第14話 NO MORE ゴミ屋敷
「なっなんですかこのゴミ屋敷は!?」
数日後、荷物の入ったダンボール箱と共に源治の住処にやってきた亜紀はその有様を見て目を剝いた。
そこは人の生活圏から少し離れたところにひっそりと立っていた洋風の屋敷だったが亜紀の言葉通り屋敷の内外にゴミが溢れる惨状と化していた。
「おー来たか。ちょっと待ってろ・・・・・・オラァ!」
亜紀の叫び声を2階から聞いた源治がゴミ袋をかき分け玄関にたどり着くと扉の前のゴミごと扉を蹴り飛ばす。
「まぁ上がれよ、中はちょっとは散らかってるが一応お前の部屋のスペースは確保してるからよ。しかし焦ったぜ、お前が「上官の身辺のお世話も部下の努めです」つって俺の家に転がりこむって言ったときは・・・どうした?腹でも痛いのか?」
源治の言葉に反応せずに体を震わせるだけの亜紀に源治が疑問を投げかけると。
「駄目です!こんなのは人の住む環境ではありません!荷解きの前に掃除をするべきです!」
そう吠えると呆然とする源治を置いて荷物を持ってきたレンタカーに乗り込みどこかへと走り去ってしまう。1時間ほどすると源治は屋敷の中からエンジン音とそれが止まる音、そしてそこからドアを開けてドタドタと慌ただしく誰かが出てくる音を聞いた。
「さぁ大掃除の開始です。無論源治殿にも手伝っていただきます!」
「俺はこのままで十分なんだ「いけません!」」
ゴム手袋とゴミ袋を渡された源治の言葉を遮り亜紀が吠える。
「健全な魂は健全な肉体に宿るといいます!いかに強靭な肉体の源治殿であろうともこのようなゴミ溜めに住んでいるならばもはやその身はゾンビと同じ!故に源治殿の魂もゾンビ同然ということです!わかったら返事!」
「・・・・ういっす」
「声が小さぁい!」
「っ押忍!」
部下のはずの亜紀の気迫に押されて言われるがままに源治は掃除を始める。途中ゴミの山に紛れていたアダルトな本を亜紀が見つけてしまい恥ずかしさから源治に投げつけるとそれが頭部に直撃。結果バランスを崩した源治が2階から落ちたりしたが、夕方には屋敷の半分を人が住める空間へと掃除することができた。
「すげえなこの家の床なんて久しぶりに見たぞ」
「なんとか・・・ここまで・・・できましたか。続きは明日ですな」
「明日もやんのかこれ?」
「当たり前です!この屋敷すべてが人の住める環境になるまでやります!というか源治殿の住んでいるこの場所が一人暮らしにしては大きすぎるんですよ!」
「・・・話すと長くなるんだが訓練生時代の実戦訓練だけじゃ足りなくてな。技の実験台としてメタルなスライム感覚でヤの付く自由業の奴らをしばき回っていたら向こうから白旗上げてきた。結果地上げで所有者がいなくなったこの屋敷と軽く「おねだり」して追加でバイク貰ってよ。ありゃ儲けもんだったな」
タバコを吸い一服しながら語る源治を見て源治の言うおねだりが可愛いものではないだろうと感じた亜紀は苦笑いする。と同時に源治が戦闘において非凡なのは才もあるだろうがこの飽くなき闘争心でないだろうかとも感じた。
「まぁ源治殿らしいエピソードですな」
「これが俺らしいって普段どんな噂されてんだ俺?」
きれいになった屋敷内に亜紀の荷物を運び込みながら話す二人。
「んー、そうですね。有名なのだと怪異を専用の武器や術式じゃなくて素手で殴り殺したとか同期の訓練生全員と順繰りに組み手をやって全員叩きのめしたとか・・・・あと一番有名なのは胸が大きい女性なら見境なく声をかけ過ぎて半径5メートル以内に女性が近寄らなくなったですかね?」
ジト目で源治を睨む亜紀の視線が源治を突き刺す。
「・・・まぁ、今言ったことは全部真実ではあるな。・・・最後のも含めて」
流石に最後の噂を出されるとバツが悪いのか口ごもる源治。そんな他愛もない話をしながら作業していれば荷物の運び込み自体はものの30分程で終了した。
「よっしゃ、作業も一段落したし飯でも食いに行くか」
最後の箱を置き終わった源治がバキバキと背骨を伸ばしながら伸びをする
「そうですか、では私はここで待っています!」
背筋を伸ばし敬礼までする亜紀に源治はやれやれと頭を横にふると
「何いってんだ、お前も来るんだよ」
そう言って亜紀の後ろ襟を掴むとズルズルと引っ張っていく。
「あっちょっちょっと待ってください!」
引っ張る源治の腕を亜紀が振り払うと
「何だよ、なんか文句でもあんのか?」
「いやっ文句というか・・・その・・・男女が揃って外食というのはまるで、あ、逢引では?」
最後の方はまるで蚊の鳴くような声で顔を赤くして縮こまってしまう亜紀に対して源治は
「あいびき?何だそりゃ肉でも食いてえのか?いいからとにかく行くぞ」
亜紀の言葉に源治は首を傾げるとそのまま亜紀に背を向けて歩き出す。その背中を見た亜紀は
「私が・・・源治殿と・・・逢引」
少しの間両手で自分の頬を抑えると小走りで源治の後を追う。そして源治が運転するバイクに乗り向かった先は牛丼屋ではあったが亜紀は終始嬉しそうにしており源治はそれを見て変なやつだと怪訝に感じたという。
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