中から現れたのはサラマンダーだがやはり羽根は生えていない。


「ロナウド様。名前をつけて魔力を渡してください」


「ふむ。ではメテラと名付けよう」


 魔力を渡すとデュランダルに飛び込んだ。






 次にレオナルドが魔法陣を描く。

 魔導書から呪文を唱えると、魔法陣が光を放つ。


 現れたのはプラズマのような球体だった。


「ヴォルトは契約者のイメージと魔力に呼応して姿を成すと書いてあります。どんな姿かイメージしながら魔力を渡してください」


 少し考えてから魔力を渡す。


「名前を与えないとね。君の名前はグロムだ」


 魔力を吸収したヴォルトが姿を変えると、光輝く猫の様な姿になった。

 一度レーヴァテインに入り、すぐに出て来ると床に着地して伸びをする。


 そしてそのままどこかに行ってしまった。


「え? あれ? 精霊ってこんな感じなの?」


「呼べば戻って来るんじゃないかしら?」


「なるほど。グロム!」


 呼んだ瞬間にレーヴァテインに電流が流れ、柄の上にグロムが現れる。


 レオナルドを見つめるグロム。


 しばらくお互い見つめ合うと、用がなかった事を察したのかまたどこかへ行ってしまった。


 ちなみにこのヴォルト。

 これまで契約した者がいないとされていたが、リゼから器の魔力容量が足りないからだと聞き、レミリアは問題なく契約できるだろうと判断した。






 レミリアは魔杖からアリアを呼び出し、新たな器となるケリュケイオンに魔力を流し込む。


 するとアリアはケリュケイオンに飛び込み、すぐに出て来たと思ったら急に飛び回り始めた。


「なんだか急に元気になりましたね。今までとても物静かな子だったんですが……」


「器が変わると精霊も変わるのかしらね? 私が以前契約してた精霊も大人しかったし」


 魔導書にはそんな内容は一切書かれてはいない為、調べようがない。






「精霊との契約が終わったんなら、次はエンチャントはどうする?」


 千尋の中では当たり前となった能力エンチャント。


「エンチャントとはなんじゃ?」


「この魔剣に能力を付属させるんだー。ミリーのメイスなんかは振動を打ち消す能力をエンチャントしてあるよ。リゼのは二十枚の刃を魔力で連結させてるし、蒼真のは…… あれ? 知らないや」


 蒼真にも魔石を渡したのだが。


「ふむ。そんな事もできるのか」


「簡単な条件に限るけどね!」


「それなら私は斬撃を飛ばしたい。私や父上は遠距離魔法は得意じゃなくてね」


「斬撃に魔法が乗っていれば飛ばす事は可能だよ」


「ではそれでお願いするよ」


 レーヴァテインを受け取って魔力2,000の魔石を当ててイメージする。


【使用者の意思で魔法を飛ばす】


 をエンチャント。


 さっそく試してみるレオナルド。

 ある程度控えめに魔力を練り、剣から風魔法を放つ。

 剣を振った速度で放たれる風の刃は、20メートルほど離れた壁に浅い傷をつける。


「この距離で放って傷をつけるほどの威力があるとは……」


「ぬぅ。とんでもない能力じゃな……」




「では私は圧縮をお願いしたいのですができますか? 風魔法は拡散してしまうので圧縮したら威力は上がりそうですよね?」


「レミリアさん、それ良いね!」


 ケリュケイオンを受け取って魔石を当ててイメージする。


【使用者の意思で魔法を圧縮する】


 をエンチャント。


 何もない場所でアリアの風魔法を発動し、レミリアの意思で圧縮する。

 10メートルほどの範囲の暴風が2メートルほどの球状に圧縮され、風のミキサーとなっている。

 中に取り込まれれば、肉塊すら残らないのではというほど凄まじい。


「レミリアは恐ろしい魔法を完成させてしまったね……」


「リゼから聞いた千尋さんの魔法を参考にさせていただきました」


 圧縮した風の球にとても満足そうなレミリアだった。






「むぅ。二人とも凄い能力を思いつくのぉ。儂はそうじゃなぁ、千尋に決めて欲しいのぉ。できれば千尋が苦戦しそうな能力を付けてくれぬか?」


「なにそれ!? オレが苦戦しそうなのー? そうだなぁ、ミリーの振動を打ち消す能力の反対、強い振動を与える激震なんてのはどお?」


「なかなかおもしろそうじゃな。それで頼む」


 デュランダルを受け取って魔石を当ててイメージする。


【対象に衝撃と振動を与える】


 をエンチャント。


「これ地面で試してね!!」


 ロナウドに渡して距離を取る千尋。

 デュランダルを逆手に持って魔力を込め、普段の訓練で放つ程度の魔力で地面に突き立てる。

 大地を揺るがす衝撃と爆音が鳴り響き、ロナウドの足元から地面が砕けた。

 一同唖然とする中、ロナウドが笑顔でこちらを振り向く。


「これは凄いのぉ。訓練には使えぬ!」


 おっさんがはしゃぎ始めた。


「千尋。これはやり過ぎじゃない!?」


「もうロナウドさんとは戦わないからいいんだよ!」


 顔を引攣らせたリゼに、無責任な千尋の言葉が返された。


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